この映画が見終わるまでに死ねればよかったのに
『映画研究会卒業製作』
なんだ、今更。卒業した時には送ってこなかったくせに。卒業製作にも卒業式も出れずに病室で過ごした青春。
『何も感じない。この映画が見終わるまでには死ねれば、良いのに。何も感じないまま。』
再生ボタンを押す。
ナレーションが流れた。
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卒業を控えた中、私だけが進路が決まっていなかった。
『あーあ、浪人かなあ。』
今日も自習室に向かう。誰もいない自習室。
窓が開かれていた。
『まだ少し寒いわ。』
窓を閉めようとすると、誰かの手がふれる。
『あ、、、ごめんなさい。』
見慣れない男子生徒。
サラサラの髪に、着こなされたブレザー。後輩かな。
『あのー』
『あ、ごめんなさい!』
手を離す。
『あ、あの、、、その、先輩ですかね、、、?』
『3年生よ。進路が決まってないの。嫌になっちゃう。医学部だし覚悟してたけど。』
自虐的に笑う。
『僕も医学部志望です。』
『じゃあ、ライバルね。』
髪を手で肩の後ろへ払う。
『そ、その!来年また受験勉強するなら、一緒に医学部目指しませんか?』
『の、望むところよ。』
『ところで、なんで医学部に?』
『それはね、、、』
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ここで、フィルムは止まる。
あれ?壊れたか?
不自然な終わり方だ。
病室に2人医師が入ってくる。
大人になった、映画に出ていた女の子と男の子がいた。
白衣を着て、名札には医師と書いてある。
『DVD、渡すの遅くなってごめん。』
セリフの続きを。
『先輩、なんで医学部に?』
『キミと一緒に目の前の友人の病気を治すためだよ。』
私は手術室に運ばれていく。
医師になった女の子は私に微笑みかける。
見たことの無い向日葵のような笑顔で。
『手術が終わったら、物語の続きを撮りましょ?卒業製作完成させないと。』
私は絶望していたのに。
この映画を見終えるまでに死ねれば、良かったのに。灰色の心のまま、何も感じず死ねたのに。そう思ってたのに。
私の脚本は始まってもなかった。
私の物語はこれからだ。
生きたい。
生きていれば、どんな物語だって紡げるから。