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42話 トネ共和国の依頼 その2


「ここら辺やったら邪魔は入らんやろ」


 クライブに連れて来られた場所。それは春人のイメージ通りというわけではなかったが、河川敷でないことに彼は安心した。それだと完全に番長対決になってしまう。


「ドルトリン」の店から少し路地を入ったところにある通路で勝負は始められることになった。周囲は怪しい建物が並び、一般人が通る勇気は出ない雰囲気をしていた。クライブの部下によりあらかじめ人払いをされているのか、誰かが通る気配はない。


 春人とクライブはそれぞれ、ほどよい距離を取り互いに見据える形となった。アメリア達は着替えて、彼らの近くに集合している。なぜかついて来たルクレツィアとメドゥはバニーガールのままだが、アメリアとイオは何時もの服装になっている。露出が減り、残念に思う春人であった。


「勝負は素手でやろか。あ、魔法の使用はOKやで」

「素手……どのみち、俺は魔法は使えないし」


 闘気を操っているので、厳密には魔法に該当しているが、敢えてクライブは突っ込まなかった。闘気を使える者が魔導士と言ってしまえば、戦士と魔導士の区別はなくなってしまうからだ。



「さて、高宮春人……どんなもんや?」


 クライブは表ではまだまだ、冗談を言いながらも春人の観察を開始していた。店の中でも観察はしていたが、戦いを前に春人の闘気がより収束していることに気付いている。お互い武器の使用はしないとはいえ条件は同じ。


 クライブは以前の円卓会議での彼と比較して、現在の春人はさらに向上していることを見抜いていた。単純な能力の向上もそうだが、より戦闘経験を積んだことによる能力の上昇が大きい。


「んじゃ、早速やろか。別に命の取り合いやない。気楽に行けばええやろ」

「殺気が凄い気がするけど……気のせいじゃないよね?」


 春人からの挑発……クライブは意外な彼の一面に一瞬驚いていた。こういう態度も可能なのか……クライブの中で春人の印象が変化する。だが、所詮は17歳の戦闘経験も少ない少年。クライブは負けることなど微塵も思ってはいない。


「じゃあ、殺気を見抜いた春人くんに免じて先手で言ったるわ」

「普通は先手を譲るものなんじゃ……」


 春人の突っ込みを無視するかのように、クライブは間合いを詰めてきた。そして、右ストレートが春人を襲う。


「うっ!?」


 相当な速度で繰り出されたその攻撃は、春人の肩辺りにヒットした。しかし、ダメージを受けている様子はない。


「さすがに……堅いな」


 春人の防御は常時発動している「オートガード」と同じである。相手の殺気に反応して、よりその闘気は収束していく。つまり、害意の意志がない攻撃は素通りすることになるが、殺気の籠らない攻撃は存在しないので、通常の攻撃と呼ばれるものは常時ガードが可能となっている。


 アメリア達の冗談の攻撃はそれには含まれていない。殺気が籠っているか否か……その認証制度はおそろしいほど高いのだ。


「サキアのオートガードが発動していない……大した攻撃じゃないってことかな?」

「ほう、言ってくれるやないけ」


 クライブは10歳近く若い春人の言葉に、少し苛立ちを覚えた。こんな屈辱的な言葉を受けたのは何時以来か……。かつて戦った、ミルドレア・スタンアーク以来か……。


「ほんなら、本気で行くで!」


 クライブはさらに加速して春人の眼前に迫って行った。そして、彼が構えるよりも先に両腕を駆使した連続攻撃を繰り出す。先ほどの攻撃は受けた春人だが、今度の攻撃は全て腕でガードをした。ダメージはまたしても与えられない。


「……嘘やろ? かなり全力なんやが……」


 おかしい……クライブは戦慄する。自分は持てる力を相当に出している。それでも、春人は平然と自らの攻撃を捌いて行く……。これほどの実力者……? リガインはアメリアに一瞬の内に敗れたというのは聞いていた。


だが、この目の前の春人はそれ以上……リガインよりもはるかに強いクライブを手玉に取っているのだ。接近戦であれば、アメリアすら春人には及ばない……クライブの中にそのような言葉がこだました。


 そして、同時に響き渡る、かつてのミルドレアとの戦闘……クライブは彼の本気を出させることは適わなかったのだ。


『トネ共和国、最強の人間でもこの程度か……興が削がれた』


 クライブの内面にこびりついている、ミルドレアの言葉……今更になって彼は鮮明にその時のことを思い出していた。


「はっ、ほんま嫌な奴やわ、あの男は……リガインを暗殺に向かわせたんも嫌がらせやってんけどな」


 クライブは賢者の森に懐刀のリガインを向かわせたが、暗殺は失敗に終わることはわかっていた。リガインでは不意打ちでもミルドレアに勝てないことはわかっていたからだ。彼なりの大人げない行動でもあった。


 クライブがそのような、考えを巡らせている間も春人への攻撃は続いていた。春人はオートガードを敢えて発動させずに、クライブの攻撃を無傷で凌いでいる。無傷ではあるが、その攻撃の重さはグリフォンの一撃を凌ぐ程ではあった。春人もその考えには至っている。



「春人っ! いけいけ~!」

「春人さん、ファイトだよ~~!」

「春人さん、負けないでください!」



 アメリア、イオ、アルマークのそれぞれの声援が春人の耳に響いた。パートナーのアメリアから声援を受け、後輩のイオからも応援されている。アルマークからは純粋な尊敬の念を感じる。

ここで全力を出さないのは彼らの応援に報いていない……また、クライブに対しても失礼に当たると考えた。


 このわずかな肉弾戦で、春人は全力を出さずともクライブに打ち勝てると判断していた。しかし、敢えて彼は攻勢に出たのだ。


「なっ!?」


 クライブが驚くのも無理はない。春人の攻勢に転じた時の速度は、彼の速度を軽く凌駕していたからだ。クライブは春人の打撃を防戦一方で何とか防ぐ形になってしまった。

だが、防戦一方でも、クライブに春人の攻撃を完全にガードすることはできない。彼は思わず春人から距離を取った。


「化け物か、おのれは……こんな人間、いままで1人しか見たことないわ……ほんまに」


 クライブはそう言いながら、頭の中では例の人物を思い浮かべていた。このままでは勝てない……トネ共和国最強の自負がここに来て最高潮に達する。



「どうします? まだするんですか?」


 春人としては勝負が着いたと感じたのか、いつもの敬語に戻っていた。


「は、どこまでもバカにしてくれるわ。でも、悪あがきはさせてもらうで……」


 クライブは実力差を感じながらも負けを認めていない。春人としても、なにか奥の手があることを察知していた。春人は、強力な攻撃に備えて構えを取る。


「まさかこれを使うことになるとはな……。現状の人間では使えるのは俺くらいやろ」


 そして、彼の周囲は青い光で包まれる。春人はその光に見覚えがあった。以前、賢者の森で見た眩い光に酷似していたのだ。


「行くで……ハイパーチャージや!」


 そして、彼の周囲で青い光が一気に放出された。1分間は全能力が2倍になる高レベルの強化魔法。使用時間は他の強化効果と比較して短く、自分自身にしか使用できないが、それを補って余りあるほどの強化効果を付与する。


 パーマネンスと組み合わせれば、まさに無敵の能力と言えるが、パーマネンスの魔法を使用できる金の首飾りはアルマークの首に掛けられていた。

 ある意味では不幸中の幸いと言えるのかもしれない。もちろん、アルマークが今、パーマネンスをクライブにかければ、理想の組み合わせは実現するわけではあるが。


「俺自身がパーマネンス使えれば永続化も容易やけど……世の中、そう上手くは行かんな。まあ、戦闘の最中、1分間とはいえ全能力が2倍になるのは強力過ぎるわ」

「確かに……そうですね」


 春人もクライブの言葉には同意した。元々の基礎能力が高いクライブがハイパーチャージを使えばどうなるか……春人としても容易に想像ができる。


「じゃあ行くで。なんせ1分しか持続せんからな」


 そして、クライブは間髪入れずに春人に接近を試みた。先ほどとは比べものにならない速度から繰り出される、威力が2倍増しの攻撃……春人としても、さすがにその攻撃はひとたまりもなかった……はずだった。


「……おいおい、冗談やろ?」


 クライブの渾身の打撃は春人には届かず……彼の腕で受け止められていた。どの程度のガードなのかは、春人の余裕の表情で読み取ることができる。つまりは、容易にガードされたことを意味する。


 彼はまたしてもミルドレアを思い出していた。彼の防御はハイパーチャージを使用しても貫通することはできなかった。そして目の前の春人に対してもそれは同じだ。春人の受け止めた腕には微塵のダメージも見てとれないからだ。


「俺の方が強かったみたいですね」

「そうやな……はは、好きにしてくれ……まさか、ここまでの差があるなんてな」


 ハイパーチャージ状態の一撃すら、春人には通じない……クライブはその光景を見て、素直に負けを認めることができた。そして、繰り出される春の拳、クライブは顔面にその一撃を受け、大きく後ろに吹き飛ばされた。春人の完全勝利の瞬間であった。


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