74話 アルトクリファ神聖国へ
「で、あいつらはアルトクリファ神聖国に居るってことで間違いないの?」
「ああ、魔術通信により確認も取れた。神聖国は成すすべなく占領されているようだ」
翌日、状況の最終確認としてアメリアはミルドレアと話している。彼は、魔術による通信にて、アテナやヘカーテ達がアルトクリファ神聖国を攻めたことを確認していた。
アメリアの表情もこれまで以上に強張っている。
「まずいわね……ミルドレアのいない神聖国なんて、あんな化け物たちに対抗できる手段なんてないでしょ?」
「ああ、話に聞くサイクロプスすら倒せていないだろうな」
レベル380のサイクロプス、あのメンバーの中では最弱のモンスターですら倒せていないことをミルドレアは予見していた。
「はあ……本当にどうしようかしら……こっちの面子」
「おいおい、リザードの件はどないなんのや?」
頭を抱えているアメリアだが、近くにはクライブの姿もあり、リザード討伐が後回しになることに不満を持っているようだった。
「リザードよりはるかに危険な連中が出たからね……リザード討伐は神聖国に向かって、私達が生きて帰って来れたらって感じかしら。ね、春人?」
そう言いながら、アメリアはわざとらしく春人の腕を掴む。
場所はアーカーシャの時計塔付近……バーモンドやエミル含め、レナやルナたちも居る中での行為だ。だが、エミルも今回は何も言わない。
「アメリア……さすがにみなさん見てるし……離れてよ……」
「これから命を懸けに行くのよ? 戻れるかもわからないしね。放っておいたら世界を破壊しかねない脅威……その討伐だし」
アメリアの態度はわざとらしい。確かに出てきた存在は脅威的なレベルを誇っている。だが、春人とアメリアの表情にはいつも通りの精神が宿っていたのだ。
「いままで戯れで協力したことはあるけど……俺たちも「コンビ」で戦う時が来たみたいだね」
「そうね」
アメリアは春人の言葉に笑顔で返した。彼らも「切り札」を投入する時……今回はそれほどの敵であることを強く感じ取ったのだろう。
「わたくし達もスコーピオン討伐は後に回しましたわ。同行いたします」
「俺たち「ブラッドインパルス」は足手まといになりかねん。万が一に備えて、アーカーシャの警護を担当しよう」
「ほほほほ、若い者にどんどんと追い抜かれていくの~」
「いやいや……洒落になりませんて……「ビーストテイマー」の二人も強いんですね~」
戦力的な意味合いから、「ビーストテイマー」が春人達に同伴、「ブラッドインパルス」のメンバーは街の警護と分かれた。
「俺も行く。奴らは大聖堂を中心に居座っているらしいからな」
「ええ、あんたには来てもらった方がいいわ」
ミルドレアも同行に名乗りを上げた。
「ミル……気を付けてね。絶対に死なないで」
「ああ、お前のためにもな」
アテナに生かされた形になるミルドレア・スタンアーク。次、彼女の前に出れば確実に殺されるだろう。だが、彼は死ぬつもりなど微塵もなかった。既にエスメラルダから将来を共にすることを了承されたからだ。自分一人の身体ではない……彼は生きて帰ることを心に決めた。
「あんまり湿っぽいのは好きじゃないし……そろそろ出発する?」
「ああ、そうだね」
メンタルウォーターや信義の花も準備は完了している。向かうメンバーは春人にアメリア、レナとルナ、それからミルドレア……そして、サキア、アビス、美由紀となっている。
「私が行っても大丈夫なのかしら……?」
「俺がお守りいたしま……」
「大丈夫、委員長は俺が守るから」
アビスの言葉を遮るように春人は美由紀に約束をする。相当、女たらしの発言ではあるが、美由紀はそんな春人の言葉に励まされていた。
「みなさん! 危険だと思いますけど……絶対戻って来てくださいね!」
「そうだよ、死んだりしたら承知しないから!」
アルマークとイオも時計塔に駆けつけていた。春人たちが神聖国へ出向くことを知ったのはついさっきという者も多いが、これだけの人数を彼らは集めているのだ。春人にとってはまさに故郷と言えるアーカーシャ。これからも住まう街として必ず、脅威を取り除き戻ってくると考えた。
「春人さん」
「エミル……」
「気を付けてくださいね……私にはそれしか言えませんが」
「うん、ありがとう。必ず戻ってくるよ」
「はい、お待ちしています」
春人とエミルはお互い多くを語らずに見つめ合う。それだけで全てが伝わっているような感覚に包まれていた。アメリアは少し表情を強張らせるが、何も言わずに二人の間の雰囲気を観察していた。
悟たち「フェアリーブースト」やメドゥの姿はないが、知り合い全員に挨拶を交わしている時間があるわけでもない。それに、春人達からすれば必ず戻ってくる旅行のようなものだ……彼らは死にに行くわけではないのだから。
「……しかし、戦力的には不利と言わざるを得んな……これは」
急遽、ミルドレアが口を開く。美由紀の存在には何かを感じているようだが、美由紀自身とアビスの能力を正確に感じ取ったのだろう。レベル60程度では確かに足手まとい以外のなにものでもない。
「美由紀は切り札になる可能性があります」
「切り札……か」
美由紀のことについては何も知らないミルドレアではあるが、アビスの存在を鑑み、サキアの言葉をとりあえず信じることにした。
だが、春人、アメリア、レナ、ルナ、ミルドレア、サキア……果たしてこの面子であの化け物たちを食い止められるのか? 1000年も前に世界を手に入れた親衛隊の面々……不老の怪物……。
「うふふ、それでは少しだけ、不安を取り除いて見せますわ」
「え、レナさん?」
春人達の間でも物量では適わないという感情が芽生え始めたころ、レナは自身満々にそう言った。隣に立つルナも同じ表情をしている。
「あまりこういった場所で見せるものではないのですが……私たちの切り札をお見せ致しますわ。ルナ、行きますわよ」
「うん、レナ」
そして、二人はお互いの手を取り合った。彼女たちを中心に魔法陣が地面に描かれて行く。
「ダブル召喚……! タナトス!」
二人の力を組み合わせてより、高レベルのモンスターを生み出す、最強の召喚術ダブル召喚……。だが、現れたモンスターはフィアゼスの親衛隊の一角、レベル900を誇る死神……タナトスであった。
想像以上の「切り札」……。彼女らをよく知るアメリアも、このモンスターの召喚には度肝を抜かされた。




