109話 ラブピース その1
「その話は間違いないな?」
「はい、ジラークさん。組織「ローガン」のボスであるバイタル・クトリフは殺されています。賞金首としても500万ゴールドの額が付いていた、相当に危険人物だったんですが」
「そのボスを殺したのが、現在のボスということか」
アーカーシャの街のギルド内部。その受付で話しているのは、ブラッドインパルスのジラークとローラである。賞金首として犯罪者にも報奨金が懸けられている。モンスターの金額とは単純に比べることはできないが、500万という金額は人間の賞金首ランキングで10位に該当する程のものであった。
そのバイタルを殺して「ローガン」の新たなるボスに君臨したのがアインザーである。ジラークも警戒心を強く持っていた。
「ローガンの下部組織に「ラブピース」は入っているはず……危険だな」
「そうじゃの。ラブピースを追っている面子はネオトレジャーやフェアリーブーストなどとはなっておるがの」
ジラークの言葉を聞いたオルゲン老師は、ラブピースの調査に乗り出している冒険者グループを思い出していた。
「ネオトレジャー……確か、女性の3人組ですな。誘拐事件も最近は発生していますし……ロイド、どうだ? 何度か見たことはあるが、お前の見立てを聞きたい」
「どうだって言われてもな……3人ともすげぇ美人だぜ。特にリッカちゃんの外見はヤバいな。服装もミニのドレス姿だし、アーカーシャでも1、2を争うんじゃねぇか?」
女性には人一倍の関心を持っているロイドの言葉。ジラークは危機感を覚えた。最近、アーカーシャ内部にて誘拐事件が勃発している。未遂で終わったものも含めれば、既に20件を超えていた。狙われているのは、15~25歳までの女性たちだ。
ブラッドインパルスの面々もその事態には警戒心を持っていた。周囲を警戒しているモルドレッドはアーカーシャ内部の情勢には基本的には無関心を通している。内部の住民との事故を避ける為だ。その為、誘拐事件が起きたとしても、召喚獣たちが動くことはない。
「まあ、ジラーク。あの子たちは大丈夫だろ、かなり強い面子だしな。すぐに俺達の領域まで来るかもしれないぜ?」
「確かに。相当な才能の片鱗が見て取れるな。特に赤いドレスの少女は」
「ふむ、リッカと名乗る者じゃな」
「ええ、オルゲン老師。私なりの勘でしかありませんが、あの娘には、恐怖すら感じるのですが」
「奇遇じゃな、ワシもじゃよ。ほっほっほっ」
百戦錬磨のオルゲン老師。そしてそれに近い経験を有するジラークの言葉は非常に説得力があった。一気にロイドの表情も強張る。
「おいおい、こりゃすげぇな。最近は才能に満ちたグループを輩出し過ぎじゃね、アーカーシャ」
ロイドは汗を流しながら言った。彼もまだ27歳と若い。強力な者達が台頭してくるのは願ってはいるが、負けたいと思っているわけではないのだ。
「ああ、そうだな。ソード&メイジは言わずもがな、センチネルの二人もSランクに上り詰めた。そしてネオトレジャーの面子……レベルはまだ、50前後とのことだが、きっかけがあれば爆発的に強くなるだろう。特にあの娘は……いや、違うな……」
「ジラーク、どうかしたかの?」
「才能がある……そんな言葉では言い表せないということです。リッカと言いましたでしょうか……才能などという言葉ではとても足りない、別の何か……」
「おいおい、ジラーク。お前がそんな言葉を口にするなよ。冗談じゃ済まないぜ? 俺達アーカーシャの味方なんだから、願ったりだろ?」
ロイドはほとんど見たことのないジラークに軽い戦慄を覚えていた。彼が恐れることなど本当に珍しいのだ。アシッドタワーにて鉄巨人を倒した時も、これほど恐れてはいなかった。
「味方? それはどういう理由でだ? ネオトレジャーは結成2~3か月と新しく、出身もそれぞれ別の国だろう。ネオトレジャーだけに限った話ではないが、どの冒険者も味方である理由は薄いぞ」
ジラークの言葉はさらに重いものになっていた。彼の言葉を真に受ければ、ソード&メイジを含めた他のパーティも分からないということになる。もちろん、信用はしているが、何時の時も味方でいるとは限らないのだ。
「しかし、彼女たちであれば、降りかかる火の粉も自ら払い落とせるじゃろ。とりあえずは安心しても良いか」
オルゲン老師もネオトレジャーの3人については、今回の誘拐被害者にはならないだろうという見解だ。回廊遺跡での出来事を彼らは知らないが、非常に的を射ている予想となっていた。
「専属員として、調査を任されているチームは他に何組か居ますが、特にフェアリーブーストの面子は戦力的には心配ですね」
「寄宿舎のトップになってるCランク冒険者だな~。あそこには紅一点のラムネちゃんが居るぜ? なかなか可愛い子だし、誘拐される危険性もあるな」
「フェアリーブーストのレベルは30未満じゃ。ワシの道場の師範代にも劣る者達。少々厳しいの」
ネオトレジャーの女性3人組よりも、女性は1人だけのフェアリーブースト。しかし、戦力的にはこちらの方が心配であった。それは、ブラッドインパルスの全員が意見を一致させている。さらに、才能的なものもネオトレジャーよりはるかに劣ると考えられている為、余計に問題があった。
「あとは……エミル・クレンですか」
そして、ジラークの関心はエミルへと移る。アーカーシャでもトップ10には入る可能性が高い美少女として有名な彼女。酒場の看板娘であり、春人の恋人として認知はされているが、同時に戦闘能力は皆無であった。
ラブピースによる誘拐が行われるとすれば、確実に狙われる一人と言える。
「天音美由紀が護衛をしておるの。一部では、彼女はジェシカ・フィアゼスの生まれ変わりと言われておるが」
「文献上のジェシカとの相違点は多いと聞きます。外見は勿論、実力が違いすぎる。デスシャドーであるアビスが付いているので、ある意味ではそうなのかもしれませんが、彼女がフィアゼス程の力を有する可能性はないでしょう」
冷静なジラークの分析だ。美由紀の実力はレベル換算で110程度。Sランクの立ち位置とも言えるレベルではあるが、フィアゼスとは比べ物にならない実力差が生まれている。
美由紀を見た印象でジラークは、今後のレベル上昇でもフィアゼスクラスに至ることはないと結論付けたのだ。
「よっしゃ、話を整理しようぜ。つまりは、フェアリーブーストへの警告とエミルちゃんにも警告すれば良いってことだな?」
「そういうことだ。我々も次の依頼で、ここを離れる必要があるからな。最低でも忠告だけはしておこう」
「うむ、それでは参るとしようかの」
ブラッドインパルスの面々も依頼に追われる毎日である。ラブピースの調査には直接参加は出来ないが、せめて被害を減らせるようにと気を配っているのであった。彼らはその後、ギルドを出て、それぞれ忠告に向かって行った。




