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82話 あれから2か月 その2


 噂は世界各地で話される。人気の高い者、実力のある者ほど、噂の対象になる確率は上がっていく。最強クラスの冒険者との呼び声も大きいソード&メイジにとって、それは日常茶飯事のことであった。


 彼らは今日も依頼をこなしている。その基本姿勢は変わらない、決して正義の味方ではない春人とアメリアだが、人々の脅威を取り除くことに躊躇いは持っていない。




「相変わらず、すごく暑いね……」

「そりゃあ、砂漠の国家だもん」


 辺り一面、地平線の先まで砂で覆われている砂漠に春人とアメリアの二人は佇んでいた。この場所は砂漠の大国グリモワール。レナとルナの故郷の国である。


「リザード討伐もスコーピオン討伐も完了したはずだけど……まだ、残ってるなんてね」

「リザードロードの軍勢がスコーピオンの軍勢と合流したらしいわね」


 春人とアメリアの二人は、地平線の彼方の砂漠の先を見据えていた。彼らの背後にはグリモワール王国の都、マグノイアの街並みが広がっている。春人は腰に構える黒い鞘に目を向けた。これまで何体もの強敵を切り裂いてきた相棒、ユニバースソードである。


「リザードロードのレベルは300程度、ギガスコーピオンでも320程度よ。春人が、その剣を振りかざせば、勝利は決まったようなものね」

「アメリア、それは誉めすぎだよ……」


 謙虚な春人は苦笑いをアメリアに浮かべる。あれから2か月が経過しているがこういうところは春人に変化は見られないでいた。そういう意味ではより人気を集める結果になったと言える。



「あ、あと……そんなにくっつかなくてもさ……」

「いいじゃない。もう隠すような仲でもないでしょ」

「そ、それは……そうだけど」


 春人とアメリアの二人は未だに付き合っていない。答えをどのようにするか悩んでいた春人だが、アメリアの方から答えは出さなくていいという回答があったのだ。これはエミルや美由紀の感情を考えてのことだが、真意は現在でも不明である。


「2か月……私も春人もまだ未経験、と。」

「な、なに……? アメリア急に、どうしたの?」


 少し焦った表情で春人は返した。特に彼女からの返答はない。


 アメリアは春人に想いを告げている。その感情に変化はない。春人も確信があるわけではないが、エミルや美由紀の思いにも気づき始めている。


 彼は、他の男性が聞いたら、石を投げられるくらい羨ましい状況に陥っていた。彼もそれは自覚しているが、なんともできない板挟みも痛感している。いずれ答えを出す日が来るとしても今ではない。


 バーモンドも「別に若いんだからいいんじゃねぇか? いよ、色男。罪な奴だよホント」と言いながらも大笑いをしていた。


「エミルや美由紀も虎視眈々と春人狙ってるでしょうね……」

「狙うって、彼女らはそんなこと……」

「春人、美人な子には優しいもんね」

「い、いやそういうつもりじゃ……」


 アメリアは基本的に独占欲は強い。春人の浮気まがいの行動は、より強く粛清されるようになっていた。そんな状況も楽しみながら、二人は交際を続けている。付き合っているわけではないが、以前よりもさらに仲は進展したと言えるだろう。



「ところで今回の依頼だけど、ギガスコーピオンの群れと、リザードロードの群れ……組み合わせが最悪だね。毒と毒とか」

「独自の生態系で生み出された亜種みたいな物だしね。そんな軍勢に襲われたら、大国のグリモワールでも本気で不味いわ」




 一度は打倒したそれぞれの群れ。だが、すぐに生き残りは徒党を組み始めたのだ。さらに悪いことに、ボスクラスの群れとなっている為、より強力な軍勢になっていた。


 リザードの討伐はソード&メイジが、ヘルスコーピオンの群れはビーストテイマーが2か月前に打倒している。それぞれ、3000万ゴールドと4000万ゴールドを受け取り、終了したはずだった。


「リザード討伐も数が多いだけに面倒な仕事だったわね。普通の冒険者なら、何人いても意味をなさないくらい強かったわ」

「さすがに、神聖国での戦闘と比べたらマシだったけどね」

「まあ、あれと比べたらね」


 2か月経過した今でも、その時のことを考えると冷や汗が出てしまう。アテナとヘカーテ、そして強力な眷属たち。行われた戦闘自体はすぐに終了し、春人の仲間は誰も死ぬことなく状況を打開できた。成功する確率は非常に少なかったと言えるだろう。実際に、あと少しのところでアメリアは死んでいたのだから。


「今回の報奨金は6000万ゴールドよ。トネ共和国とグリモワール王国の両方から出されるみたいだけど」

「6000万って凄いよね……」

「うん、まあそんなだけどさ」

「どうしたの?」


 どこか浮かない顔のアメリア。春人は不思議そうにその表情を眺めた。


「マシュマトって王国が東の方にあるんだけど、そこでは1億を超える依頼が出てるみたいよ」

「1億っ!?」


 あまりの金額に春人は素っ頓狂な声を上げた。


「面白そうだから、この依頼が片付いたら確認しに行きましょうよ。どのみち、並みの冒険者じゃ達成なんて不可能だろうから」


 アメリアは自信満々だ。もちろん過信などではない。彼女はマシュマト王国が総合的に冒険者業の中心地であることは知っている。しかし、その中でもソード&メイジに及ぶ者は居ないと踏んでいるのだ。


 そして、6000万ゴールドの現在の依頼は、既に達成しているかのような口ぶりになっていた。


「私達の住んでるマッカム大陸は、アクアエルス世界でも最大の大陸よ。その中でも、マシュマト王国は商業や科学技術に於いては最先端とされているわ」

「科学技術か……それは楽しみだね」


 なんとなく地球の風景を思い描く春人。もしかすると東京のような街並みの地域があるのかもしれないと、心が高ぶっていた。


「異世界からの住人である春人にとっては良い経験かもね」

「まあね。マッカム大陸……まだまだ、強敵がひしめいてそうだ。知らない地域の方がはるかに多いわけだし」

「そりゃそうだけど、ギガスコーピオンたちを葬れる春人からすれば、ほとんどのモンスターは格下になるでしょ。まあ、この大陸に限っても、色々と伝説になってる魔物は居るけど」


 アメリアは過去の文献を思い出しているのか、目を瞑って考えていた。


「伝説の魔物か、鉄巨人たち以外にも居るの?」

「そりゃあね。例えば最古の魔法生命体とされているドラゴン族。その中でもゴールドドラゴンとシルバードラゴンは大陸の調停者と言われているわよ」


 春人としても初耳だ。英雄フィアゼスの歴史は確かにマッカム大陸に於いて、非常に大きな事象である。しかし、歴史上の怪物はそれだけではないのだ。魔法発祥の地とされているグリモワールは5000年の歴史を持つ大国だ。しかし、ゴールドドラゴンはそれ以前から生きているとされるモンスターである。



「まあ、ゴールドドラゴンやシルバードラゴンのレベルはわからないし、魔法生命体というのも憶測だから倒したら結晶石を残すかも不明だけどね。グリーンドラゴン達からの推測なだけで」


 ゴールドドラゴン達が魔法生命体に該当するのかは予想でしかなかった。通常の獣と違い、魔法生命体は死ねば身体は溶け出して消えていく。通常は製作者が存在する魔法生命体だが、太古のドラゴンは自然的に発生したとも言われている。強いて言うならば、星そのものが製作者ということだ。


「調停者、ゴールドドラゴンか……強そうだね」


 まだ見ぬ強敵に想いを馳せる春人。名称からもドラゴン族の王に君臨しているのだろう。大陸のモンスター側の調停者ということなのか。フィアゼスとはある意味では対極の存在なのかもしれない。


「大陸の東のミッドガル山脈のどこかにその住処があるとかなんとか。まあ、おとぎ話レベルだけどね」


 アメリアは半信半疑といった表情で語っていた。日本で言えば桃太郎レベルの話なのかもしれない。だが、不思議と春人は確信していた。決しておとぎ話ではないことを。


 それは伝説上の鉄巨人と遭遇し、打倒した経験を持つ彼だからこその確信なのかもしれない。普通に生活していたのでは、鉄巨人など見ることなく人生を終える者が大半だからだ。



「こちらにいらっしゃいましたか」

「……敵が動き出した」


 そんな時、春人とアメリアの前に現れる者が居た。ビーストテイマーのレナとルナである。彼らはスコーピオンやリザード討伐の後、一旦アーカーシャに戻ってから、再びグリモワールに集結したのだ。現在は2つのパーティは組んでいることになる。


「いよいよね、腕が鳴るわ。数がどれくらいかわかる?」

「ルナ、どのくらいですか?」

「ギガスコーピオンが15体程。リザードロードも15体くらい。それぞれレベルが300オーバーなことを考えると、グリモワール王国の軍事力ではどうしようもない」


 かつての大国であるグリモワール王国。おそらくマッカム大陸全土を見ても最も古い国家ではあるが、ギガスコーピオン達に対抗できる程の国家戦力は持ち合わせていなかった。もちろん敵の合計戦力は鉄巨人1体よりもかなり強いので当然ではあるが。ちなみに鉄巨人は1体で小国を滅ぼせるとされている。


「トネ共和国の依頼時のリザードロードが8体くらいでしたから、かなり危険性は高くなってますね……」

「まあ、あの時はポイズンリザードも100体近く居たけどね」


 春人とアメリアは当時の状況を思い出す。春人とアメリアのコンビにとってはそのくらいの合計戦力は相手にならなかったのだ。さらにサキアも居るのだから猶更である。


「さすがは春人様とアメリアですわ。私たちでは到底勝てません」

「本当にすごい」

「そりゃ、個人の能力では負けないけど、あんたたちは召喚術が真骨頂でしょ。ユニコーンたちも召喚して、ヘルスコーピオン達の群れを打ち倒したと聞いたけど?」


 アメリアの反論にも似た言葉にレナは笑みを浮かべていた。実際に、彼女たちもレベル180のヘルスコーピオン40体と、レベル210のメガスコーピオン10体、レベル320のギガスコーピオンを3体討伐しているのだ。もちろん、ユニコーンなども動員しての話ではあるが。


 2組とも打ち倒しているモンスターのレベルと数が尋常ではない域に到達していた。まさしくアーカーシャに於いて、最強の2組と言えるだろう。


「今回はギガスコーピオンが15体に、リザードロードが15体ね。他にも通常のスコーピオンなんかも何十体から居そうだし……そいえば、タナトスは呼ぶわけ?」

「いいえ、切り札としては考えていますが、そこまで出す必要はないでしょう。あのモンスターは危険でもありますし」

「ま、確かにね」


 レナとルナは頷く。出来る限り、タナトスは召喚しない意向のようだ。その背景には土壇場での召喚でレベル900にもなる魔物を御しきれるかという不安があったことは間違いない。


「しかし、グリモワールは感謝してほしいわね。私たちが居なかったら、滅ぶしかないじゃない、こんなの」


 相手の戦力を再確認したアメリアの発言だ。グリモワールにも強力な兵器は存在しているが、大砲程度ではギガスコーピオン達を倒せないことは明白であったのだ。実際には下位の存在であるヘルスコーピオンにも効いているとは言えなかった。


 アメリアや春人が参戦しなければ終わっていた戦いと言えるだろう。



「グリモワール王国の上層の方達は、冒険者風情の力を借りることには反対しております。国民たちの危機であれば、そういった体裁などに構っている暇などないはずですが」

「……なのに、上の者は悩んでる。今回の戦闘も自国の能力だけでやろうとしてた」

「でも、レナさん達は自国に該当しますよね?」


 春人の素朴な疑問だ。レナたちは特に表情を変えていないが、代わりにアメリアが頭を抱えていた。どうやら、質問しては不味いところだったようだ。


「春人も経験あるらしいけど、ほら、人種差別みたいなものよ。レナもルナも、ね」

「えっ……?」


 突然のアメリアからのカミングアウトに春人は驚きの表情を見せた。


「何事も才能があると意味嫌われてしまうようですわ。わたくし達は、国の辺境の村出身なのですが……類稀な召喚能力は恐れられ、村八部にされておりました」


 春人はここに来て、彼女たちの境遇の一部を見た気になった。幼少の頃から差別は受けていたのだろう。レナもルナも表情は変えていないが、声のトーンは低くなっている。


「そうでしたか。まあ、俺も子供の頃から虐められてましたけど……」

「……意外過ぎる」

「そうですわね、本当に信じられませんわ。どこの国でも才ある者は忌み嫌われるということなのでしょうか」


 レナの言葉を聞いて、春人はその考えは違うと思ったが、敢えて口にはしなかった。彼は地球では弱い存在だったから虐められていたのだ。才能が開花する前の段階だったと言えるだろう。



「まあ、あんまり良い思い出もないでしょうけど、それでも6000万ゴールドを提示されてたら、引き受けるわよね」

「うふふ、まるでわたくし達が、守銭奴みたいな言い方ですわね。間違ってはいませんが」

「お金のためでもあるけど、人々を救いたいのも事実」


 彼女たちの言葉にはそれぞれ嘘偽りはなかった。正義の味方というわけではなく、仕事を確実に遂行する冒険者。この立場を譲るつもりはない。おかしくなったのか、アメリは少し微笑んでいた。


「なんか面白いわね。でも、6000万ゴールドは私にとっては二の次なの。とりあえず、暴れたい気分だから」

「あらアメリア。わたくしもそんな気分でしてよ」


 アメリアとレナの二人は早くも戦闘態勢を取っていた。周囲に獣が居れば、彼女たちの気配だけで逃げ出していただろう。春人とルナもそんな二人に加わり、6000万ゴールドの依頼は開始されることになった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく読ませて頂いています。 [気になる点] 春人やアメリアがバトルジャンキー気味なのは分かるけど、 命の軽い世界なのだから早くくっついた方が良いのにな。 ドンドンハーレム大きくしよ…
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