89話 2か月後のアーカーシャ その1
ソード&メイジ……彼らの活躍の中で最たるものと言えば、アルトクリファ神聖国での戦闘ということになるだろう。アーカーシャに於いても、その事実は深くは知れ渡っていなかったが、彼らの中では現段階で最強の者たちとの攻防だったわけだ。
それから2か月の月日がアーカーシャでも経過していた。人口8万人の共和国として現在は成立しているアーカーシャ。まだ自治都市としての意味合いが強いが、周辺国家にも認められつつあるのが現状だ。
「エミルちゃん! ビール5人前追加で頼む!」
「はい! ただいま!」
「エミルちゃん! こっちも注文お願いするぜ!」
「はい! 少々、お待ちください!」
アーカーシャの中でも人気店の1つであるバーモンドの酒場「海鳴り」。看板娘であるエミルは本日も忙しく働いていた。彼女の容姿と真面目な性格は冒険者の間でも人気は高い。そして、そんな彼女に負けず劣らずの看板娘になりつつあるのが、天音美由紀である。
エミルと同じようなほどほどの露出度の衣装を身に纏い接客を着実に行っている。スカートの長さは膝が隠れるくらいなので、決してミニスカートではない。スタイルはエミル以上の美由紀だけに、彼女のファンも爆発的に増えていた。
それは「海鳴り」の売り上げにも確実に貢献する内容であったのだ。バーモンドは決して表には出さないが、内心ではウハウハである。経営者である為に、そういった感情は仕方のないことなのだ。
そして、その日の仕事が終わったエミルと美由紀は、二人でお風呂へと入った。それから寝室へと向かう。寝るまでは、二人はどちらかの部屋で遊ぶことが日課となっていた。仲は相当に良いと言えるだろう。
「そういえば、春人さんはお元気でしょうか」
「そうね。まあ、彼のことだから調子が悪いということはないと思うけれど」
時折、彼女たちは春人の話題を口にする。両者とも春人に惚れているだけに、一緒に居るはずのアメリアとの仲を心配しているのだ。
「春人さんは答えを出すのを保留にしていると聞いています。現在でもアメリアさんとは恋人関係ではないと思いますけど……」
「そうね。アメリアなりの義理なのかもしれないわね。正直、彼女が諦めたとは思えないけど……こんなことを言っては高宮くんへの気持ちが丸分かりね」
「うふふ、そうですね。でも、春人さんと公に恋人同士なのは私ですから。ある意味で一番春人さんに近いと言えます」
エミルの自信満々の言葉に美由紀は軽くむくれて見せる。もちろんエミルにも冗談ということが伝わるように。エミルを危険から守る為に、公には春人と付き合っているということになっている。
現在はそれが嘘だと知っている者も多いが、一定の抑止力にはなっているのだ。エミルは自らが一番春人に近づくためには、その状況を利用するのが確実と考えていた。彼女は意外にしたたかな一面もある。
美由紀もエミルのそんな一面を理解している。そんな一触即発の状況でもあるが、彼女たちの仲は進展していった。レベル110まで上昇している美由紀は、エミルの護衛役も担っている。春人から言われたことを律義に守っているのだ。
リザード退治の時には、名前呼びをすることを決意した彼女であるが、恥ずかしさが勝ってしまい、現在は「高宮くん」に戻っている。春人も「委員長」という呼び名から変えていない。彼女たちの進展は果たしてあるのだろうか。
もしも進展があれば、一気に他の女性陣を追い抜く可能性はある。日本では同級生で相思相愛だったことは紛れもない事実なのだから。
二人の談笑はその後も続き、夜更かしの時間になるころには、それぞれの部屋に戻って行った。
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「アルマーク~」
「あれ、イオ? どうしたの?」
次の日、ギルドの前には「センチネル」のメンバーであるアルマークとイオの姿があった。二人はゴイシュの件を機に付き合いだしており、現在まで仲良く過ごしている。
「なんだか、ご機嫌だね。また、オルランド遺跡に行く?」
アルマークはイオの機嫌の良さから、冒険に出たいのではないかと推測した。アルマークとイオの二人はこの2か月で相当にパワーアップを果たしており、実力はSランクレベルになっていた。もうじき、Sランクへの昇格も確定しているのが現状だ。
二人ともレベルは100を超えるほどになっており、オルランド遺跡の7階層までの制覇が可能となっていた。この前も、レベル82のマッドゴーレムなどを倒したところである。それに伴い、収入面もかなり上昇していた。
「オルランド遺跡? うん、そっちも行くけどさ。ちょっと春人さんたちに会いに行こうよ」
「? イオがそんなこと言うなんて珍しいね。まあ、僕も春人さんには会いたいけどさ」
アルマークはイオの意図がいまいち掴めていないが、空気を読んで笑顔になっていた。彼は他人を不快にさせることを嫌っているのだ。16歳にしては人間が出来ていると言える。
「知ってる? ギルドで聞いたんだけどさ、北のマシュマト王国には1億5000万ゴールドの依頼があるんだって。春人さんとアメリアさんなら、確実に受けに行くよ! 前からマシュマト王国にも行ってみたいと思ってたしさ。旅行気分で行ってみない?」
イオは何時になくはしゃいでいる。イオに特に深い意図はなく、アルマークと旅がしたいだけである。春人達に会いたいことや高額の依頼内容を見たいことや、マシュマト王国の街並みを見たいことなど、全て本音であるが。とりあえず、旅がしたいのだ。
アルマークも彼女のはしゃぐ姿からそれを感じとった。そして彼氏として、彼女の望みを聞いてあげたいという感情に駆られる。
「近々、専属員としての重要な任務があるみたいだけど……まあ、僕達はSランクになるから、正式にはその枠から離れるし、いいかな」
「大丈夫だよ、アルマーク! Aランクの人たちや、ネオトレジャーの皆さんも居るんだから! 近い内に出発しようよ」
アルマークは専属員としての責務を放棄するのは気が引けていた。しかし、Sランクである彼らに無理強いをする者は居るはずもない。
専属員はAランク以下で構成されるのが普通だからだ。それに、いままでの「センチネル」の専属員としての働きをみれば、マシュマト王国への旅など、むしろ許されるべきである。それほどに彼ら二人の働きは大きかったのだ。
「よし、じゃあ近い内に出発しようか」
「うん!」
アルマークの言葉にイオは満面の笑顔を浮かべた。そして、彼の腕に思い切りしがみつく。アルマークは照れながらもイオの柔らかさを感じながら歩いて行った。
その夜は、宿屋の一室が相当な喘ぎ声に満たされていたという……某ブラッドインパルスのジラークの証言だった。




