第三章 「鎖に繋がれしもの」 13
「あの日から、アタシはずっと自由になることだけを考えてきたのヨ。なのに、アタシはこの島から飛び立つことが怖かった……」
かすかに震えるオームを、俺は両手で温めてやる。
「それは仕方がないだろ。島から出ればオームちゃんの体内にある爆弾が爆発するんだろ? 誰だって怖いに決まっている」
オームは静かに首を横に振って否定する。
「アタシは、この島を自由を奪う小さな檻のように感じていたワ。でも、そうじゃなかった……。あのシロクマに立ち向かってみて、それに初めて気が付いたノ」
「分かった。分かったから、もうこれ以上喋るんじゃない」
俺の制止を振り切り、オームはなおも続ける。
「絶望し、飛ぶことを忘れたアタシはただ飛び続けた……。生きる目標をくれた大切な人を守るために……」
オームの体は徐々に冷たくなっているのに、
「そこに、檻なんてなかった。アタシをここに縛り付けるモノなんて最初からなかった……。アタシを見えない鎖で繋いでいたのは、自分自身だったのヨ」
発する言葉が徐々に熱を帯びていく。
「逃げる場所なんてどこにもない。ましてや、逃げることで自由は手には出来ない。そう……。自由はずっと自分自身の中にあったネ。この声も、羽根も誰かに与えられたものだけど、このココロだけはアタシのモノだった。だから、アタシは自分の心に従ったワ」
「だからって、あんな無茶をしなくても……」
「アタシが無茶したかったのヨ。大切な人のために、力を尽くして、自分自身を捧げる。それって最高に――自由ネ」
そう口にしたオームの顔は、俺にはすごく輝いて見えた。
「武蔵。あなたはアタシにこの島では見えない景色を与えてくれた。これからは、島のみんなにもそれを教えてあげて欲しい……。アタシの夢、武蔵に託すネ。あとは、任せたワ」
「ああ。みんなのことは俺に任せろ。だから、今はゆっくりと休んでくれ」
その言葉を聞くとオームは満足そな表情を浮かべ瞳を閉じた。
体はすっかり冷たくなり、今は微かな鼓動しか感じなくなってしまったオームをトリスタンに託す。
と、オームの口ばしがわずかに動いたので、俺は顔を近づけた。
「ブラック……。来てくれたのネ。やっと、あなたと同じ場所に、たどり着けたヨ。これでようやくアタシもあなたと一緒に……」
オームの全身から力が抜け、糸が切れた操り人形のようにガックリとうなだれている。
「オーム! おい、返事をしろ!」
ピクリとも反応しないオームに、俺は自身の心臓でも掴まれたように固まった。
「まさか……。嘘だろ……?」
恐る恐るオームの身体に触れようとした俺に、
「大丈夫、気絶しているだけだ。お前にはまだやるべきことがあるはずだ」
トリスタンは、シロクマと交戦しているナナコとイネコを示した。
「やるべきこと……」
そう口にした瞬間、オームの身体から赤い羽根がポロリと抜け落ちた。俺はオームへと伸ばしていた手でそれを掴んだ。
「たしかに受け取ったぜ。お前のココロ」
俺は自分が向かうべき場所を見据え、
「頼む。死なせないでくれ」
「任せてくれ」
トリスタンの力強い羽ばたきを背に、俺は駆け出した。




