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9話 強大な魔物 その2

「緑の竜ね……また凄いのが出現したわね」


 春人がグリーンドラゴンとにらみ合っている中、アメリアはドラゴンのスペックについて考察をしていた。ドラゴンの外郭は鋼鉄の肉体とされており、大砲の一撃すら弾き返す。また、自動回復の能力も備わっており、傷が自動的に修復されていくのだ。


「春人に外郭を破壊し、回復を妨げるほどの能力があるかが鍵ね」


 春人の防御は不意打ちとはいえ、先ほどの一撃で貫通されることがわかっている。長期戦は不利になるとアメリアは呼んでいた。


「グオオオオオオオッ!」


 鼓膜を破りかねない程のドラゴンの咆哮。周囲の木々はそれだけでなぎ倒されそうな勢いだ。そして、間髪入れずにその巨体を振り回し、尻尾の一撃が春人を襲った。


「くそっ! 速い!」


 春人は咄嗟に地面に這うように体を下げて、尻尾の一撃を回避した。尻尾は春人の後方の樹木をなぎ倒し、そのまま更地に変化させた。

 その攻撃で一瞬だが、ドラゴンの動きが止まる。その隙を春人は見逃さなかった。すぐに態勢を立て直し、先ほどの不意打ちのお返しとばかりに鉄の剣をグリーンドラゴンに突き立てた。


「ガアアアア!」


 大砲の爆発をも防ぐとされるドラゴンだが、春人の一撃はそのままドラゴンの外郭を貫通し、深手を与えることに成功した。


「よし、もう一発だ!」


 剣を抜きさらに春人はドラゴンの首筋辺りを切り裂く。そちらもそれなりの傷を与えた。

ドラゴンは春人に反撃は出来ず、その場でよろめくだけになっていた。その段階で春人はドラゴンから離れ、少し間合いを取った。


「やっぱり回復してる。でも、そこまで回復力は高くないタイプかしら?」


 春人がつけた傷の修復をされていることに気付いたのはアメリアだ。しかし、その速度は大したものではない。春人が優勢の状態だ。




「よし、行ける! でも……」


 春人はドラゴンの傷が回復していることにも感付いた。しかし、このまま攻撃を続ければ、それ以上のダメージを与え続けられることも予測した。

 だが、春人の持つ鉄の剣も刃こぼれを起こしていた。今までバジリスクや亡霊剣士を斬ってきた剣ではあったが、ここに来てドラゴンの外郭には適わなかったようだ。いかに春人が振りぬく一撃とはいえ、大砲も防ぐ外郭では分が悪かったということだろう。


「短期決戦で一気に勝負を決めるしかないか……なんだ!?」


 春人は短期決戦を想定し、追撃を仕掛けようとした。しかし、その時、グリーンドラゴンの身体が青く発光し始めた。明らかに先ほどまでとは雰囲気が変わっている。


「ハイパーチャージ……まさか、そんな能力もあるなんてっ!」


 ハイパーチャージは30秒~1分程度、対象の攻撃力や防御力、速度などを2倍に増強する魔法である。単純に2倍になる為、素の能力が高い方がより効果は大きい。強靭なドラゴンがハイパーチャージを行えばどうなるか……それは容易に想像できた。


 そして放たれる先ほどと同じ一撃。しかし、速度と破壊力は比べ物にならなかった。


「春人っ!!」


 強烈な尾撃は春人を捉え、天高く彼を吹き飛ばした。思わず我を忘れるアメリア。その表情は今まで見たことがないほどに飛ばされた春人を心配していた。


「春人! ちょっと、嘘でしょ!?」


 7年間の間の経験はこの瞬間は消失していた。彼女は傍目には一人の少女としか映らない。それほど無防備な叫び。

 しかし、吹き飛ばされた春人は地面に叩きつけられることはなく、そのまま態勢を立て直し、近くの木の上に着地した。


「アメリア、取り乱し過ぎじゃないか? 君らしくないぞ……いててっ!」

「なっ!? バカ言わないでよ! 別に取り乱してなんかないって!」


 自分の恥ずかしい部分を見られたかのように、アメリアは明らかに焦っていた。春人はそんなアメリアににこやかな笑顔を向ける。しかし、ダメージは大きいようだ。彼の表情には余裕がない。グリーンドラゴンは木の上に立つ春人を見据え、強烈な咆哮を繰り返していた。


「ハイパーチャージは1分が限界よ! それまでの勝負ね!」

「……1分か、わかった!」


 木から飛び降りた春人はそのままハイパーチャージ中のグリーンドラゴンと交戦を再開した。春人も本気を出しているのか、先ほどまでとは纏っている気配が変化している。そして、身体能力が2倍になっているドラゴンと互角の打ち合いを披露したのだ。


「……すごいっ」


 さすがのアメリアもこの時の春人の動きには、加勢という言葉も忘れて見惚れていた。今の彼であれば、ハイパーチャージ中のドラゴンですら打ち倒せる。そう確信させるほどの速度。


 倍加したドラゴンの攻撃を受けたのは最初の一撃だけであり、それ以後はギリギリのところで躱している。だが、防御も2倍になっているのでドラゴンに致命傷は与えられず、鉄の剣は確実に刃こぼれが進んでいた。


 ある意味では根気の勝負……その戦いを敢えてアメリアは加勢せずに見守った。そして、1分という時間……相当に長く感じたその時間は過ぎ去った。



「光が……消えた!」

「いけぇぇぇぇ春人!!」



 ドラゴンを包む光が解除され、ハイパーチャージが解かれた。明らかにドラゴンの身体能力が減退している。春人はその瞬間を見逃さず、刃こぼれをきたした鉄の剣を強く握りしめ

そのまま全力でドラゴンを切り裂いた。


「ギャァァァァァァ!!」


 賢者の森全体に響き渡りそうな断末魔を上げ、グリーンドラゴンは地面に崩れ落ちた。首筋を深く抉り取ったことが致命傷になり、大量の返り血を春人も浴びることになってしまったが、その返り血はドラゴンの肉体と共にすぐに消滅していった。



「いてててっ!……返り血も消えるのは変な感じだ……当たり前なんだろうけど」


 鉄の剣は最後の渾身の一撃でとうとう限界を迎えたのか、刀身は折れ曲がり春人が握っているのは柄の部分のみになっていた。

 春人自身も疲れ果てたのか、その場に座り込んだ。身体中に痛みは走っていたが、強敵を単騎で撃破した達成感が心地よく彼の全身を駆け巡った。


「お疲れ様、春人」

「うわ……アメリア……!」


 座り込んでいた春人の後ろからアメリアは抱きついてきたのだ。背中に走る感触に思わず彼は我を忘れる。


「ドラゴン退治のご褒美よ、悪くないでしょ?」

「う、うんまあ……そうだな……いいと思う」


 素直な春人の反応に笑いながらも満足気なアメリアだった。彼女なりの賞賛なのだろうか。


「二人がかりでさっさと仕留めた方が良かったわね。まさか、ハイパーチャージを使えるなんて思わなかったし」


 春人にアメリアはハイパーチャージについてそれとなく語る。この魔法は身体能力を2倍にするが、相当に高レベルの魔法に該当するのだ。それがモンスターであるドラゴンが使えたことに、彼女は驚いていた。


「そんなに凄い魔法だったのか……ドラゴンの身体能力が2倍になるだけでも恐ろしい。1分間の期限付きとはいえ。しかし、俺たちコンビなのに二人で戦ったことないな、そういえば」

「そりゃ、本気で二人がかりなんてしたら無敵だしね。必要がないっていうか。ただ、春人の装備は舐めすぎ、なんでドラゴンに鉄の剣なのよ」


 アメリアは春人の折れた剣を見ながら、軽く彼の頭を小突く。春人もそれには苦笑いをしていた。


「わかってる……帰ったら、装備は新調するさ」

「当たり前でしょ。前に取ったレアメタルで強力な武器作るわよ」

「ああ、わかった……って、いててててっ! さっきから左腕に激痛が走るよ……!」

「左腕? どれどれ……あ~あ、折れているわね、これ」


 アメリアに指摘され、春人も左腕を見る。見事に腫れ上がっており、容易に骨折していることが理解できた。ハイパーチャージ状態のドラゴンの一撃を受けた際の怪我である。


「私は回復魔法は使えないし、回復薬持ってきた方が良かったわね。まさかこんな怪物出てくるなんて予想してなかったから。信義の花使う?」

「いや、さすがに依頼の品に手を出すわけにはいかないだろ?」

「まあ、それはそうなんだけど。ま、あんたなら自然回復早いだろうし、とりあえず添え木でも作って応急処置しましょうか」


 アメリアは手際よく周囲の木々で添え木を作り、巻きつける布は自分の服を破いて用意した。


「……」

「どこ見てんのよ?」


 アメリアの肌が露出したことでなんとなく春人はそこに視線を集中させていた。すぐに気づかれてデコピンを受ける。もちろん、アメリアは怒っている素振りはない。すぐに春人の腕に添え木を設置し、応急処置を完了させた。


「改めてお疲れ様、春人。その装備でドラゴン単騎討伐は自慢できるわよ。また出現しても面倒だし、さっさと戻りましょ」

「でも、なんであんなレベルの違うモンスターが現れたのかな?」


 春人の素朴な疑問にアメリアは考える。


「断定はできないけど、可能性として高いのは隠し扉ね。ミルドレア・スタンアークが既にシュレン遺跡の隠し扉を開けたのであれば……より強力なモンスターが自然発生してもおかしくはないかも。このトラップは遺跡発見時に周囲にモンスターが発生するものと同じ要領だろうし」

「なるほど……じゃあ、スタンアークが小屋に居ないのも、遺跡の隠し扉の探索に行ったからか」

「多分だけどね。さすがに確認している時間はないわ。私達も依頼の途中なんだし」


 春人は彼女の言葉に頷いた。春人自身も怪我をしている以上、これ以上の探索は危険との配慮もあるのだろう。二人はアーカーシャの街へと戻る。その手に信義の花を携えながら。


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