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10/13

大学の姫は大学を休んだ

 翌日の月曜日、大学に零那の姿は無かった。


 1限目の必修科目。

 いつもの零那なら、部屋の中心で女友達と座っているのだが、講義開始の2分前になっても姿を現さない。


 輝希は迷った挙句、女子のグループに話しかけた。


「なぁ、今日って雨姫さんは来てないのか?」


 少しでも関係を悟られないよう、苗字で呼んでみる。

 6人組の女子達は突然話しかけられ、少し嫌そうな顔で輝希を睨んだ。


「来てないねー」

「昨日から連絡しても出ないんだよね、うち心配だわ」

「そうそう。なんかあったのかな?」


 女子達は口々に自分が持っている情報を共有する。

 そのうちの1人がギロリと輝希を見据えた。


「―――で、君は姫のなんなの?」

「いや、ちょっと気になって……」


 昨日格ゲーでボコボコにされてたから心配だった。とは言えず、適当に誤魔化す。

 そのせいで、輝希を見る女子達の目が、更に不審なものとなった。


 大学に来ておらず、連絡も取れない。

 となると、輝希の心当たりはもう1つしかなかった。


 輝希はリュックを手に持ち、後ろの出入り口へ向かう。

 ちょうど教授が入ってきたところで、眉を顰められた。


「君、もう講義が始まるぞ。何か用事でもあるのか?」

「……友達が心配なので、欠席させてもらいます」


 体調不良だと誤魔化せばいいものを、輝希は正直に打ち上け、教室を後にした。




「やっぱ、ここにいたか」


 輝希が訪れたのは、ラッキーボール。

 案の定と言うべきか、ブラクロの筐体に零那は座っていた。


 エナドリの缶を3つも筐体に置き、クマのできた鋭い目付きで輝希を睨む。

 しかも、纏っている洋服は昨日のものと同じだ。


「零那お前……、寝ずにブラクロやってたのかよ」

「…………悪い?」

「悪い、っていうか流石に睡眠は取れよ」

「寝たって強くなれないでしょ?」


 零那は操作の手を止めることなく、返事をする。画面では、CPUのアクロをシグマがしばいていた。


 口ぶりからして、自宅でも家庭用版で練習を続けていたのだろう。

 零那の頬はやつれ、瞳は死んだ色をしており、全身に儚さを纏っていた。


「大学の友達が心配してたぞ」

「……そう」

「連絡くらいはしたらどうだ」

「あの子達には関係ないし……」


 画面に“YOU WIN”の文字が表示され、零那はエナドリを一口呷った。


「聞いたわよ、テル。アンタ、ゼット(アイツ)に決闘を申し込んだそうね」

「……どこで聞いたんだよ」

「一日中ゲーセンにいれば噂くらい聞くわよ」


 本当は黙っているつもりだったが、バレているなら仕方ない。


「あぁ、そうだよ。1週間後にやることになった」

「……私の仇討ちつもり? そういうの、ほんといらないから。リベンジは私自身がやる。じゃないと意味が無い」

「別に仇討ちのつもりはない。ただ、格ゲーを本気でやってみたくなったんだよ」

「何それ。っていうか、私より弱い癖に1週間でアイツに勝てるわけないじゃない」

「そんなの、やってみないと分からないだろ」

「……たしかにそうかもね」


 零那はそう言うと、席を立った。


「帰るのか?」

「アンタがいると集中できないから」


 ピンク色のバックを手に持ち、零那はラッキーボールを去ろうとする。


「エナドリ、まだ残ってるぞ」

「……あげるわ。せいぜい頑張って」


 トボトボとした足取りで、零那は歩いていく。

 その度にバックに付いたファンクマのぬいぐるみが揺れていた。


 輝希は飲みかけのエナドリを手に持ち、口を付ける。

 関節キスなんて、考える気すら湧いてこなかった。




 夜の帳が降りた18時。

 輝希は、ラッキーボールの近くにある、工事現場の前で立っていた。


「おつかれー」

「お疲れ様でーす」


 そんな声が聞こえ、工事現場で働いていた人々が出てくる。


「タッキーさん」


 輝希は目的の人物へ声をかける。


「ん? おぉ、テルか」


 現場の仕事を終え、キャップとワイシャツ姿のタッキーさんが、小さく手を上げる。


「どうした? なんかあったか?」

「実は、折り入ってお願いがあるんです」


 輝希は真面目な表情で、タッキーさんを見つめる。

 その顔つきで、訳ありだと察したのだろう、タッキーさんは一瞬目付きを鋭くした。


「いいぜ、話聞くよ。とりあえず、どこかに座るか」




「こっちから声をかけたのに、奢ってもらってすいません……」

「だとしても、学生から金は取れねぇよ」


 公園のベンチで、輝希とタッキーさんは缶コーヒーに口を付けていた。


「それで、話ってのは?」

「……タッキーさん、俺に格ゲーを教えてくれませんか」


 輝希はコーヒーの缶を強く握る。

 タッキーさんは何かを察したように息を吐き、ボンヤリと空を見上げた。


「テル、正直言って俺はお前の心構えが好きだ。負けても楽しそうにしてるし、心の底から格ゲーを楽しんでるんだなって思わせられる。どんな状況でも楽しいと思えるって結構貴重なことなんだぜ?」

「……かもしれませんね」

「でも、お前がしようとしてるのは、そういう“楽しさ”を捨てて、“勝ち”にこだわるってことだ。1回ガチこっちに足を踏み入れたら、もう二度と今の感性で遊べなくなる。それでもいいのか?」

「覚悟はしてきたつもりです」

「……そうか」


 タッキーさんは少し悲しそうにして、言葉を止めた。


「昨日の件は、俺の耳にも届いてる。さしずめ、ゼットに勝ちたくて俺を頼ったってことだろ?」

「……タッキーさんも知ってるんですか」

「女子が少ない界隈だからな。そういった話題はすぐ広まるんだよ」


 タッキーさんは鼻を鳴らし、缶コーヒーに口を付けた。


「でも、テル。お前、レインちゃんの仇討ちをするため“だけ”に、本気で格ゲーをやるのか? 本当にそれだけの理由か?」


 キャップの奥に秘められた、タッキーさんの瞳が輝希を刺した。

 その目は、輝希からNOという答えを求めている。

 ……どうやら、タッキーさんは何となく、輝希の気持ちに気づいているらしい。


「実は俺、高2まで空手やってたんです」


 輝希は諦めたように息を吐く。

 本音を洗いざらい話さなければ、協力してもらえない気がしたのだ。


「それこそ、全国大会を目指すくらいガチで。でも、そんな大それた夢を掲げてるのは部活で俺くらいなもので、俺1人浮いてました」


 輝希の吐露を、タッキーさんは黙って聞く。


「そしたら、だんだん俺も本気でやってるのが恥ずかしくなってきて、色々あって高2の時に空手を辞めたんです。それ以降、本気で何かに取り組むのが恥ずかしく思えて、楽しめればいいって逃げてました」


 輝希は別に、今まで格ゲーを楽しんでいなかったわけじゃない。

 ただ、本気で強くなろうとしたら、また高校の時のように浮いてしまうんじゃないかと、怖かったのだ。


「でも、レインを見て思ったんですよ。俺ももう一度、本気でやってみようって」


 勝利に執着し、時には涙を流す零那の姿が、輝希の心を動かしたのだ。


「だからタッキーさん、俺に格ゲーを教えてください」


 輝希は立ち上がり、深々と頭を下げる。

 タッキーはその姿をしばらく見つめると、首を縦に振った。


「いいぜ」

「本当ですか!?」

「でも、教えるのは俺じゃない」

「え?!」

「決戦は1週間後。俺が仕事終わりに教えてたら間に合わないからな」


 そう言うと、タッキーさんは誰かに電話をかける。

 しばらく話した後に電話を切り、輝希へ向き直った。


「今日は“ゴールドメダル”にいるらしい。―――行くぞ、お前の師匠に会わせてやる」

18時頃にもう1話更新します


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