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第三章 「鎖に繋がれしもの」 20

「お仲間ならどんなに待っても来ることはない」

 顔を出したのはゴリラのゴローだった。

「ナニを言っている? お前は……。貴様も、この島で生まれたものじゃないのか?」

 首をかしげるシロクマに、ゴローは左肩に刻印された『56』の数字を見せた。

「そうだ。オレはここで生まれた。つまりは、裏切り者ってやつだ。そして、あんたの増援とやらは今オレたちの仲間が戦っている。みんな、ここを出た奴らだ」

「なら、そいつらを倒してすぐに合流するはずだ。部隊は優秀な者ばかりだからな。ここから逃げ出した家畜などに手こずるはずがない」

 得意気に語るシロクマに、ゴローはかぶりを振り、

「研究所の奴らでは、彼らを押さえつけることは不可能だ。何度も踏まれ冷たい風にさらされた雑草が、温かなハウスでぬくぬくと育てられた観賞用の花に負ける道理はない」

「エリートが失敗作に負ける? そんなことはありえない」

「だが、現にお前はこの者たちに勝てなかった」

 そう言うと、ゴローは俺達を示してみせる。

「勝敗はまだ決していない。貴様が言っているのは、全部お前の妄想だ。何の論理性も、根拠も確証もない。ボディ、パワー、スピード。能力が優れている者が勝つのが当たり前なんだよ」

 ゴローは何も答えなかった。その代わりに、ゆっくりと瞬きをして悲しそうな目でシロクマを見つめた。

「だから……。この――オレが――最強の生物なんだ!」

 シロクマが空に吠えた。

 森の木々が風に揺れてざわめく。

 ゴローは立派な胸に大きく息を吸い込み、

「たしかに、あんたは強い。この研究所で並び立つ者はいないだろう。その身で体当たりすれば相手の骨を砕き、鋭い爪は肉を引き裂くだろう。しかし、彼らには通用しない」

「なぜだ!?」

「それは、お前が『鎖に繋がれしもの』だからだ」

「鎖に繋がれしもの? 何を言っている? 体内の爆弾のことか? それは貴様も同じだろ?」

「ああ。その通りだ。だが、オレとお前は違う。あんたは、このオレにすら勝てない」

 その言葉にシロクマの目つきが一瞬鋭くなったが、次の瞬間、実に楽しそうに大口を開けて笑った。

「貴様がこのオレを? 誰がそんなハッタリを信じる? さすがはサル野郎。力がない分、口だけは達者のようだな」

 これには、口下手のゴローもニヤリと口元を緩めた。

「ハッタリかどうか、やってみれば分かるさ」

「オレと一戦交えようってのか? いいだろう。まとめてかかって来い」

「いや、戦うのはオレだけだ。小細工は抜きで、オレとサシで本気の勝負だ。でなければ意味がない」

 3人でも苦戦を強いられたシロクマに、ゴローは一人で挑むと言うのか? 無謀だと割り込もうとする俺を、ゴローは目で制した。

「随分と自信家なゴリラだ。後悔しても知らんぞ」

「忠告、感謝する。そうならないよう、全力を尽くすとしよう。だたし、もしオレがあんたに負けを認めさせたら、そのビルの入り口を開け方を教えてもらおうか?」

 ゴローはどこか憂いに満ちた瞳でシロクマに問いかける。

「オレが負けを認める? 絶対にそんなことはありえないが、いいだろう」

 シロクマは前足のポジションを確かめるように大地を踏みしめ、

「行くぞ!」

 ゴローへと突進した。


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