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3/13

大学の姫が不良に絡まれてた

「ちくしょう……。自販機に売ってないじゃねぇかよ」


 輝希はわざわざ近所のスーパーまでいって、エナジードリンクを買ってきた。

 大学の零那からは想像もできない飲み物だ。


「なんだこのアマァッ!」


 ブラクロの置き場所に近づくと、そんな怒声が輝希の耳に届いた。

 声の方を見れば、学ランの不良3人に、零那が囲まれている。


「もっかい言ってみろやぁ!」

「何よ、弱かったから弱いって言っただけでしょ?」


 零那は、椅子で足を組んだまま顔を俯かせていた。

 口調は強気だが、微かに声が震えている。


「対戦する気が無いなら帰ってくれる? 私、練習したいの」

「テメェ……」


 コケにされたのが余程気に食わないのだろう、リーダー格の不良が両手を握り締めた。


「その口黙らせてやるよッ!」


 不良が拳を振り上げる。

 まさか手を出してくるとは思っていなかったのだろう、零那は目を見開いた。

 しかし―――


「―――やめとけよ」


 その拳が振り下ろされることはなかった。

 輝希が背後から、不良の手首を掴んだからだ。


 突然の乱入者に、零那を含めた全員が驚愕する。


「タケイチ君に何してんだテメェ!」

「離せや、アホがァ!」

「やめろ、テメェら……」


 残りの不良二人が、輝希に声を張り上げる。

 しかし、タケイチと呼ばれたリーダー格の不良に制された。


 タケイチは、顔に脂汗を浮かべながら、ゆっくりと拳を下ろす。

 それを確認すると、輝希は拳から力を抜き、不良から手を離した。


「俺たちが悪かった。もう帰るから許してくれ」


 リーダー格の不良は、輝希に握られた箇所を抑えながら、後ずさる。


「別に君らを責めてるわけじゃない。たかがゲームなんだ、そこまで怒るもんでもないだろ」

「そう、だな……」


 タケイチと不良二人は踵を返し、ゲーセンを後にする。


 不良達の背中が見えなくなると、輝希は安堵の息を吐いた。

 力勝負でビビってくれる相手で良かった。数的不利だし、なにより問題を起こすと出禁になるかもしれない。


「大丈夫かよ、お前」

「べ、別に一人でも何とかできたわよ……」


 零那は目を伏せたまま、震えを抑えるように腕を組んでいた。

 強がっているのは明確だったが、指摘して認める性格じゃないだろう。


「お前さ、ああいうガラの悪い奴は適当に相手して帰ってもらった方がいいぞ」


 ラッキーボールの客層は先程のような不良も少なくない。

 そういった連中と対戦する時は適当に負けて満足してもらった方が問題にならずに済む。


 輝希がゲーセンに通うようになって、常連から最初に教わったことだ。


「嫌よ……。わざとでも負けたら弱いと思われるじゃない。それに、やっぱり女は弱いとか言われるの嫌だし」


 零那は拗ねたようにそっぽを向いた。

 そんな彼女に、輝希は買ってきたエナジードリンクを渡し、向かいの台に座る。


 価値観は人それぞれだ。

 輝希が楽しむことに重点を置く反面、零那は勝つことに価値を見出しているのだろう。


「……これ」


 零那は目を逸らして顔を赤らめながら、何かを差し出す。

 受け取ると、それは100円玉だった。


「エナドリのお金の残り……。助けてくれて、ありがとう」

「それで100円かよ……。安くないか?」

「何よ! いらないなら返してもらうけど?!」

「返すくらいなら貰うわ! 貴重な1クレだからな!」


 輝希は受け取った100円を、そのままブラクロの筐体に投入する。


「あと……」


 零那はボソリと呟く。


「ちょっとだけ、カッコよかったわよ……」

「あ? なんか言ったか?」

「別に何でもないわよ!」


 乱暴に誤魔化し、零那はキャラクターをセレクトした。


「さっきのリベンジだ、覚悟しろよ」

「ふん、サンドバッグにしてあげるわ」


 ブラクロの筐体を挟んで向かいあう二人。


「そういやアンタ、名前は?」

「名前? もう知ってるだろ、朝輝 輝希だよ」

「そうじゃなくて、ハンネの方よ。ゲーセンだと本名じゃ呼びにくいでしょ?」

「あぁ、それならテルって呼ばれてるよ」


 輝希から取ってテル。特に捻りもない、昔からのあだ名だ。


「そのまんまね。私はレインって名乗ってるわ」

「ぶっ! 何だよその格好付けた名前は」

「な、何よ! 別に格好付けたわけじゃないし! 零那から取ってレインなの!」


 からかわれたのが、相当恥ずかしかったのか、零那ことレインは、唇をワナワナと震わせながら赤面する。


「言っておくけど、間違っても大学では呼ばないでよね! この呼び名はゲーセン限定。分かった?」

「あぁ、分かったよ。逆に俺はテルでいいぜ。友達からはよくそう呼ばれるし」


 ゲーセン限定の二人の関係はこうして始まったのだった。

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