108話 三天衆 その2
レヴィンの部屋に招待された三天衆は、椅子に座って読書をしている彼に挨拶を交わした。レヴィンは椅子から立ち上がり彼らの方向を見る。彼らが居る根城は館とは名ばかりの廃墟のようなところだ。今では誰も居ない廃屋を仮のアジトとして利用しているのだ。
「アインザー、久しぶりだな。本業の方はどうだ?」
「嫌だな、レヴィンさん。本業だなんて……僕なんて、まだまだ新米ですよ」
「ふふ。ランファーリ、紹介しよう。アインザー・レートル、22歳だが複数の国家の裏組織を牛耳っている人物だ。最近、ボスが死亡という形で入れ替わった。この男が殺したことになる」
「……なるほど、そういうことですか」
レヴィンからの称賛の言葉に、アインザーは照れているのか目線を逸らしている。ランファーリも仮面越しではあるが、アインザーの実力を測っていた。線の細い、ナルシストな優男とは到底思えないような功績だ。それも、強力な髪の刃を駆使したのだろう。
「最近は南のアーカーシャ共和国にも、組織の人間を派遣しているらしいな」
「はい、ラブピースですね。あの街の裏も牛耳ることができれば言うことはないんですが。どうなんですかね~」
アインザーは「ラブピース」という名称を口にしていた。最近現れた正体不明の団体は彼の支配下ということになる。ランファーリも少し反応しているようだった。
「成程、アーカーシャですか……」
「どうかしたか、ランファーリ?」
「あの街の周辺は遺跡が散乱している。街の裏を牛耳りたいのであれば、目立たないようにすることをお勧めいたします。」
ランファーリはアインザーに忠告とも取れる発言をしていた。レヴィン自体も不思議な表情をしている。彼女との付き合いは短いが、それでも不思議に感じることだったということだ。
「ありがとう、ランファーリ。確かに、ブラッドインパルスなどSランクの冒険者パーティも控えているからね。慎重に事を済ませようと思う」
忠告を受けたアインザーは笑顔でランファーリにお礼を言った。ランファーリはそんな言葉には特に反応することはなかった。忠告のつもりはなかったということだろう。
「シルバ、元気そうだな」
「ええ、レヴィンさん。お久しぶりです」
「ダールトン市街地の方はどうだ?」
「はい。私が把握した段階では、ダールトン市街の軍隊は本格的に動くようです」
「そうか……」
シルバはマシュマト王国のダールトン市街地にて裏の組織に加入していた。最強国家のマシュマトの裏を牛耳る者達……そのトップに君臨しているのが彼なのだ。
「マシュマトが誇る軍隊も動き出すか……面白そうじゃないか」
「世界の派遣を握る戦いかよ。俺の商売の邪魔にならねぇなら、問題ねぇがな」
レヴィンもそうだが、グロウもマシュマトの軍隊との抗争は楽しみにしているようであった。戦いの世の中は、裏組織にとっても願うべき情勢なのだ。
「グロウの鉱山事業は上手く行っているのか?」
「おかげ様でな。戦争でも起こってくれれば、家を失くした労働者たちの確保も楽になる。くくくくく」
グロウは不気味な笑みをレヴィンに見せる。グロウが牛耳っている組織は大陸各地の鉱山である。金鉱や銀鉱、ダイヤモンドの鉱山など多種に渡るが、その元締めはどれも彼の裏組織へと繋がっていた。
「……レヴィン、彼らはまさか」
「もう気付いただろう、ランファーリ。三天衆は、大陸全土の裏の部隊を牛耳る者達。それぞれ所属している組織は異なるが、大陸の三大組織の頂点に君臨している者達だ」
ランファーリは仮面を付けている為に、その表情を読み取ることはできない。だが、彼ら3人の能力の高さは想像が付いたようだ。
陰と陽という言葉が世の中にはある。互いに交わることは決してないが、その二つの存在は世界のバランスを保つ上では必要不可欠なのだ。力のバランスは多少の前後はありつつも、一定に保たれていなえればならない……。
そんな陰に該当する裏世界の頂点に君臨する者達……その能力の高さは一般人であっても容易に想像が出来るほどだ。陽の存在が冒険者や各国の軍隊であるとすれば、それと対を成す存在ということになる。
「アインザー・レートル 22歳。特殊能力は髪の刃。裏組織「ローガン」のトップだ。アルトクリファ神聖国や、レジール王国などに影響力を強く持ち、下部組織も非常に多い」
ランファーリに説明をする意味合いもあるのか、レヴィンはさらに話し出した。
「グロウ・ジーガ 29歳。使用魔法は土属性など、多岐に渡る。大陸全土の鉱山をその手中に収めていると言っても過言ではない男だ。
そして……シルバ・ケレンド 37歳。最強国家マシュマト王国の裏組織「アンバーロード」の頂点に立つ者だ。それはつまり、大陸各地に存在する全ての裏組織の頂点を意味している」
想像以上の面子を揃えているレヴィン。ランファーリとしても、ここまでの肩書きは予想外だったのか、
「確かに、想像以上の面子でした」
彼女はレヴィンを称賛した。それを聞いたレヴィンは満足気な表情を浮かべる。それほどの面子を従えるレヴィンという男……彼は自信に満ち溢れた態度で口を開いた。
「この俺、レヴィン・コールテスの組織に穴はない。闇の軍勢とかいうパッとしない名前が付いてはいるが……まあいい。闇の軍勢が大陸の覇権を握ることは、既に確定事項だ」
レヴィンは人差し指を天に掲げ、勝利宣言をしてみせた。シルバたちもそんな彼を神妙な表情で見ている。大陸全土の裏組織を牛耳る者達を傘下に収めるレヴィン・コールテス……ここに、戦乱の世の大本命が誕生したのだ。




