第三章 「鎖に繋がれしもの」 16
激しさを増した手刀が俺達に襲い掛かる。
「オレはエリートだ。計算し作り出された、選ばれし生命体なんだ。お前たちのような、その辺に生えている雑草に負ける道理なんてないんだよ!」
口では強がってはいるが、シロクマも3対1になり焦っているのか、先ほどよりもかなり動きが大きく激しくなっている。
「それにしては、わたしには一発も攻撃が当たっていないじゃないか?」
不敵な笑みで挑発するナナコを執拗に追いかけるシロクマ。しかし、ナナコのトリッキーな動きに翻弄され、ついにシロクマの両の前足が地に着いた。
今、奴は全体重を四本足に委ねている。それゆえ、すぐにはあの巨体を自由には動かせないはずだ。
――ここだ!
俺は意を決し、シロクマの正面へと飛び出した。
が、ナナコを追っていたはずの目が、確実に渾身の飛び蹴りを放った俺の姿を捉えている。
「そうくると思ったぜ」
見ると、シロクマの前足に力が込められている。
マズイと直感したが、俺はすでに飛び上がっているので、軌道修正出来ず、どうあがいてもシロクマと正面衝突するしかない。奴の方は、アゴを引いて、弱点の鼻も眼も視界から消えている。これでは相打ち覚悟の攻撃も不可能だ。
もはやシロクマの攻撃を受けるしか選択肢がない。俺は奥歯を噛みしめ、瞬時に腕と足でガード姿勢を取る。
直後、シロクマの頭突きが飛んで来た。
凄まじい衝撃が肉を貫通し、骨にまで伝わる。互いの全力がぶつかり合った結果、俺は吹き飛ばされ、視界がグルグルと高速で何回転かする。
やがて視界が定まり、頬に冷たい地面を感じる。そこで、俺は自分が地面に横たわっているのだと気付く。
かなりのダメージを覚悟していたので何とか意識は保てているが、手足がしびれて動かない。
ドスン、ドスンと足音を立て、背後からシロクマが迫ってくるのを感じる。本能的にその場から逃げ出そうとするも、全身がバキバキに痛んでいてはそれは叶わぬ望みだった。
俺はなすすべなく、上着を掴まれ宙吊りにされる。首回りが絞めつけられ、声が出ない。
「油断大敵ってやつだ」
二本足で直立したシロクマが楽しそうに笑う。
「お前ごときがこのオレを出し抜けるとでも思ったか? お前の考えなんてとっくにお見通しなんだよなぉ~」
臭い息が顔にかかり、俺は顔をしかめた。
「貴様はオレの弱点を『見つけた』と思い込んでいたようだが、本当は自身の非力さ、決定力のなさから、オレにダメージを与えられる唯一の弱点を『狙わなければ』いけないと心理誘導されていたんだよ」
「なん――だと――」
首筋から流れる冷や汗が背筋を冷たく凍らす。
「お前は、選ばされていたのさ……。それが落とし穴へと続く、楽な道だと知らずにな」
こいつには最初から全部分かっていた? 俺が弱点を狙おうとしているのも、四つん這いになるのを待っているのも。そして、俺が好機だと判断とした瞬間、捨て身の攻撃を仕掛けることも……。そして、逆にそれを利用し、俺を叩きのめすことに成功した?
全てがシロクマの手のひらの上の出来事だったと言うのか……。
「まったく、笑いをこらえるのが大変だったぜ。ずっと待っていたんだろ? 滑稽じゃないか。お前が一生懸命考えたとっておきの作戦が、こちらにバレているとも知らずにな~」
その通りだ。こいつは肉体的優位性だけじゃなく、知能さえ俺を大きくうわまっているというのか……。
完敗だ……。
こいつには勝てない……。
俺は全身から力が抜けていくのを感じた。




