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87話 レッドドラゴン その1


 その日、Aランク冒険者チーム「ナラクノハナ」は苛立っていた。いや、苛立っていたのはそのチームの中の一人、ディラン・マクシミリアンだけではあるが。残りのメンバーのニルヴァーナ・アルファロとリグド・スインキーの二人はそんなディランを冷静に見ていた。


「おいおい、これからレッドドラゴンを仕留めようって時に……グリモワール王国が大量破壊兵器を投下しただと!?」

「そうらしい。といっても、未確認情報ではあるが」


 苛ついているディランに、リグドは冷静に返答する。ナラクノハナのメンバーはマシュマト王国のアルフリーズから東に位置するアルグンド高原へと来ていた。目的はレッドドラゴンの討伐だ。チーム最強のニルヴァーナが超人的な感覚でその居場所を特定したのは、つい10分前のことである。


「で? ギルドの情報屋はなんて言ってるんだ?」

「通信機での話では、グリモワール王国が各国に宣戦布告とも思える宣言をしたらしい。どうやら100体近いヘルスコーピオンの群れを、強力なミサイルで全滅させたようだね」

「ヘルスコーピオン……確か、レベルは180だったよな?」

「ああ、その通りだ」


 ディランもリグドも汗こそ流してはいないが、表情は真剣そのものだ。近くには可憐な美少女であるニルヴァーナの姿もあった。彼女は無造作に伸ばしている金髪を輪ゴムで簡単に束ねていた。服装は胸元以外は露出のないライダースーツだ。


身体のラインは美しいが、彼女は自らのお洒落など気にしていない人物ということが伺えた。それでも美少女に見えるその顔や体型は、ニルヴァーナという人物の素材の良さを物語っている。



「レッドドラゴンが見えた。2体居る」


 ニルヴァーナが視線を送る先、レッドドラゴンと思われる赤い魔物が2体存在していた。その距離は1キロほど離れている。


「おいおい、あんな魔物が2体同時かよ……」

「700万ゴールドでは割りに合わないね……」


 ディランとリグド、それぞれの言葉だ。700万ゴールドという金額自体は破格といえるものだが、相手がレベル230のレッドドラゴンであれば話は別だ。しかも2体同時に見つかった。それぞれが1分程度、レベルを2倍にできるハイパーチャージを使えるのだ。


「しかし、ようやく会えたな。お前を待ちわびたこの1か月……身体が疼いて仕方なかったぜ!」


 ディランはまだまだ遠くではあるが、丘の上からその赤い巨体を見据えていた。その表情は旧友に会えた時のように笑みすら零れていた。ニルヴァーナはそんなディランの姿を見て溜息をついている。


「レッドドラゴンの片方は、私がやるさ。あんたはもう片方を頼むよ」

「おう、任せときな! お前の実力なら心配はねぇだろうが、油断すんなよ」

「私のセリフだよ。死んだりしたら承知しないからね」


 ディランは大笑いをしているが、クールなニルヴァーナは無表情なままだ。お互いに健闘を称えての言葉ではあるが、以前に倒せなかったディランは戦力としては不利と言える。それでもディランは臆することなく、レッドドラゴンの方向へと歩いて行ったのだ。


「以前は君が参戦していなかったからね。ディランとしても、君の力は借りたくないのだと思うよ」

「……理解できない。死んだらそれまでなのに」

「男は時には格好つけたいときもあるのさ。それよりいいのかい? もう片方のレッドドラゴンは君に任されたぞ? これは責任重大だ」


 ナラクノハナの頭脳を統括しているリグド。上手い言葉回しでニルヴァーナのやる気を増幅させる。このままディランがレッドドラゴンの元に向かえば2体同時の戦闘は避けられない。その事態を彼女は防ぐ必要があったのだ。


「私が仕留めそこなうと?」

「まさか。個人戦力としては、君はSランク冒険者であるアルミラージとレヴァントソードの連中にも負けていない。むしろ勝ってるくらいだと思ってるからね」

「それは誉め過ぎさ。ただ……あの獲物は確実に仕留める」


 そう言いながら、ニルヴァーナは魔空間に手を入れた。中から取り出したのは巨大なスナイパーライフルだ。明らかに細身の彼女に扱える重量ではなかったが、ニルヴァーナは平然と持っている。


 ニルヴァーナはそのまま立った状態でスナイパーライフルを構えた。黒のボディに金の装飾品が散りばめられている。彼女の趣味なのだろうか、ものすごい価格になりそうだ。


「レッドドラゴンまでの距離……1170メートル、風速9メートル、北北西の風……」


 スタンディング状態のニルヴァーナは小声で風速などを感覚的に計測した。彼女の圧倒的な感覚は誤差1パーセント以下とされている。


「湿度は66%……個人的には乾燥してる方が好きだね」

「やれやれ。相変わらず、恐ろしい状況把握だ。レッドドラゴンはこの距離でも気づいているのかい?」

「おそらくね。ハイパーチャージを始めたみたい。ただ、終わりだけどね」


 ニルヴァーナは右手に持った長さ10センチはある弾丸をライフルに装填した。そして……構えなおすと同時に引き金を引いたのだ。プッシュボタン式のトリガーはかなり軽くセットされており、軽く引くだけで弾丸は発射される。反動をできるだけ抑える意味合いが込められていた。


 撃ち出された弾丸は超高速で、レッドドラゴン目掛けて飛んでいく。1170メートル離れたドラゴンはハイパーチャージ状態で待機しており、レベルは460にも達していた。弾丸はレッドドラゴンの脳天に直撃……とはいかず、ドラゴンの闘気を貫通することはできなかった。しかし……


「グオオオオ!!」


 最初の弾丸は確かにレッドドラゴンには届かなかった。しかし、間髪いれず、そして寸分違わぬ位置に2発目の弾丸は命中したのだ。最初の一撃で脆くなった闘気の壁は2発目の侵入を容易に許してしまった。そして、レッドドラゴンの頭は貫かれた。




 そのまま、巨大な身体は地面へと倒れこみ、ピクリとも動かなくなった。



「……一撃では無理だったね。さすがはレベル460の状態ね」

「……相変わらず、信じがたいよ。2発目を撃つ動作もそうだが……これだけ距離が離れても全く同じところに命中させるなんて」

「魔法での修正をしているからね。それくらいわけないさ」


 ニルヴァーナは簡単に言ってのけるが、もちろんそんなことを誰もが出来るはずはない。そもそも1000メートル以上の狙撃という時点であり得ないレベルだ。脳天を破壊し、一撃でレッドドラゴンを始末した腕は疑いようがなかった。


 1170メートル先では、片割れが死亡したことに対して動揺した、もう片方のレッドドラゴンの姿があった。すぐにハイパーチャージ状態になる。


「よう、待ちわびたぜ? 今度こそ仕留めてやるよ」


 レッドドラゴンの前には赤い甲冑を身に着けたディランの姿があった。既に全開状態であり、準備は万全のようだ。雪辱戦はすぐに開始された。


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