119話 ラブピースとの決着 その1
「……ここは、洞窟の中か……?」
「そうみたいね」
雨水が滴り落ちる不衛生な洞窟の内部。近くには賢者の森を構える天然の洞窟ではあるが、ラブピースのメンバーによって、いくらかの改装は行われていた。
ナーベルとミーティアの二人はそんな決して環境が良いとは言えない洞窟内で目を覚ましたのだ。頑丈な手錠を掛けられており、武器も存在していない。目の前には鋼鉄の鉄格子が見えており、彼女たちでも簡単には出られないことが推測された。
「まだ命はあるようだな……運が良いと言えばいいのか」
「そうだけど……フェアリーブーストのみんなも気になるわね。生きているといいけれど」
自分たちよりも先に洞窟内に侵入を試みた悟たちのグループ。あの煙幕の中ではそんなやり取りが行われていたのだ。だが、当初の目論見は外れてカイエルとアンバートの二人に敗れたナーベル達は洞窟内に囚われの身となってしまった。
自分たちよりも実力で劣るフェアリーブーストの面々は同じく捕まったと推測することも至極真っ当なことであった。彼女たちも不安の表情を隠せないでいた。
「お目覚めかい?」
「命に別状はないようだな」
「お前たちは……!」
鉄格子の向こう側から聞こえる聞き慣れた声。自分たちを倒したカイエルとアンバートが立っていたのだ。ナーベル達の容態を気にしているようだ。
「容態を気にしているなんて意外ね」
「死なれては、商品価値が消えてしまうからな。フェアリーブーストによって、何名かの商品が逃がされてしまった。大きな損失だ。お前たちで補填する必要がある」
そう言いながら、カイエルは頭を抱え出した。彼の言葉からもフェアリーブーストは捕まってはいないのだと推測することができる。ミーティアたちにとっては朗報だ。だが、良いことばかりでは決してなかった。
「フェアリーブーストは別の大穴を開けて脱出したようだ。見張りに付けていた部下を全員倒しての功績は褒め称えるべきことだが……この者達の命は考えなかったようだね」
「!!」
カイエルがナーベルとミーティアの前に差し出した物……それは生首であった。当然身体から下は存在していない。アレクとエンデ、コウテツの3人分だ。
「イリュージョニスト……Bランク冒険者として活躍していたアーカーシャの専属員だね。才能的にはBランクよりも上に行くのは厳しいとされていたようだが……やれやれ。こんなところで人生を終えて、さぞかし無念だろう」
「カイエルの言う通りだ。お前たちが、俺達に負けなければ彼らは助かっていただろうにな」
カイエルとアンバートは見下している雰囲気ではないが、生首をナーベル達に見せた後、それらを無造作に傍らへと投げ捨てたのだ。そこには微塵も躊躇いは感じられない。
ナーベルとミーティアの顔色が豹変する。命のやり取りをする状況では殺されるのは当然のことだ。それは理解している彼女たちであるが、カイエルたちの態度には我慢ができないところがあった。
彼らの言う通り、フェアリーブーストの面々は逃げることに成功したようだが、一歩間違えれば、彼らの生首も存在していたことだろう。それを考えると、彼女たちの敗北は非常に大きな結果であったと言えなくもない。
「……お前たちが、ただの下衆だということは理解した。勝負のついた者を殺すとは……」
「なにを言っている? これからは大陸の覇権を巡って多くの命が失われるさ。それを考えれば、1つや2つの命が消えたところでどうってことはないよ」
ナーベルの静かな怒りに呼応するかのように、カイエルは挑発をしてみせる。ネオトレジャーの情報の中には、裏組織が動き出したことはまだ入っていなかったが、カイエルの言葉からも、裏組織が覇権を握る算段であることは容易に理解することができた。
「命を軽視する考え……それがラブピースの基本理念というわけね。よかったわ、絵に描いたようなクズの集まりのようで。改めて、遠慮する必要がない連中だと理解できただけでも十分よ」
ネオトレジャーのリーダー格であるミーティアの怒りも頂点に達していた。普段は温厚なチームの纏め役にしてリッカの暴走を止める役割を果たしてはいるが、この時ばかりは彼女自身が暴走を開始していたのだ。
「……なんだ?」
ナーベルとミーティア。二人の雰囲気が変化したことにカイエルとアンバートも警戒心を強くした。先の戦いでの攻防はお互いが全力であったことは間違いない。余力などは残していなかったはずだ。その上でカイエル達のほうが実力は上であった。しかし、現在の彼女たちの雰囲気は……。
天才……そう呼ばれる者達はしばしば、急激なレベルアップをする時がある。それは強敵との戦闘中やその後に起こることが多いとされてはいるが。
天才の称号を与えられているナーベルとミーティア……彼女たちの実力向上はまさにこの段階で行われていたのだ。ミノタウロスとの攻防を通してもレベルアップは行われたが、カイエル達を通しての戦闘でもさらに行われたということを意味している。
カイエルやアンバートが警戒する程の領域……彼女たちが鉄格子に囚われていることを鑑みても、カイエル達は驚いているといえる……そんな表情を見せていた。
「カイエル様! アンバート様!」
そんな時だった。ラブピースの部下と思われる者が血相を変えて、カイエルとアンバートの前に走って来たのだ。緊張の糸は、一瞬だが切れることになった。
「どうした?」
「賢者の森から敵襲です! グリーンドラゴンがこちらに迫って来ている模様!」
「なんだと?」
部下からの突然の報告に、カイエルとアンバートの表情は曇りを見せていた。一瞬切れた緊張の糸はすぐに結ばれることになった。




