師匠は音ゲーを足蹴りしてた
ゴールドメダルは大須にあるゲームセンターの一つだ。
輝希とタッキーさんが店内に入ると、音の圧が耳に押し寄せる。月曜の夜だというのに、相当繁盛しているようだ。
「行くぞ」
「格ゲーは右側にあるらしいですよ」
「いや、アイツは格ゲーのところにいない」
タッキーさんは格ゲーとは真逆の方向に進む。
辿り着いたのは、音ゲーが乱立したエリア。
ポップな音楽がそこかしこから流れている。
そんな中、“ギターギーク”で遊ぶ女性が目に止まった。
金色のボブヘアー。桜が描かれたスカジャンを羽織り、ゲームのギターを掻き鳴らしている。
曲が終わると、女性は小さく息を吐く。
少し汗ばんだ額に、色っぽさが滲んでいた。
そう輝希が思ったのもつかの間―――少女はギタギクの筐体に足蹴りを食らわせる。
「テメェ! なんで最後Goodなんだよ、どうみたってPERFECTだろうが! クソ判定が。店員ちゃんとメンテしろよ!」
色っぽさはどこへ行ったのか、女性は暴言を吐きながら、筐体をガシガシと蹴る。
もはや、零那が可愛く見えるレベルだ。
「……まさか、あの人が師匠とか言いませんよね?」
「そのまさか。アイツがお前の師匠だ」
女性はタッキーさんに気付くと、パァッと顔を明るくさせ、駆け寄ってくる。まるで、飼い主を見つけた子犬のようだ。
「滝先輩ご無沙汰してます! こいつが電話の奴っすか?」
「そうだ。テル、っていう。―――テル、こいつはサクラ。俺の高校の後輩だ」
「あっ、テルです。よろしくお願いします」
「へー、テルねー」
サクラは、輝希の立ち姿をジッと見つめる。
「とりあえず、1戦やるぞ」
「わ、分かりました!」
サクラはポケットに手を入れ、格ゲーのエリアへ向かう。
その後ろを追いながら、輝希はタッキーさんに耳打ちした。
「タッキーさん、あの人って大丈夫なんですか?」
「素行は悪いが、実力は確かだ」
「私を知らないとはお前、マジで素人なんだな」
話を聞いたサクラが振り返る。
「これは自慢だが、ウチ、アクロ使いでなら東海で1番強いぜ?」
「あー、なるほどなー」
「どうでしょうか?」
実力確認の一戦を終え、サクラはポケットから取り出したタバコを咥える。
「弱いな。てか、そもそも基礎ができてねぇ。初めて触ったって言われても信じるレベル」
「そ、そうですか」
初めて1ヶ月とはいえ、そこまで成長していないとは輝希も思っていなかった。
純粋にショックだ。
「それで、どうしても勝ちたい奴がいるって? 誰だよ?」
フーっとサクラが煙草を吹かす。
「ペガサスにいたゼットってプレイヤーです」
「ゼットぉ?! あんな奴雑魚だろ。ウチよりアクロ使うの下手だし」
「そりゃあ、サクラに比べればなぁ」
ハハハ、とタッキーさんが笑う。
輝希からすると、ゼットも強く思えるが、サクラの方が格上らしい。
「でも、1週間か……。ズブの素人となると、厳しいな」
「簡単じゃないことは俺も分かってます。でも、挑戦してみたいんです」
輝希の真剣な表情を見て、サクラは紫煙を吐いた。
「ま、滝先輩からのお願いだ。鍛えてはやる」
「ありがとうございます!」
「―――だが、アクロと戦うならそのキャラは辞めとけ」
サクラは輝希が使ったキャラをタバコで指す。
その先には、シグマ・リナーラ。零那がメインに使っていたキャラである。
「シグマじゃアクロに勝つのは厳しい。どうせ素人なんだ、別キャラにしとけ」
「いや、そこは譲れないです」
輝希はキッパリと断る。
「……何でだよ」
「な、なんだっていいじゃありませんか」
零那と同じキャラで勝たないと、意味がないと思えたのだ。
「そこまで言うなら好きにしろ。だけど、難易度は跳ね上がるぜ?」
「承知の上です」
サクラは大きくため息を吐いて、タッキーさんに向き直る。
「つーわけで、滝先輩。頼まれてた通り、コイツの面倒はウチが見ますよ」
「了承してくれてよかった。鍛えてやってくれ」
「リョーカイです」
サクラはダルそうに、金髪の頭をかいた。
快諾してくれたとはいえ、あまり乗り気ではないらしい。
「よろしくお願いします! サクラ師匠!」
輝希はサクラに頭を下げる。
突然の師匠呼びに、サクラは照れ恥ずかしそうに頬をかいた。
「ま、まぁ、師匠呼びされるのは悪くないかもな」
「とりあえず、CPU相手にシグマの練習してろ」
「分かりました!」
サクラが指示を出すと、タバコの包みを片手に外の空気を吸いに行く。
滝先輩のお願いとはいえ、面倒事を引き受けてしまった。
確かにサクラはアクロの扱いを誰よりも理解しているし、今回の目的に適任と言える。
だが、ズブの素人を教えるとなれば、話は別だ。
「よぅ、今回はありがとな」
店外に出ると、滝先輩が吸殻入れの所に立っていた。
「先輩からのお願いじゃなきゃ、断ってましたよ」
「そうか? お前なら喜んでやると思ってたけど。この前、誰かを育ててみたいって言ってたし」
「ウチは『才能ある奴を育てたい』って言ったんすよ」
やる気はあるようだが、テルに格ゲーの才能があるとは思えなかった。
「へー。時間があれば、俺が育ててやりたいくらいだけどな」
「正気っすか? アイツは磨いても光らないと思いますよ」
「かもな。でも、俺なら磨く。アイツは強くなるぜ。直感で分かる」
サクラは疑い半分で滝先輩の話を聞いていた。
彼は、テルの一体何をそこまで評価しているのだろうか。
しかし、滝先輩がでまかせを言っているようにも見えなかった。
「ま、約束はしましたし、1週間は面倒見ますよ」
「おう、ありがとな」
サクラは店内に戻り、両替機で1000円札を崩す。
何事も最終的には才能だ。
努力も大事だが、結局は才能の有無が物を言う。
テルは集中した様子で、ブラクロの画面に向き合っていた。
……コマンドもマトモに入力できていない。これはかなり厳しい挑戦になるだろう。
サクラは100円玉を手の内で転がしながら、テルの隣を通る。
その時、手の平から3枚、100円玉が落ちた。
「落としましたよ、師匠!」
サクラがしまった、と思うと同時に、テルが拳を突き出した。
その中には、サクラが今しがた落としたはずの100円玉。
「お前……、空中で3枚取ったのか?」
「はい、そうですけど」
テルは何でもないように言う。
その反応に、サクラはニマァと口角を上げた。
「お前、才能あるよ」
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明日の12時、18時の更新で完結します。
残り2話ですが、最後までよろしくお願いします。




