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第三章 「鎖に繋がれしもの」 21

 肉と肉がぶつかり合い、凄まじい衝撃音が響く。

 ゴローとシロクマが互いを支えとし、二足歩行の姿勢で腰を掴んでがっぷり四つに組み合う。下半身に力を込め、相手との力比べをするように押し合う。その様相は、さしずめ、クマと相撲を取る金太郎と言った感じだ。

 ジリジリと押したり引いたり、体を入れ替えてのうっちゃりを狙ったり、ダイナミックな動きはないが、手に汗握る攻防が繰り広げられている。

 そのまま力と力の押し合いを続けると思ったが、突如、シロクマはゴローの背中に自分の前足を回すと、ベアハッグの体勢に入った。

「遊びは終わりだ!」

 シロクマの太い二本の前足が、ギリギリと万力のようにゴローを締めあげる。

「もがけばもがくほど、この爪は貴様の身体に深く食い込んでいくぞ!」

 得意気に吠えるシロクマに反し、ゴローはあまり苦しんでいる様子はない。

「誰がもがいているのだ?」

「貴様、きいていないのか?」

 シロクマはゴローへのダメージを確認するために、その顔を見た。

「これは本気の勝負だ。手を抜く必要はない」

 涼しい顔をして答えるゴローに、今にも顔が真っ赤にならんばかりにシロクマは激怒した。

「なら、アザラシのように真っ二つにへし折ってやる!」

 意味の分からない雄たけびを上げ、シロクマはゴローの身体を締めあげた。先ほどよりも体を密着させ強い力を込めたのか、シロクマの白とゴリラの黒が混ざり合い、そこに一匹の巨大なパンダがいるようにも見える。

「グハァ!」

 声を上げたのはシロクマの方だった。

 一歩、二歩、後ずさりし、シロクマはゴローを掴んでいた前足を解いた。見ると、シロクマの前足に黒い毛が刺さっている。

「あんたの毛はしなやかさが自慢らしいが、オレのは剛毛で硬さが売りなのさ。そして、オレの筋肉に比例してこの毛は硬度を増していく。中途半端な攻撃をすれば怪我をするだけだ」

 その言葉を証明するように、ボディービルダーのようにゴローの体が一回り大きくなり、毛がタワシのようにツンツンと尖っている。

「こんなもの、効いちゃいないんだよぉ~。まあ、少し驚いたがな」

 さっき叫び声を上げたので痛みはあったはずなのだが、シロクマは平然とそう言ってのける。

「今のは攻撃ではない。これからが、オレの攻撃だ。覚悟はいいか?」

 返答を待つこともなく、ゴローは二足歩行の姿勢でふらつくシロクマの胸に頭突きをかました。思わずのけぞるシロクマ。

「せっかちなヤローだ。だが、どんなに虚を突こうとも無意味だ。貴様の剛毛は大したものだが、オレの毛も頑丈さは折り紙付きだ。蹴ろうが殴ろうが、どんな攻撃もオレには通用せんぞ」

 シロクマが言うように、あの鉄壁の防御を誇るしなやかなよろいを何とかしなければゴローに勝ち目はない。

「そんなことは百も承知だ」

 ゴローは右手でシロクマの左腰を掴んだ。

「なら、あんたは知ってるか? 全ての生物の中でゴリラの握力が最も強いってことを」

「だったらどうだと言うのだ? オレの急所でも握り潰すつもりなのか?」

「小細工は抜きだと言ったはずだ。これは力と力の勝負だ」

 ふざけた口調のシロクマに、ゴローは真面目に答え、

「あんたは自分の強さに絶対の自信を持っているらしい。だからオレは、まずあんたが見ている世界をひっくり返してやるのさ」

 それからゴローは、左手でシロクマの奥襟を掴み、そのまま腰を深く落として踏ん張ると、両腕に力を込めた。

「まさか、このオレの体を持ち上げようとでもいうのか? 不可能だ。オレが何百キロあるのか知っているのか?」

「知るわけがないさ……。それは――」

 ゴローはシロクマの体を改めて掴み直した。全身の黒い毛が逆立ち、遠目からでも筋肉が隆起しているのが見える。

「それは、オレがオレの限界を知らないのと同じだ!」

 ミシミシと音を立て、ゴローの足元のコンクリが凹んだかと思ったら、次の瞬間、白い巨体が宙に浮いた。


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