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79話 勝者は……


「ジェシカ様……? ジェシカ様……」


 腕の傷を治しているヘカーテとは違い、既に美由紀の存在に気付いているアテナは何度もその名を口にした。しかし、なにか違和感を伴っている。


「いいえ、残念だけれど……私は天音美由紀……あなたとは初対面のはずよ」

「……でしょうね。……でも、この雰囲気……それにアビス……」

「よう、久しぶりだな! アテナにヘカーテ!」


 アビスは元気よく美由紀の足下から現れた。アビスの存在にはアテナも驚いているが、表情はしかめている。


「てめぇはそのノリをなんとかしろよ……つーか、かなり弱体化してないか?」

「まあ、そりゃあな。美由紀さまのレベルもまだ80くらいだぞ」


 アビスはレベル40相当ということになる。アテナのレベルから換算すればあまりにも弱い。


「それに、タナトスまで……そっちの奴らが手懐けたのか?」

「お初にお目にかかりますわ。レナと申します。こちらはルナ。1000年前のこの大地を支配した方々にこうして出会えるとは……個人的には非常に嬉しく思います」


 レナはそう言いながら、アテナに対して非常に丁寧なお辞儀をした。決して嘘偽りなどではない、本心である。



「ちっ、タナトスまで相手になんのかよ……こいつの能力は知ってるみたいだな」

「ええ、もちろん。このモンスターは鉄巨人やサイクロプスの量産が可能な者。この死神も世界を手に入れた際には重要な戦力だったのですね」


 これはレナのハッタリだ。戦局を感じ取ったレナは瞬時に敵戦力と味方の戦力バランスを読み取った。


タナトスをぶつけたとしても、まだこちら側の勝率は低い……。タナトス本来の能力である鉄巨人やサイクロプスの呼び出しができれば別ではあるが、レナとルナはまだそこまでは御しきれてしなかった。


 世界を手にした際の最重要戦力であったアテナとヘカーテ……永久の命と身体の回復、そして首を飛ばされても死なない生命力を有している。実質、彼女たちを殺すことは不可能に近く、粉微塵にする以外にはいずれ回復をしてしまう程のモンスターであるのだ。


 彼女たちとの戦いにどこか緊迫感がなかったのもその為である。アテナとヘカーテは最初から命懸けの戦闘など行っていないのだから。


 今、春人やアメリア、レナ達が考えていること……それは目下の脅威の除去である。戦闘に打ち勝つことではない。



「ち、さすがにこの状況でサイクロプスたちを大量に呼ばれたら不味いな……フェンリルが死にかねない」


 アテナは少し離れたところに待機している白い狼に目を向けた。


「えっと、アテナちゃん。どうするの? ジェシカ様に似た人も居るみたいだよ?」


 ヘカーテは生やしている尻尾をものすごく振り回していた。右腕は完全に再生し、美由紀に抱き着きたい衝動に駆られているようだ。


「あれはジェシカ様じゃねぇぞ? 外見も違うだろ」

「わかってるけど、匂いがそうだよ~~。戻ってきたんだよ」


 訝しげなアテナとは違い、ヘカーテは好奇心に満ちているのか、全く美由紀たちを警戒していない。既に先ほどの戦闘は完了しているかのような勢いだ。



「初めて会うはずなのに……妙な気持ちだわ。あなた達をすごく愛おしく思ってしまう」

「ジェシカ様~~!」

「おい、待てヘカーテ! アビス、ジェシカ様は私達が寝てる間に、どうなったんだよ? さすがに1000年も経ってるんだ。亡くなったんだろ?」


 今にも飛び出しそうになるヘカーテをアテナは制止する。そして、アビスに尋ねた。


「春人……」

「わかってる……なんとか、上手くいきそうだね」

「油断は禁物です」


 アメリアや春人達が警戒心を解かない中、尋ねられたアビスは静かに語りだした。


「ジェシカ様は……地球ってところに飛ばされたんだよ」


 春人の目が大きく開かれる。ジェシカが地球に飛ばされた? しかし、それはある意味では普通のことと言えるのかもしれない。春人自身も同じく飛ばされて、このアクアエルスへ来ているのだ。この地から地球へ行ったとしても不思議ではない。


「まあ、1000年前にな。ジェシカ様は圧倒的な力から、この世界からは恐怖の人物として恐れられていた。その為に、自らの力を越えるほどのアテナとヘカーテを生み出したんだが……まあ、それはいいとしてだ」


 アビスはそこで一旦話を止めた。特に質問がないことを確認してから、再度話し出す。


「向こうの地で1000年ほど生き続けたわけだ。歴史の裏に隠れるようにな。もしかしたら、歴史の教科書に出て来てたかもしれないぜ? 探してみな」


 アビスは春人に目を向けて話した。日本の歴史書に限っても、女性の有名人などいくらでも居る。誰が、ジェシカに該当するかなどわかるはずがない。これはアビスなりの冗談なのだろうと春人も考えた。


「飛ばされたメカニズムはわからねぇ。神のような存在が居るのか……まあ、それから彼女は恐怖の対象として生きなくて済んだってことだ。ジェシカ様も解放された気分だっただろうよ。……そして、彼女は天寿を全うした……はずなんだがな」


 アビスはさらに続ける。


「これもよくわからねぇが、彼女の精神はこの子に受け継がれたらしい。俺が出てくるってことはそういうことだな。外見がこちらの世界に準じているのもその影響下だろうよ」


 そこでアビスの話は終わった。地球にジェシカが転送されていた……1000年前の話であり、春人たちとは時代は全く被ってはいないが。それから、もしかしたら彼女は地球のとある有名人だったのかもしれないという事実。


 アビスは地球での彼女のことは多く語らなかったが、ジェシカは1000年ほど生き、寿命が訪れたようだ。おそらくその気になれば、地球でも全ての国を掌握できていたであろう能力者……。飛ばされた彼女は戦うことに疲れていたということか。


「ま、俺もどうなってるかまではわかんねぇよ。もしかしたら、今後美由紀さまが記憶として、ジェシカ様の人格を思い出すかもな」

「一度、向こうへ飛ばされ……そして、戻って来た。ジェシカ・フィアゼスからすれば、そういうことよね」


 アビスの話を聞いた美由紀は自らの身体を見渡しながら考えを巡らせていた。根拠などなにもないが、美由紀自身もなぜかアビスの話を信じている。


幼少の頃から、髪の色は青かった……運動能力、スタイル、勉学とできたのは、もしかしたらジェシカの土産だったのかもしれない。自らの身体に精神を入れてしまったことによるお詫び。苛められないように、ジェシカなりの力の一部を美由紀自身に残したのだ。


 彼女は全く筋の通らない考えをしばらく考えていた。だが、きっとこれは真実だ。いつのころか、春人が思っていた、自分はアンドロメダ銀河に飛ばされたと強く感じていたのと同じく。



「よし、昔話も終わったことだし、皆でごはんでも食べに行こうか!」

「あ、賛成~~! 賛成~~!」


 そんな時、いきなりの春人の空気を読まない叫び。……賛同したのは約1名、ヘカーテ。


「……春人、それはさすがに」

「マスター……」

「あれ? さ、さすがに外した……?」


 戦いを避ける為の行為……春人なりに考えてのことだったが、アメリアもサキアも相当に引いていた。賛同したヘカーテはアテナに連続で蹴られていた。


「いた~~~~い! え~~~~~ん! ケルベロス~~~~!」

「ぐるるるる……」


 ヘカーテはケルベロスの身体に抱き着いて泣き出したが、さすがのケルベロスも苦笑いをしているようだった。


「……はあ、なんか白けちまったな。……ま、ジェシカ様の生まれ変わり? と戦うのも気が引けるし……行くぞ、ヘカーテ」

「ひぐひぐ……えっと、どこに行くの?」

「やめだ、とりあえずどっか人の居ない地にでも行こうぜ。海を越えて行けば、なんかあるだろ」


 アテナは春人の方向を見た。春人も彼女と目線を合わせる……。


「命拾いしたな、人間」

「できれば、人間は殺めてほしくはないな、今後も」

「は、検討しておいてやるよ」


 アテナは不敵な笑い声をあげて、フェンリルを呼び寄せた。白い大きな狼はすぐに彼女の前に座り込む。そして、アテナはフェンリルの背中に乗り、そのまま去って行った。


「あ、待ってよアテナちゃん! じゃ、じゃあまたね~~~!」



 残されたヘカーテもすぐにケルベロスと共に走りだして行った。



「うまく……いったのか?」


 一部始終を無言で見ていたミルドレアは、目の前の現象が信じられないでいた。なにか、わずかな歯車が違っていれば、全面戦争になっていたであろう状況とも言える。美由紀の存在により、彼女たちの心が揺れたことも非常に大きい。


 今宵、最大の戦いは意外なほどにあっさりと決着がついた。しかし、春人達からすれば一時的にかもしれないが、目下の脅威が消えたのだ。完全勝利と言えるだろうか……。


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