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第三章 「鎖に繋がれしもの」 14

「二人とも無事か?」

 戦線に復帰した俺の問いかけに、シロクマと対峙したままナナコとイネコが答える。

「ああ」

「大丈夫じゃ」

 いい返事だ。

 イネコはともかく、ナナコも視線を逸らせばシロクマが一気呵成に攻め込まれると本能的に理解しているのだろう。どうやら二人の方が、俺なんかよりもよほど闘いに向いているらしい。

 その二人が集中力を途切れさせられないほど、シロクマは強敵だということだ。たしかに、奴の全身を覆う毛の防除は鉄壁だ。だが、今はオームのおかげで、ぼんやりとだが攻略の糸口が見えた。

 そう、奴の弱点はおそらく……。

「なんだ、逃げたんじゃなかったのか? あのクソオウムは、どうした? ヤキトリを味わう権利は仕留めたオレにあるはずだぞ」

 ジッとシロクマを見つめていると、当の本人が話しかけてきた。そこに俺は違和感を覚える。こいつはずっと俺を無視していたのに、今さらなんの用がある?

 ただの煽り目的か? いや、頭に血がのぼっている状態ならともかく、今は冷静さを取り戻している。自らをエリートと言い、プライドが高そうな奴がわざわざそんなことをするだろうか?

 思えばこいつはオームにだけ反応していた。

 それはなぜか?

 俺やイネコの攻撃は無視していても、堅牢な体毛が勝手にシロクマを守ってくれる。だが、オームだけは空を飛ぶことが出来る。このメンバーの中で、奴の弱点に手が届く、唯一警戒すべき存在だったんだ。わざわざ二本足で直立してこちらを攻撃していたのも、自身の弱点を守るという理由があってのことだったのだろう。

 シロクマは一見粗野で乱暴者に見えるが、意外と警戒心が強くクレバーな奴なのだろう。余裕の笑みを浮かべながらも、その目は決して笑ってはいない。

「まっ、お前の方が食べ応えがありそうだ。安心しろ。今度はおいしくいただいてやるよ。もうお前を守ってくれる奴はいないんだぜ」

 何も答えない俺に、オームがもういないと判断したのかシロクマは口角を上げた。白い牙がキラリと光る。

「恐怖で言葉も出ないか?」

 ゲスな表情をしやがる。しかし、これで疑念が確信に変わった。

「もう言葉は必要ないだろう。お前は自分で言っていたじゃないか。『会話は対等な立場のもの同士がするものだ』と」

「!?」

 シロクマの眉間に深い皺が刻まれる。

「あんたは門番ゲートキーパーだったな。なら、あんたを倒せばこのビルのシャッターは開くはずだ。俺にとってあんたは、もはやこのビルの入り口を開けるための『鍵』でしかないのさ……。お前はただの鍵に話しかけるのか?」

「このオレを……倒す? 理解不能だ。たしかに、オレとキサマは根本的に住んでいる世界が違うらしい」

 フッとシロクマは笑う。

「ならば、同化することで、キサマに英知を授けよう。オレの腹の中で一つになるのを感じながら――眠れ!」

 地面スレスレ、地を這うようなアッパーカットが俺の鼻先をかすめる。

「悪いが謹んでお断りさせてもらうよ。俺はまだ誰とも一緒になる気はないんでね」

 俺が白い歯を見せて笑うと、シロクマは鋭いキバをむき出して怒りをあらわにした。


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