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61話 決着


「いてっ!」


 オルランド遺跡8階層の隠しエリア……その最後の地点でミルドレアとアテナの戦闘は繰り広げられていたのだ。アテナの拳の一撃はミルドレアに命中することはなく、テレポートによる背後攻撃をカウンターとして喰らう始末だった。


「……浅いっ」

「いてぇな……くそ、瞬間移動は結構厄介だな」


 歯を食いしばりながら悔しそうにしているアテナだが、むしろ焦りを感じているのは連続で攻撃を命中させているミルドレアにあった。


 ダメージが浅すぎる……。一撃で鉄巨人の装甲すら貫通したミルドレアの氷の槍。その渾身の一撃での縦横無尽の攻撃こそが、彼の真骨頂であったはず。しかし、その一撃をもってしてもアテナには有効打にすらなり得ていなかった。


「おらぁ! どんどん行くぜ!」

「速いっ……!」


 アテナの攻勢……先ほどから何度もやられている攻撃だが、彼女は全く恐れている気配がない。攻撃を受けてもほとんどダメージを受けないからだ。彼女はまだまだ余裕があるのか、攻撃速度もさらに増していた。


 アテナの攻撃をギリギリでテレポートで躱し、彼女の死角から氷の槍を突き立てる。いつも通り攻撃は命中して……


「……なにっ!?」


 しかし、今回の死角からの一撃は躱された。

 アテナはミルドレアを攻撃した直後だ。体重移動などにより、決してその直後の彼の攻撃を避けることはできないタイミングなはず……ミルドレア自身、そのような考えを巡らせる。


「なぜだ? そんな顔してるよなお前。知りたいか? ん?」


 自信満々に仁王立ちしながら、アテナは大笑いしていた。すぐに距離を取るミルドレア。その表情は戦慄に満ちており、自らの戦闘スタイルが看破され始めたことへの恐怖に変わっていた。



「どんな芸当だ? 決して避けられるタイミングではなかったはず」

「簡単な話だよ。どの方向から来ても対処できるように、お前を攻撃する前から意識を張り巡らせていただけだ。つまり、先読みみたいなものだな、攻撃を避けられない時間を消す為に、最初の攻撃も適度に加減していたんだ」



 簡単にアテナは言ってのける。ミルドレアの攻撃方法がわかり、少しの攻防でその対処法を考え付いたのだ。もちろん、そのような芸当が可能なのは彼女自身の圧倒的な戦闘力があってこそだが。


 ミルドレアは驚愕する……自らが幼少の頃より手にした力。テレポートの完成はそれから数年後のことではあったが、それから10年以上に渡り負け知らずの最強を貫いていた。


 それは文献の中で語り継がれる、最強のモンスター「鉄巨人」を前にしても変わることはなかった。彼は自らが最強であることを証明した……自他共に、それを否定する人物は現れないだろう。そのような自信さえ持っていたのだ。


「全く……これだから、人生は面白い。まさか、貴様のような強者が居るとはな」

「てめぇも、なかなか強いぜ。後ろの鉄巨人たちじゃ確かに倒せねぇな。テレポートが特に厄介だな」




 ミルドレアとアテナはお互いを賞賛し合い、戦闘は再開される。実際の能力差は相当に開いている二人ではあるが、それを鑑みても賞賛すべき相手との認識が生まれたのだ。


「ミル……」


 エスメラルダは、二人の戦いを止めることはしなかった。ただ、愛する者が望むことを見守ることにしたのだ。勝敗は既に決まっている戦い……しかし、エスメラルダはその場で待機していた。


 ミルドレアからの攻勢……アテナがその攻撃を受ける側へと戦局は変わっていた。


「いきなり、攻撃パターンを変化させやがったか! 柔軟な奴だぜ!」


 アテナはカウンターの要領でミルドレアに拳を振るうが、当然の如くテレポートにより彼は眼前から一瞬で姿を消した。


「あめぇよ!」


 だが、ミルドレアの瞬間移動攻撃は完全に読まれていた。それはパターンを変化させたとしても変わらない。

 アテナはミルドレアのテレポート後の攻撃が届く前に、2段目の攻撃で氷の槍を粉砕、そして3段目の拳はミルドレア自身を標的にし、彼を粉砕した。


 地面に叩きつけられるミルドレア。ダメージはかなりのものであった。


「氷の槍ごと……なんということだ……!」


 吐血し、身動きが取れないでいるミルドレア。もはや、戦うことなどできないことは誰の目から見ても明らかであった。


「自慢の槍だったのかよ? まあ、なかなかの強度だが、私にダメージ与えられない時点で大したことねぇな」

「貴様が規格外なだけだ……ごふっ」


 ミルドレアはさらに吐血し苦しそうに息を吐いている。アテナはそんな彼に止めを刺す為に近づいた。


「……敗北した俺が頼めることではないが……エスメラルダという、あちらの女性は見逃してくれないか?」

「ああん? 人間じゃない私に頼みごとかよ? 随分、平和な世の中になってるな、おい」

「くく、確かにそうかもしれんな……1000年前は戦火の絶えない世の中だったのだろう……」


 アテナは拳に光を集中させながら、背後に立つエスメラルダ・オーフェンに目をやった。もはや、エスメラルダは声すら上げられない状態になっている。これから何が起こるのか、脳裏では理解できているからだろう。



「私達の宝は?」

「予想済みか……墓荒らしの真似は個人的に好きではなかったが……。俺たちが集めた物はアルトクリファ神聖国にある」

「アルトクリファね……しらねぇな」

「ふふ……お前たちが眠ってからの傀儡国家みたいなものだ。フィアゼス信仰の国だよ」



 死を覚悟しているミルドレア。完敗した彼としてはむしろ、死を実感し享受する余裕も生まれていた。


「ジェシカ様の影響力で作り上げたってところか。ま、それはいいや。とりあえず、これで締めだ」


 アテナは右腕に込めた闘気を開放するかのように発散させ、そのままミルドレアに向かって振り抜いた。


 ミルドレアの腹に命中したその攻撃は、その周囲を大きなクレーターに変える程のエネルギーを持っており、誰もが彼の最期を感じ取っただろう。ミルドレアの姿は大きなクレーターの底に移動しており、ピクリとも動いている様子はない。


「……行くか。おい、女!」

「ひっ……!」


 意識が朦朧としていたエスメラルダ。その場に座り込み、涙すら出ない状態になっていた。アテナに睨まれた彼女は子ウサギのように弱々しい。


「さっきの男の名前はなんて言うんだ?」

「み、ミルドレア・スタンアーク……」

「そうか。まあ、あの男の最期の頼みだ、お前は見逃してやる。よし、行くぞ」



 アテナはそう言うと、指を軽く鳴らした。それが鉄巨人8体への合図になっていたのか、鉄巨人たちは一斉に整列をして、アテナの後に続いた。エスメラルダの傍を平然と通り過ぎていく格上の存在は、ミルドレアの頼み通り彼女には指一本触れることなくその場を去って行った。


 二人の戦いの結末はアテナに軍配が上がった。


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