ゲーセンの姫に台パンされた
「おいおいおい、誰かと思えばレインちゃんだっけ? なに? 俺とデートにし戻ってきたの?」
ゼットの煽りに、零那は答えない。
だが、その代わりに弱攻撃でアクロを小突いた。
「もう対戦始まってるわよ」
「テメェ……!」
突如乱入してきた零那により、3戦目が開始される。
輝希は渡されたエナドリを手首で挟みながら、零那を見つめた。
さすがに洋服は1週間前と違っていたが、目の下には、2日や3日ではできそうにない厚いクマがある。
それを見れば、零那がこの1週間をどう過ごしてきたのか予想が着く。
「どれだけ練習したか知らないけどなぁ!」
ゼットが叫び、コマンドを入力。
「女如きが、この俺に敵うわけないんだよ!」
輝希には見えていた。アクロが空中上げを繰り出す、微かなモーションを。
このままでは、マトモに喰らう。
そう思った刹那、零那はレバーを機敏に動かし、アクロの攻撃を防いだ。
輝希のように、見えていた訳じゃない。
今の行動は予測と経験に裏付けされた、反応だ。
「クソッ!」
ゼットの暴言を無視して、零那は隙のできたアクロに、コンボを決めていく。
その手さばきは、冷静かつ正確。
1週間シグマを触り続けてきた輝希だから分かる。―――零那は上手いのだと。
同じキャラクターを使い、同じ思考に行き着いたから輝希だからこそ理解できる。
プレイングが、経験が、知識量が、そして勝利への執念が、全て輝希より格上だ。
「……お前、そんなに凄かったんだな」
輝希が関心する中、ゼットの表情は険しいものになっていた。
レバーを動かす音がガチャガチャ、と乱暴なものになり、動きが雑になっている。
「有り得ねぇ! 俺が……、アクロがシグマに負けるわけねぇ! しかも女なんかに!」
ゼットは目に涙すら溜めて叫ぶ。
そんな彼にも零那は手加減しない。
虫の息であるアクロに、シグマはオーバーブラッシュを発動する。
シグマのカットインが入り、彼女が持つ剣―――マリナータが藍色の光りを放つ。原作のカラカラにおいて、アクロに折られた剣だ。
『はぁあああっ!!』
シグマが裂帛の叫びを上げ、アクロへマリナータを振り下ろす。
断末魔を上げ、地面に背中を打ち付けるアクロ。
『父さん、母さん……、仇を取ったよ……』
シグマが特殊演出である台詞を言い、剣を鞘に収める。
瞬間、観戦していたギャラリーが湧いた。
劇的な登場からの勝利。盛り上がらない訳が無い。
零那は天井を仰ぎ、大きく息を吐く。
その表情に迫るものは無く、まるでベッドの上にでもうるような、穏やかなものだった。
零那は、敗北に項垂れるゼットに目もくれず、輝希の前に立つ。
「どうだった? 私」
抽象的な問いかけ。しかし、輝希の中で言うべきことは決まっていた。
「レイン。お前、強いんだな」
輝希の返答に、零那は小さく微笑むと、右手でピースサインを作った。
「当たり前でしょ? 最後に勝つのは私よ」
翌日、月曜日の夕方。
輝希がいつもの如く、ラッキーボールを訪れると、例によって零那がブラクロをしていた。
「よう、レイン」
「……テルじゃない」
輝希はそれ以上言葉を交わすことなく、零那の向かいに座る。
シグマVSシグマの、いわゆるミラーマッチだ。
「腕、大丈夫なの?」
「怪我の再発はしてないらしい。でも、激しい運動は控えろってさ」
昨日のリベンジ戦が終わった後、輝希はかかりつけの病院にかかった。
怪我の再発は無かったものの、あれ以上負荷を掛けていたら、後遺症が残ったらしい。
「ゲームは1日1時間だよ」と医者に脅された。
「それよりお前、だいぶ顔色よくなったな」
零那の顔は昨日と比べ物にならないほど、健康的なものとなっていた。
クマは綺麗に消え去り、肌や唇に張りがある。
零那は調子付いて、フフンと鼻を鳴らす。
「そうね。1週間ぶりにマトモに寝れたから」
「どんだけ寝てなかったんだよ……」
「毎日2時間睡眠ってころね」
「それ以外はずっとブラクロしてたのか?」
「失礼なこと言わないで、お風呂はちゃんと入ってたわよ。 …………3日に1回くらい」
恥ずかしそうに、零那の声が小さくなる。
画面では2人のシグマが互いに牽制をし合いながら、攻め時を伺っていた。
「そう言えば、テル」
「なんだよ」
「私が大学休んでる間に、講義で配布されたプリントとかあるでしょ? 今度コピーさせなさいよ」
「……いや、俺も大学休んでたし」
「なに? アンタもずっと格ゲーしてたの? 馬鹿じゃないの?」
「お前には言われたくねぇよ!」
「仕方ないわね。美月ちゃんにでも頼もうかしら」
「俺にもコピーさせてくれないか……?」
輝希からのお願いに、零那はニマァと口角を上げた。
「3クレ分でいいわよ」
「金とんのかよ!」
「当たり前でしょ。ただでコピーさせてもらえるほど、世の中甘くないわよ」
「俺に頼んだ時、絶対払うつもり無かっただろ」
「そ、そんなことないわよ! エナドリ1本くらい上げたし!」
照れ隠しをするように視線を逸らす、零那。
輝希はその一瞬の隙を見逃さなかった。
レバーとボタンを巧みに捌き、零那のシグマを一気に追い詰める。
「ちょ、ちょっと、今攻めるのは無いでしょ?! 一旦止めなさいよ、テル。ちょっと、聞いてるの! テルってば! もう止めなさいって言って―――」
『はぁあああっ!!』
シグマのカットインが入り、彼女が持つ剣―――マリナータが、零那のシグマを切り伏せた。
「ハハハッ、油断したなっ! レイン!」
輝希は口を大きく開いて笑う。
―――ドンッ!!
―――が、そんな笑い声は零那の台パンに掻き消された。
「1勝したくらいでいい気にならないで……」
零那は顔を真っ赤にしながら、プルプルと震えている。
「もう1戦やるわよ! テルが私より強くなるなんて許さないから!」
「あぁ、望むところだ! 覚醒した俺の力見せてやる」
2人の楽しそうな掛け合いは、その日の閉店間際まで響いたという。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
友人の実体験2割、フィクション8割で書いた作品でしたが、予想以上に沢山の方に読んでいただけて、とても嬉しいです。
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