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50話 転落


「は、春人……? なんで、ここにいるんだよ?」

「いや、爆発の音が凄かったからさ。本来は警報機が鳴れば来る手筈だったんだけど。どちらにしても、ちょういいタイミングだったね」


 目の前に居る人物は、悟がつい数か月前まで苛めていた相手だ。そんな人物に助けられるなど、本来であれば死にたくなるほどの失態だろう。しかし、今に悟は歓喜に満ちていた。自らが死なないことへの喜び……。先ほどの走馬灯が嘘のようだ。


「お前は、高宮春人!? それ以上近づいたら……!」


 春人に驚いたゴイシュは、悟を人質にしようと試みるが、そんな素振りはデスシャドーのサキアが許さなかった。瞬時にゴイシュの両腕をつかみ、拘束する。


「て、てめぇは……!? まさか、デスシャドーか!?」

「はい、マスターは春人様になります。私としては、そちらの方の命などどうでもいいですが……マスターは望まれないと思いましたので、あなたを拘束します」


 そう言いながら、ゴイシュの両腕を問答無用でへし折るサキア。


「ぐわああああああ!」

「この程度なら元に戻るでしょう。切り落とさなかっただけ、感謝してください」

「うぐぐぐぐ……! ……はっ!?」


 両腕に走る激痛。ゴイシュは思わずサキアの顔を見上げた。そして、彼に走るのは戦慄……一瞬、両腕の痛みすら忘れる程、彼の表情は強張っていた。


「近くに寄り過ぎました。私のレベルを察知したんですね、ご愁傷様です」

「……ば、ばかな……! ……こんなことが……あるわけ……!」


 ゴイシュの戦慄の要因はサキアのレベル……完全に正確とは言えないが、感じ取った数値を見て彼は絶望以上の表情を向けていた。もはや、反抗する気など微塵も生まれていない。


「ご苦労様、サキア」

「ありがとうございます、マスター」


 そして、春人にサキアは深々と頭を下げる。今回の行為を春人は全く責めることはなかった。アルマークとイオに行った行為からすれば、春人は殺すかどうかを先ほどまで迷っていたくらいだからだ。むしろ寛大な処置と言える。


「悟……こうして、話すのは初めてだね。こっちの世界では」

「そうだな……まさか、お前に助けられるなんて思わなかったぜ……ははは……」


 悟の全身は小刻みに震えている。ほんの数十秒前までは死を覚悟していた為だ。自分は助かっているという実感が、まだ出ていないのだろう。悟は自分の身体を強く握り、なんとか震えを落ち着かせる。


「俺もこんな日が来るなんて思わなかったよ」

「そっちの黒い子との関係も気になるが……お前には紹介しないといけない人が居るんでな。そちらも追々……まあ、まずは……ありがとう」


 嫉妬、羨望……そして、憎悪。複雑な感情が混ざり合いながらも、悟は春人に対して心からの感謝を行った。そして、二人から自然とこぼれる笑顔……この時の二人はお互いに、余計な言葉など不要な親友のような印象を周りに与えていた。



「あの~こっちはどうするの?」


 彼らの後ろから、アメリアの声がした。二人の友情に茶々を入れるのが申し訳なかったのか、少し遠慮気味だ。アメリアが指差しをした方向は戦意を喪失しているキャサリンとジスパの姿があった。


「ちくしょう! ゴイシュの役立たずが!」

「これで……逃げることも叶わず……ですな」


 ジスパの首長イタチはとっくにアメリアに倒されていた。二人とも逃走すらできないことを悟ったのかその場で座り込んでしまった。

アメリアは自身の周囲に展開していたエネルギー弾を消す。本来なら、彼らにお見舞いする一撃だったが、その必要がなくなったためだ。


 それから、破壊された室内から煙に紛れて、「フェアリーブースト」と「センチネル」のメンバーが続々と現れた。アルマークとイオはヘルグ達に支えられて、なんとか歩いて来ていた。


「決着はついたみたいだな、悟。まあ、うまくは行かなかったが」

「ええ、そうですね……春人達が来てくれなければ……俺は死んでました」


 ヘルグの言葉に、悟も素直に言った。その口調には、もはや春人を侮蔑する感情など紛れてはいなかった。彼としても、認めざるを得ないということだろう。春人は、身体の自由を奪われている、二人に目をやった。



「大丈夫か? アルマーク、イオ」

「はい……来てくれて、ありがとうございます……本当に、よかったです……イオが無事で」

「アルマーク……! うわぁぁぁぁ……!」


 ボロボロになりながらも、アルマークの言葉にイオは感動し、泣き出してしまった。春人も思わず、貰い泣きをしそうになる。


「来てくれてありがとう。本当に……」

「え? いや、そんな……気にしないでよ」


 お互い良く知らない者同士だが、ラムネとアメリアも言葉を交わしていた。しかし、アメリアはラムネの視線が春人に向かっていることを決して見逃していなかった。


「ところで、マスター。この3人の処遇は? 起こした罪の重さからも殺してしまった方がいいのでは?」

「いや、それは俺たちが決めることじゃないしね。後は、ギルド本部に任せよう」


 寄宿舎に住む多くの者達が、爆発に驚き中庭に集合している中、ゴイシュ、ジスパ、キャサリンの3人はまんまと拘束されてしまった。

まさに、ゴイシュ達からしてみれば、築き上げた天からの転落ということになったのである。築き上げた天そのものが、非常に標高の低いものではあったが。


 そして、春人達はアルマーク達の体調の回復を待って、ゴイシュ達をギルド本部へと連れて行った。


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