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60話 親衛隊 その3

「あ~~~、良く寝た~~」


 ジャミル達が階段の下で臨戦態勢を取る中、棺からは、緊張感のない声が周囲にこだました。


 オルランド遺跡のアテナと似通っている獣耳の少女であり、もふもふとした尻尾も同じである。髪はやや茶色がかっており、アテナよりも長い髪をしていた。


 服装も腹の出たミニスカートという出で立ちで、肘近くまでの長さがある手袋も付けている。全体的な服のカラーは黄色になっていた。この色についてはアテナと変わっているがスパッツなど似ている部分は非常に多く、双子のようなものだった。


「へへ~、ケルベロス~~! おはよ~~」

「くう~ん」


 少女は起き上がり、漆黒の狼の身体にすり寄った。先ほどまで怒りの形相をしていた狼は嘘のように甘えた声を出し、少女の顔を舐めたのだ。


「きゃはは、くすぐったいよ~~! あ、フェンリルもおはよ~~!」

「ハルルっ」


 白銀の狼も立ち上がり、少女の前へと歩み寄った。そして、彼女の身体を背後から舐める。モンスター同士の久しぶりの再会ということだろうか。



「あれ? なんか人が居るね」


 そして、一通り少女と狼は再開を喜んだのか、ようやくジャミル達の存在に気付いた。赤い瞳をギョロリと彼らに向けた獣耳の少女は品定めでもするかのように4人を見据える。


 アテナと比較すると甘えた印象の拭えない彼女ではあるが、そこから放たれる波動はアテナと変わらない程に強烈なものであった。


「彼女がこの中のボスかな……もはやレベル上限が見えないね」

「狼より……さらに高い……」


 ジャミルとメドゥは黄色い少女から放たれる気配に、言葉がうまく出てこない状態になっていた。メドゥもサーチの魔法で彼女の能力は測れていないのだ。


「う~ん、どうしようか、ケルベロス? 久しぶりの人間だし、食べちゃおうか?」

「グルルルルルッ」


 少女はケルベロスと呼ばれた黒い狼の身体にもたれ掛りながら、なにやら楽しそうな会話をしている。彼女は笑っているが、話している内容は相当に物騒だ。


「よ~~し、なら早速始末しちゃえ~~。ヘカーテより命ずるよ! 行け行け、サイクロプス~!」


 ヘカーテと名乗った少女は右手を高らかに掲げ、階段の下に立っているサイクロプス2体に攻撃を命じた。命令されたサイクロプスは向きを変え、即座にジャミル達に狙いを定める。



「へいへいへい! 巨人野郎ども、やる気満々じゃねぇか!」

「これは不味いわね……レベル380の怪物が2体なんて」


 オルガもアンジーも急遽、殺意の波動を見せてきたサイクロプスに警戒心を強める。階段の上の者達はまだ戦闘意欲はないようだが、いつ攻撃を仕掛けて来ても不思議ではない。その恐怖が二人をさらに警戒させていた。



「ち、考えていてもしょうがないな! 先手を取るぜ!」


 早口のオルガだが、目の前の圧倒的な存在を目の当たりにしているからか、さらに早口になり、気付いた時にはサイクロプスに挑んでいた。


「ブウウウ!」


 ある意味でその素早い行動は功を奏する。4人の中で最も戦闘力の高いオルガがサイクロプスと打ち合い、緩衝材になることで、他の3人は自然と彼をバックアップすることができたからだ。


「オルガ~~、援護する~~~」


 メドゥは話し方こそゆっくりではあるが、この上ない程のスピードで彼にスピードアップとフィジカルアップの魔法をかけた。5分間、オルガは攻撃能力と速度が1.4倍に上昇した。

 この時、オルガの実力はメドゥの援護もあり、単体でもレベル380のサイクロプスと打ち合えるレベルになっていた。


 アンジーとジャミルはネクロマンスの能力で操っているキマイラも最大限活用し、もう一体のサイクロプスに照準を合わせたのだ。攻撃はこちらから動いたが、それが命取りになってしまった。想像以上に速いサイクロプスの攻撃が彼らを襲う。



「危ないわ! 下がって!」


 オカマ口調ではあるが、言動は勇敢な戦士のそれだ。どちらかと言うと後衛のジャミル、完全に後衛型のメドゥを庇い、アンジーは手に持つウォーハンマーでサイクロプスのカウンター攻撃を受け止めた。オルガとは違い、アンジーはメドゥの補助魔法による強化を受けていても尚、後方へと大きく飛ばされてしまった。


「ぐっ! 完全にガードしたはずなのに……こんなに弾き飛ばされるなんて……!!」


 ウォーハンマー越しに両腕に伝わる強烈な痺れ……それが、サイクロプスの攻撃力の高さを物語っていた。


「つ~~よ~~~い~~!」

「アンジーがあそこまで吹き飛ばされるとはね。仕方ない、キマイラ!」


 4体のキマイラはサイクロプスの攻撃に恐れをなしていたが、ジャミルからの直接命令を受け、その感情も消失したようだ。


 すぐに人形のような能面になり、サイクロプスに向かっていく。だが、レベル137程度の強さではサイクロプスにダメージは与えられない。そんなことはジャミルもわかっていた。


 さらに、サイクロプスの方が攻撃速度は速く、キマイラを突進させても返り討ちに逢うことは明白であった。そして予想通り、サイクロプスはキマイラが射程に入ると、素早く棍棒を振り払った。


「今だっ!」


 ジャミルの大声が周囲に轟いた。それを合図にして、サイクロプスの攻撃を受ける直前のキマイラ達が一斉に身体を光らせ、その直後、大爆発を起こしたのだ。その爆発は部屋を広範囲に焼き払い、煙幕を周囲にまき散らした。ジャミルは、以前にミルドレアが倒したキメラと同じような技を強制的に発動させたことになる。


「さて、レベル137の自爆ではあるが、4体同時だ……倒せたか……?」


 ジャミルはそう言ったが、彼の考えは瞬時に外れることになる。爆炎から勢いよく飛び出してきたのは巨人の大きな腕と棍棒であり、そのままジャミルに襲いかかった。


 咄嗟に両腕でガードし、脳天への直撃は回避したジャミルではあるが、そのダメージは計り知れず、ガードした両腕はいとも簡単に折れてしまった。


「ぐう……! こ、これは不味いね……!」


 90度に折れ曲がった両腕を見て、さすがのジャミルも後退せざるを得なかった。後退中の彼に追撃が入らないようにメドゥとアンジーが立ちはだかる。

 爆発の直撃を受けたサイクロプスはさすがにダメージを負っているようだったが、致命傷には至っていない。


「このままでは不利になるだけね。サイクロプスを倒すわよ! ダメージは負っているわ!」

「うんっ!」


 一時宣戦を離脱したジャミル。その間の戦局はオルガとサイクロプス、そしてアンジー&メドゥと、もう一体のサイクロプスという構図になっていた。


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