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115話 断章 リッカとタナトスレーグ その1


「ぐう……! つ、つよい……!」

「はあ……はあ……!」


 満身創痍のネオトレジャーの二人。レベル60を超える彼女たちではあるが、本気を出したカイエルとアンバートには及んでいなかった。離れた実力差により、彼女たち二人の必勝法も意味をなしてはいなかったのだ。


 鏡の幻惑盾と薙刀の挟撃……それらは不発に終わり、ミーティアは全身を切り刻まれ、盾を維持させることもできない程に体力を奪われていた。彼女のサポートがない状態ではナーベルの攻撃も相手には届かない。勝敗は決していた。


「しかし、勿体ない。黒髪の大和撫子と思わせる美女と、赤い髪をサイドテールに結わえた美しい女性か……」

「アンバートの言う通りだ。やはり、殺すことは控えるとしようか。組織の金に貢献してもらおう」


 唐突に下衆な会話が展開される。ナーベルとミーティアの二人を満身創痍状態にして、勝利を確実なものにした故の余裕というものだ。


「ふざけるな……誰が、お前らの思い通りになるか……!」


 ナーベルはボロボロになっている服を落ちないように掴みながら、相手を恫喝する。だが、そんな言葉は意味をなしていない。カイエルとアンバートの二人は、むしろ喜んでいた。


「楽しみだ。人身売買も我々の専属になっているからね」

「ああ、お前たちは売るとしよう。さしずめ金のなる木というところか」


 そして、カイエルとアンバートは攻撃を再開した。ナーベルとミーティアの二人の首筋を打ち抜き気絶させる。彼女達はその場に崩れ落ち、瞳は静かに閉じて行った。




--------------------------




 回廊遺跡最下層である96階。そこには、恐ろしい程の攻略ペースでやって来た者が存在しており、ネオトレジャーの一人であるリッカが該当していた。周囲のモンスターレベルは最大で200にもなっており、オルランド遺跡の最下層と同等の危険度を誇る領域になっている。


 回廊遺跡は80階層を超えると、レベル100~200までのモンスターが現れる危険地帯になり、96階層の隠し扉にはタナトスが眠っている脅威の遺跡となっていたのだ。


 タナトス自身は冒険者が来る前に、地上へと出て行ったが、もう一体……タナトスに匹敵する魔物がこの階層には存在していた。


「私の警戒網にかかっていたのはあなたですね。……名を聞きましょうか」


「……レーグ」


 身長は2メートルほどの体格を誇っているタナトスレーグ。相当な巨体ではあるが、モンスターの中では大きい体格ではなく、骸骨のような外見とは裏腹に、比較的小さいと言える。タナトスの亜種に該当しているが、大きさもタナトスよりも小さい。


 レベルは900を誇っており、タナトスとは違い召喚を駆使することはできないが、より攻撃的な行動が可能となっている。単純な肉弾戦ではタナトス以上の存在である。


「人語を操れるモンスター……フィアゼスの側近といったところでしょうか? 私の名前はランファーリと申します。以後、お見知りおきを」


 赤いミニドレスを身に纏うリッカは丁寧にお辞儀をしてみせた。灰色の美しいツインテールはそのお辞儀に合わせて中空を舞っている。そして、自らをランファーリと呼称する彼女。その時点で矛盾が発生していた。


「フィアゼスの側近……? 少し違うが……まあいい。これから死ぬ者に語っても仕方あるまい」

「なるほど。では、あなたを御した後にゆっくりと語っていただきましょうか」


 レーグとリッカはお互いに臨戦態勢を取った。お互いの正体は不明であり、その能力値も未知数……。どちらが先に動くかは予想できない状況となっていた。


 そして、先手を取ったのはリッカだ。幾つかの髪の刃を超高速で紡ぎ出し、相手へ攻撃を開始する。最早、達人の域に達する者でも何が起きたのかすらわからずにあの世へと誘う攻撃……だが、レーグには通用しなかった。


 レーグはそれ以上の速度でリッカの髪の刃を躱し、一気に彼女の懐へと迫ったのだ。


「私の攻撃を掻い潜るとは……」

「死ね」


 そして放たれる大鎌の一撃。死神という外見に相応しいレーグの攻撃は全ての者の魂を刈り取る必殺の一撃と呼んでも過言ではなかった。躱し切れるはずのない一撃をリッカへとお見舞いする。


「……!」


 しかし、レーグの一撃は別の髪の刃によりガードされていた。レーグの渾身の一撃……レーグ自身も刈り取ったことを確信したはずであるが、彼女に届くことはなかったのだ。そして、間髪入れずにリッカの刃は増えていき、レーグの四肢を切り裂いた。


「……? 四肢を切断したはずですが……浅いですね」

「が……!」


 特に顔色に変化はないが、リッカとしても予想外のことが起きたようだ。レーグの四肢を狙った刃だが、切り落とすことは叶わず、深く抉っただけにとどまっていたのだ。だが、レーグは深手を負いその場に倒れ込んでしまう。


「勝負ありというところですね。その傷が回復する前に、あなたをバラバラにすることも可能となります」


 幾つもの刃をレーグの目の前に突き出し、リッカは勝利宣言をしてみせた。少しでも妙な動きを見せれば即座に首を始めとして、身体中をバラバラにする考えだ。レーグとしても納得をしているのか、大きく否定することはない。


「こんな……ことが……」

「そう悲観することもないでしょう。この素体は、私の幻影の中でも最強を誇る素体。唯一の自立型と呼ばれる素体になります。あなたの実力が相当なものであることに変わりはありません」


 そう言いながら、リッカは自らの左手の甲を見せた。そこには「0」と書かれた数字が印字されており、彼女は暗に相手が悪かったと言っているのだ。それはレーグにも理解できていた。


「私は亜種のモンスターに過ぎぬ。フィアゼスの親衛隊には該当していない……殺せ」

「いいえ、それなりの強さを有する存在。あなたの利用価値はありそうです。私の傘下に入っていただきましょうか」

「……ふざけるな……」


 憎悪にも似たレーグの表情……。死神のドクロのような顔ではあるが、その表情は明らかに危険な状態となっていた。四肢に深い傷を負っているタナトスーレグではあるが、目の前の存在の傘下に入る意志は全くないようだ。


 そして、そこまで話し終えた段階でレーグの四肢の傷は、ほぼ回復していた。


「大した回復力だ」

「お主の傘下に入るわけがなかろう」

「ですが、私に及ばないことも明白」



 そう言って、リッカは先ほどよりも一段階上の速度の髪の刃を放つ。今度の攻撃はレーグも捌くことは出来ず、持っていた大鎌は弾き飛ばされた。


「ぬう……」

「あなたの意志など、どうでもいいこと。私の傘下に入る以外に選択肢はありません」

「………」

「……ああ、そろそろ私は戻りますが……後は「リッカ」と話していただけますか」

「なに……?」


 タナトスレーグも彼女の言葉は理解できないでいた。先ほどからの矛盾した言動……それも含めての話ではあるが。そして、彼女の瞳は赤いものから、通常の黒へと変わり、纏っていた威圧感も消し飛んでいた。


「え……? ここって……」


 黒目になっているリッカは、周囲の状況を理解できていないのか、慌てた様子で辺りを見渡している。


「この雰囲気って回廊遺跡よね……? でも、何階層なのよ……? なんで、私こんなところに……」


 回廊遺跡に来ていることは理解しているリッカ。しかし、自分が現在96階層に居ることは、全く予想が付いていないようだ。周囲の状況などから、相当に深い階層であることは理解しているようだが、それと同時に恐怖の念も出ているようだ。


「お主は……何者だ?」

「え……?」


 そして、リッカはタナトスレーグと目線が合う。目の前には、はるか強大な闘気を放つ魔物が立っていたのだ。リッカの表情は大きく変化する。


「な、なにこいつは……!? ひい……!」


 タナトスレーグを間近に見たリッカは驚きすぎた反動か、思わず身体を後方に大きく移動させた。顔は引きつっており、涙目になっている。


「……」


 レーグ自身も、彼女の行動には戸惑っているようだ。先ほどまでとは明らかに違う態度。性格は勿論、話し方も全く変わっている。


リッカの方としてはレベル900にもなる敵と対峙しているのだから、当然の反応といった印象だ。レーグ自身の外見がドクロの死神であることは、むしろ些細なものと言える。


「こんな魔物……見たことない……嘘でしょ……? 回廊遺跡にこんな奴がいるなんて……」


 涙目のリッカは非常に端整な顔を歪ませながら、レーグを見据えている。自らの命はここで潰えてしまうとも感じているのだ。


「おい、小娘」

「な……しゃべった……!?」


 レーグからの発言。人語を操るドクロ型のモンスターだけに、リッカとしても驚いている。人語を操れるモンスターというだけでも希少だが、こんなドクロの死神が話すことは、彼女の知識には存在していなかったからだ。


「調子が狂う。貴様は私に傘下に入れと言った。どういうつもりだ?」

「な、なに言ってんの……?」


 レーグの言葉を理解できないリッカ。先ほどまでの記憶が残っていない為に当然の状態と言えるが、彼女としてもどうすればいいのか全くわからないでいる。


 目の前の圧倒的な存在……逃げることもできない状況に、リッカは生き延びる術を必死に模索していた。



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