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62話 決死の覚悟


 場所はアクアエルス遺跡……その最深部の奥、隠しエリアでの戦闘も決着が近づいて来ていた。



「ぐう……!! こ、これほど強いなんてな……! サイクロプス……!」

「ごぉぉぉぉ!」


 オルガは1人でサイクロプスを相手にしているからか、疲労も限界に達していた。手に持つ曲刀も所々、刃こぼれを起こしている。メドゥが付与した特殊効果の時間はとっくに過ぎており、オルガはどんどん劣性へと追い込まれていた。


 相手のサイクロプスもいかにレベル380の強さを誇るとはいえ、オルガの連続攻撃を受けて、相当に疲労とダメージが蓄積しているようだった。気を抜けば勝負が決する……そんな戦いが繰り広げられている。





「風神障壁~~~!」


 もう一つの戦局では、メドゥが風属性の防御壁を展開し、アンジーと自分の二人を防御していた。両腕を折られているジャミルは蚊帳の外といった状態だ。


 アンジーのウォーハンマーとサイクロプスの棍棒が激しい音を立ててぶつかり合う。必死でこらえるアンジーではあるが、やはり力の差は如何ともしがたく、弾き飛ばされてしまった。


「私とメドゥの二人がかりでも、サイクロプスの相手はキツイわね……しかも……」

「本命が残ってる……」


 アンジーとメドゥは奥の階段に目をやった。その上には2体の狼と戯れるヘカーテの姿があったのだ。まだ本命は戦闘態勢にすら入っていない。


「アテナちゃんに怒られるかな~~? でもでも、フェンリルだって私の大切な眷属だよね?」

「ハルルルルッ」


 白い身体の狼、フェンリルは優しい表情でヘカーテの顔を舐める。ヘカーテも嬉しそうにフェンリルの白銀の体毛にダイブしていた。まさに、下での死闘などお構いなしの触れ合いだ。その場所だけは別世界を思わせた。



「サイクロプスが完全に下っ端扱いね……信じられないわ」

「腹が立つ……私達なんて、眼中にないみたい~~」


 ヘカーテは最初こそサイクロプスを応援していたが、途中から飽きてきたのか、ケルベロスやフェンリルと遊び始めたのだ。そこには、圧倒的な序列の差が感じ取れた。


「あれれ~~? 結構、サイクロプスも苦戦してるね。もう、お腹減ってるのに~~!」


 ようやく戦局に目を向けたヘカーテだが、サイクロプスの苦戦度合いに不満があるようだった。


 彼女のお腹は先ほどから鳴っており、不機嫌さが現れていた。口を膨らませて、猫のような瞳孔はわかりやすく怒っていることを象徴している。


「よ~し、ケルベロスとフェンリルも参加しようか」

「グルルルル」

「ハルル」



 ヘカーテの命令と同時、2つの巨体は起き上がった。ヘカーテ自身にはまだ戦闘の意欲はないが、その両脇の狼は先ほどまでの雰囲気とは違っている。



「まずいね……あの狼も動き出す以上、勝ち目はもはや0だ……! 一旦引くとしようか」

「うん、転送陣で……!!?」



 メドゥはジャミルの判断に従い、すぐに転送魔法を起動させた。しかし、作動しない……メドゥに戦慄が走る。


「な、なぜ……!?」

「言っておくけど、転送魔法は使わせないよ? お腹空いてるんだから、君たちは全員、私達の餌だよっ」


 笑顔でヘカーテは残酷な宣言をした。何らかの方法で転送魔法が使えない状況にされているのだ。通常の魔法は使えていることから、一定のエリアからの転移阻止といったところか。


「あははははっ! そういう顔大好きだな~~! とにかく、一人も逃がさないから」


 ヘカーテは可愛らしく笑いながら甘えたような声で言ってのける。性格的な残酷さはアテナ以上と言えるのかもしれない。彼女に命令された狼2体はゆっくりと階段を降り始める。勝敗は決した……「シンドローム」全てのメンバーがそれを直感した瞬間だった。


「年功序列かしら? 私も若いけれど……」

「そうだね、私はリーダーとして、ここに残る義務があるな」

「二人だけだと、とても持たないぜ? メドゥを逃がすには俺も時間稼ぎに交わらないとな!」



 メドゥを逃がすように立つのは「シンドローム」の男性たちだ。3人とも死を覚悟した目つきになっている。


「みんな……なにを……?」

「へい、メドゥ! よく聞きな、お前はここから全速力で出て、周囲に危険を知らせるんだ! わかったな? 大役だぜ!」

「そ、そんな……みんなを置いていくなんて……!」


 メドゥはその場を離れるつもりなどなかった。死ぬのであれば、愛すべきメンバーたちと一緒……それが、彼女なりの考えなのだろう。だが、無情にも時間は待ってくれない。メドゥが涙目になりながらも、敵の攻勢は続いていた。


「がっ!」

「ぐわっ!」


 アンジーとジャミルを襲った強烈な痛み……彼ら二人は片腕をそれぞれの狼によって奪われていたのだ。推定レベル700以上……ジャミル達とはいえ、その速度は目で追える限界を超えていた。アンジーとジャミルは突然襲った激痛に身体を震わせている。


「グルルルルル」

「ハルルルルル」


 ケルベロスとフェンリルはそれぞれ、奪った腕を旨そうに食していた。そして、さらに身体の部位を奪おうと彼らを見据える。サイクロプスだけでなく、ケルベロスとフェンリルも戦線に降り立った。最早、一刻の猶予もない……オルガは叫んだ。


「メドゥ、走れ! 決して振り返るな!!」


 オルガの渾身の怒号……それを聴いたメドゥは涙を一層溢れ出し、鼻水も垂らしながら、一目散に走って行った。恐怖から逃れたいことと、仲間の決死の覚悟……それらが入り混じったメドゥなりの考えだったのだ。

 彼女は一切振り返ることなく、その場から走り去っていく。


「痛すぎるわ……でも、なんとかメドゥだけでも助けられそうね……」

「まだまだ、わからない……死んでもこの戦線は守りぬくよ」

「勿論だぜ……!」


 メドゥは全速力で走り去り、既に姿は見えなくなっていた。


「あ~~! 逃がしたらダメだよ! ケルベロス、フェンリル! 死に損ないはさっさと始末して!」


 決してこの先には行かせない……アンジーとジャミル、オルガの3人はそんな結束で一致団結していた。


 自分達よりもはるかに格上の存在……そんな者達が相手でも、少しの時間稼ぎであればできる……今宵は彼らの命がけの覚悟が成立した日となったのだ。


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