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81話 あれから2か月 その1

 マッカム大陸中央部に位置する国家、マシュマト王国。南にはアルトクリファ神聖国などを構える冒険者組合の中心地でもある。ギルドはそれぞれの街で独立していることもあるが、この国は全て中央のギルド総本山がその元締めとなっている。


 現在はSランク冒険者を2組揃えており、数の意味合いでは南のアーカーシャに劣っているが、Aランク冒険者、Bランク冒険者の数は、アーカーシャを大きく突き放している。


 そんなマシュマト王国の首都であるアルフリーズ。ギルド総本山の活気はアーカーシャのそれを凌駕しており、内部に並べられているソファーなど、装飾品の数も段違いだ。


 それらの豪華なソファーに座っている男が二人居た。一人は筋骨隆々の男、もう一人は線の細い男だ。対局の外見ではあるが、只者ではない印象は共通しており、一般人の雰囲気とは別格のオーラを放っている。


「リグド、暇だぜ。なんか面白い話はねぇか?」


 筋骨隆々の色黒の男は、リグドと呼ばれる線の細い男に話しかける。リグドは細い目を、大男に向けた。


「ディラン、君が楽しめる依頼などを探してはいたが……そうだな、いくつかその過程で情報を仕入れることに成功した」

「ほう、どんな話だ? てめぇがそう言うんだから、つまんねぇ情報ではないんだろ?」


 リグドはディランの問いかけに、不敵に笑いながら頷く。ディランは巨大な口を大きく開きながら、リグドの次の言葉を待った。


「仕入れた情報は3種類。1つはレッドドラゴンの情報だ。東のアルグンド高原での目撃情報が多数出ている。マシュマト王国も脅威に感じたのか、国家依頼として賞金も跳ね上げたようだ。我々からすれば、再戦のチャンス到来か」


 リグドの言葉に、ディランの無骨な表情が緩む。武者震いをしているのか微かに震えているようにも見えた。




「そいつはおもしれぇ。以前は打ち損じたからな。今度こそ息の根を止めてやるぜ」


 ディランは以前に戦闘を行ったレッドドラゴンの姿を思い浮かべていた。マグマのように赤い皮膚をした強大な化け物。そこから放たれる豪火球は人間など簡単に灰にしてしまう高熱となっている。


 Aランク冒険者「ナラクノハナ」のメンバーとして、レッドドラゴンに戦いを挑んだのは数週間前のことだ。


「それと付随しての話になるが……まあ、これは2つ目の情報と被るけど、南のアーカーシャでは相当に強い冒険者パーティが居るみたいだね」

「それは聞いているな。Sランク冒険者のことだろ?」

「ああ、この半年ほどで台頭した「ソード&メイジ」というパーティだ。2人組の冒険者で、片割れがアメリア・ランドルフという少女だ」


 アメリア・ランドルフという名称にディランの表情も変わる。彼女の名前は、遠く離れたマシュマト王国にも届いているのだ。


「最強クラスの冒険者とも言われている女だな」

「最強……実は、そうでもないらしい。その相棒の少年の方が今では有名とのことだ。名前は、高宮春人。めずらしい表記だが、このソード&メイジが最高峰の冒険者とアーカーシャでは言われているようだ」


 いまいち信じられないといった表情のディラン。リグドはさらに続ける。


「グリーンドラゴンの討伐や、グリフォンの討伐……これくらいの任務は簡単にこなしたようだよ」

「そりゃすげぇな。レベル110のグリーンドラゴンにレベル90のグリフォン討伐か。Sランク冒険者になれる器はあるみたいだな」


 ディランは春人たちの功績を素直に認めながらも、どこか納得している素振りではなかった。自らがAランクであることとそれは関連している。


「だが、俺たちが標的にしているレッドドラゴンはレベルは倍以上の230にも達するぜ。その任務さえこなせば、俺たちもSランク入りは確実だな」

「まあ、そうなるだろうね」


 ディラン達はレッドドラゴンとの交戦を行いながらも、仕留めることこそできなかったが、生還しているのだ。既に実力的にはSランクの仲間入りをしていることは疑いようがなかった。


「さらに、ドラゴン族は古来より、ハイパーチャージを使える。レッドドラゴンは1分程度とはいえ、レベルを最大で460まで上げることができるからな」


 自分自身にしか使えず、1分と効果時間も短いが、全能力を2倍に増幅する魔法ハイパーチャージ。まさにドラゴン族の真骨頂ともいえる能力だ。他にも使えるモンスターは居るが、決して多くはない。人間で使える者は、ほぼ居ないとされている。


「総合戦力では、現状最強とされるモンスターの鉄巨人には及ばないが、一時的には鉄巨人を超える能力を発揮できるからな……レッドドラゴン、相手にとって不足はねぇ」


 ディランの武者震いはさらに加速している。それほどにレッドドラゴンは強敵に該当しているのだ。事実上、フィアゼスの配下には該当していないモンスターである。彼女がいなくなってから生まれたモンスターであるために、当然と言えば当然であるが。


「国家任務として、報奨金は700万ゴールドになっているよ。トネ共和国のリザード討伐や、グリモワール王国のスコーピオン討伐に比べれば安いが、単独の討伐依頼としては、破格の金額だね」


 700万ゴールドは日本円で8000万円を超える。それほどの額に相当するほど、レッドドラゴン1体は脅威と認識されたのだ。


「ま、「ナラクノハナ」がSランクに行く為の材料になってもらうか」

「そうだね。しかし、ソード&メイジについてはそれだけじゃない。どこまで真実かはわからないが……」

「なんだ? まだなんかあるのか?」

「南の辺境の地だから、あまり情報は入ってこないけどね……どうも、伝説の鉄巨人がアーカーシャに現れたこともあるらしい。それもこの何か月かの間で」



 アーカーシャの街を鉄巨人が襲ったことは、トネ共和国など、比較的近い国家にも十分には生き渡っていなかった。そういう意味では、マシュマトに情報が来ないのは当然と言えるだろう。また、春人やミルドレアの活躍で迅速に事態が収束したのも、情報が拡散しなかった原因でもある。


「……それは初耳だな。本当なのか?」

「いや、これは裏付けが取れていない。俺も暇ではないんでね、アーカーシャばかりに構ってはいられないよ。ただ、事実だとしたら、アーカーシャが滅んでいないところからも、ソード&メイジを始めとした冒険者が倒したと見るのが自然だろう」


 リグドの分析に、ディランも納得していた。もしも、鉄巨人が現れたとなれば、アーカーシャの街など簡単に滅ぼされてしまう。Aランク以下の冒険者が束になってかかったところで焼石に水というのはわかっていることだからだ。


「まあ、アーカーシャの街……今は国家になっているが、アーカーシャにはSランク冒険者が他に2組居るんだ。協力して倒したのかもしれないしね」

「ビーストテイマーとブラッドインパルスだな。特にブラッドインパルスには、冒険名誉勲章を授与された、オルゲン老師と、ジラークとかいう奴が居るみたいだしな」


 オルゲン老師はある意味でアメリア以上に名前が知れ渡っていた。また、ジラークも今までの功績に加え、アシッドタワー制覇の功績と、新たな文献を持ち帰った功績により、冒険名誉勲章を授与されるに至ったのだ。



「さらに2か月前の、アルトクリファ神聖国での集団失踪事件……これも謎が多いが、これの解決に尽力したとも言われているな。現在は神聖国の経済は昔と変わらないが、それもソード&メイジのおかげなのかもしれないね」


 ディランの表情が曇っていく。リグドの話を又聞きで聞いているだけではあるが、少しずつソード&メイジの凄さが理解できた為だ。


「そして極めつけは……その後の、リザード軍勢の討伐だね」

「リザードの軍勢を退けた話は俺も聞いているが……あれもソード&メイジの功績なのか?」



 リグドは静かに頷いた。


「リザードロードを含めたリザード達の鎮圧……あれはソード&メイジの功績のようだ。その功績により、高宮春人にも近い内に冒険名誉勲章の授与が検討されているらしいよ」


 リグドはとうに顔色を変えていたが、ここにきてディランも汗を流していた。冒険名誉勲章はそう簡単に取れるものではない。アメリアやジラーク、オルゲン老師も長い年月をかけている。しかし、春人に至っては半年程度で授与の検討がされているのだ。


 もちろんその背景には、リグドやディランが知る由もないアルトクリファ神聖国での攻防も含まれてはいるのだが……非常に強力なモンスターとの攻防……実力的には負けていた戦闘でもあり、美由紀の存在が運命を分けたとも言える、2か月前の出来事だ。ジェシカ・フィアゼスの側近との戦闘である。


 それと比較すれば、その後のリザード討伐は可愛いとすら思える出来事だ。アルトクリファ神聖国での出来事はマシュマト王国には上手く伝わってはいなかったのだ。


「なるほど……想像以上に化け物みたいだな、高宮春人は」

「ああ、そのようだね。まあ、俺たちがレッドドラゴンを討伐すれば最低でも並ぶことはできるだろう」


 リグドは内心では、レッドドラゴンを討伐すれば超えられると感じてはいた。彼の言葉は謙虚の表れだ。本音を言うと、リグドも噂には尾ひれが付いていると思っている。リザード討伐も内心では、ブラッドインパルスなどの協力があったと思っていた。


 人間は噂のみでは100%信用することなどできない。都合の良いような解釈は必ずなされるのだから。


「んで? 3つ目の情報はなんだ?」

「ああ、これはある意味で一番の注目だが……」


 リグドは軽く咳ばらいを挟んだ。そして、すぐに話しだす。


「北のキュイーズ都市同盟やジャピ公国が滅んだらしいよ」

「どういうことだ? 戦争かなにかか?」

「詳細はまだ不明だが、どうも謎の軍団による襲撃を受けたようだね。見たこともない、漆黒の鎧を付けた騎士の軍勢だったみたいだ」


 漆黒の騎士の軍勢……戦争にも参加経験のあるディランは考えを巡らせるが、大陸の兵隊や騎士で、そのような風貌の軍勢は心当たりがなかった。


「ディラン、君でも心当たりはないか」

「ねぇな、黒の甲冑の騎士団のような軍勢で、さらに北の2国を滅ぼせる戦力っていうなら、限られるはずだが。しかもほとんど知られることもなくだろ」

「そうだね。新たに結成された犯罪者集団、若しくは怪物の軍勢の可能性もある。闇の軍勢という仮称で呼ばれることになったよ」


 リグドの話からも犯罪者集団や、人外の者たちである可能性は高い。別の国家が倒した場合は、占領の宣言などが行われたりする。また、国家の樹立を目論んでいる者たちであっても宣言はされるのが通例だ。だが、今回はなにもなく破壊のみが行われた。


「詳しいことは、彼女が来てから聞きに行くとしようか」

「へへ、なかなか飽きさせない情報だったな。レッドドラゴンにソード&メイジ、それから闇の軍勢か。おもしれぇ、本当に世界はおもしれぇよ」


 ディランは長髪の髪を後ろで束ねており、その長い髪を揺らしながら、腕組みをして笑いだした。



「ごめん、待たせたかい?」

「よう、お姫様の登場だ」


「ナラクノハナ」の名称の由来ともいえる人物。メンバーの最後の一人が二人の前に現れた。年齢は20歳のニルヴァーナ・アルファロだ。無造作に伸ばした金髪が印象的な少女といった外見であり、なかなかのスタイルを持っていた。クールなイメージを持つ目つきをしている。


 胸元がそれなりに開いた、黒のライダースーツのような衣装を身につけていた。身体のラインはそれなりに出来る素材であるが、露出は胸の辺りだけとなっている。


 金髪と美しくも儚い赤い瞳は思わず声をかけてしまいそうになる。

ニルヴァーナは美しさもさることながら、佇まいや表情からだけでもパーティ最強を容易に連想させていた。


「じゃあ、行こうか。リグド、次の標的は?」

「この面子は好戦的な者が二人も居るから困るね。焦らなくても大丈夫さ」


 リグドはニルヴァーナとディランの二人を交互に見渡す。チームの頭脳の役割を担っている彼は、やれやれと言った表情でため息をついた。


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