76話 信頼と変化
「驚いたな」
首都メルカールの市街地へと侵入を開始した第2陣。第1陣である春人とアメリアはとっくに先へと進んでいた。第2陣への敵側の迎撃はサイクロプス2体と鉄巨人4体という構成であった。
もちろん、偶然の采配であったのだが、サイクロプス達にとってはまさに不運と言える。
「レベル900のタナトスの召喚。いくらダブル召喚とはいえ……それに、どこで出会ったんだ?」
アルトクリファ神聖国の図書館にもタナトスのような化け物の存在は記されていない。最近見つかったオルランド遺跡の壁画やアシッドタワーの文献が初出のはずだ。
「ダブル召喚での特殊方法でも……出会って契約の儀を済まさなければならないはず……」
「うふふ、さすがはミルドレア様。博識ですわね」
サイクロプスと鉄巨人はタナトスによって、全て返り討ちに遭っており、市街地に他に敵は存在していない。だが、驚くことに何万と居るはずの人間が忽然と姿を消している。彼らはそんな中を、先ほどの会話をしながら歩いているのだ。
「サイクロプス達が、元々の仲間に攻撃を加えたのは、お前達と契約したからこそ仲間意識が途絶えたと見ているが」
「間違っておりませんわ」
レナは敢えて多くを語らないが、タナトスと実際に会い、契約を結んだことを認めた。
「腑に落ちないわね……あなた達二人で、この死神に勝てるとは思えないけど」
そんな時、言葉を発したのは彼らの後ろを歩いていた美由紀だ。目つきが今までとは少し変わっている。
「あら? 今までと雰囲気が変わりましたわ」
「……とても、変」
レナとルナも美由紀の雰囲気の変化に気付いた。
「美由紀さま、なんか思い出したんですか?」
「……いえ、そういうわけでは……でも変ね。記憶が混在してるみたいな……」
アビスは平然とした口調で質問をするが、美由紀は戸惑っている。
「ジェシカ・フィアゼスの生まれ変わり……その話はやはり本当なのか?」
「ああ、それは本当だぜ。生まれ変わりっていうのはちょっと違うけどな」
ミルドレアの質問に、アビスは自身満々に答える。なぜか胸を強く打ち付け、表情も勝ち気になっていた。
「しかし、タナトスと出会ったのは驚きだぜ。こいつは回廊空間の最下層96階に眠っていたはずだが」
アビスのいう回廊空間……名前こそ聞き覚えのないレナ達ではあったが、すぐにその階層数の多さから、回廊遺跡のことであると理解した。10年以上経過しても40階程度までしか進めていない遺跡……まだ、倍以上の階層数が存在したことになる。
「アーカーシャの街の北の回廊遺跡のことですわね……それほどレベルの高いモンスターは出ない印象でしたが……そんなに階層があったんですわね」
「最下層に行ってないとしたら、どうやってタナトスと出会ったんだよ?」
「タナトスと遭遇したのは1年ほど前になりますわ。グリモワールの地を徘徊しておりました……その時に契約を。詳しいことは分かりませんが、おそらくは遺跡から出てきたということでしょうか」
レナは自らの切り札を手に入れた時のことを思い出していた。ダブル召喚による強制的な契約の儀……実力的には、レナとルナの二人がかりでも倒せる相手ではなかったのだ。
「信じられないほどの強さでしたわ……ユニコーンもわたくしたちの鋼流球もほとんど通じず」
「……でも、ダブル召喚の束縛は二人でやる必要がある分、拘束力も強い。……長期戦に持ちこんで、体力を減らしたところで、ギリギリ拘束できた……」
ルナも当時の状況を思い出す。二人の知恵と結束が、なんとか「ビーストテイマー」に勝利をもたらした結果となったのだ。
「すげぇな……あの、タナトスを打ち破るなんてのは……まあ、まだその上が居るけどな」
アビスも驚いたような表情を見せレナとルナを賞賛していた。しかし、まだその上が居る。ミルドレアの表情が変わった。
「アテナ……それからヘカーテだな」
「まあな、ジェシカ様の側近だ。第1陣を先走らせて良かったのか? 正直勝ち目はないぜ?」
アビスなりの心配といったところか。ジェシカの側近と言えば、目の前の美由紀の側近と言い換えることができるからか、やや微妙な印象を感じているようではあったが。
「それは問題ありませんわ。「ソード&メイジ」ですのよ? あの方たちは」
「……アーカーシャ最強の冒険者、全く問題ない」
タナトスを使役するレナとルナですら、春人とアメリアを最強の冒険者パーティとして認めていた。彼らの信頼関係……それはパートナーとだけではない。パーティ間を越えても育まれているのだ。
「なら、お手並み拝見と行こうかしら」
「あら、本当に雰囲気が変わりましたわね。心なしか、縛っているはずのタナトスが脅えてましてよ」
空中に浮かぶタナトスによぎる戦慄……アビスにも雰囲気の変化は訪れていた。美由紀自身も自らになにが起こっているのかは理解できていない。だが、自然と出てしまう言葉……自分の意志とは反している。
「俺のレベルが上昇している……ああ、戻ってきてるのかな?」
誰もいない閑散とした首都……中心部の大聖堂を目指しながら、アビスはそうつぶやいていた。




