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第一章 「犬と交わる」 4

「どうか落ち着いて見てください」

 ゆっくりと外されるベール。

 檻の保護犬たちの鳴き声が大きくなる。

 これまでに色んな事件を経験したので、ある程度予想外なものに対して耐性はついていると思ったが、俺は依頼者の顔から目を離せなかった。いや、既にベールを外す瞬間の手に違和感を覚えていた。コートの下の体が少し大きくなっているのにも気付いていた。

 ヘビに睨まれたカエルのように固まっている俺を前に、依頼者は続けてフードを取った。

 ゴクリと息を呑む。

 何度も瞬きをして、頭の『上の』耳を確認した。

 さらに依頼者がロングコートを脱ぐと、衝撃的な光景が飛び込んできた。

 Tシャツにハーフパンツ姿。衣服から伸びた手足は薄茶色の毛で覆われていた。手足どころか、全身、毛に覆われている。

 パッと見、全身毛だらけの人型の着ぐるみが目の前に立っている。

 その顔は、犬のように口が前方に突き出していて、頭にはピンと天に伸びた耳が左右に付いている。

 ハロウィンの仮装か? しかし、着ぐるみにしては小さく、依頼者の体にジャストフィットしている。

 特殊メイクの専門家がオーダーメイドで作れば可能かもしれないが、姿をカモフラージュするのに、わざわざそんなことをする意味がない。

 何より本能というか、人間の奥底にかすかに残った野生が、目の前の生物がヤバイものだと警鐘を鳴らしている。

 恐怖で足がすくむ。まるで猛獣の檻の中に入れられたような気分だ。

 思わず腰を抜かしそうになるのを何とか耐えた。が、無意識に、一歩二歩、後ずさる。ガシャンと、背中に鉄格子がぶつかった。

「どう……でしょうか?」

 そう問いかけると、依頼者なぜか恥ずかしそうに目線を落とした。

「何と言ったらいいか、言葉が上手く出てきません。念のためお訊ねしますが、それ、着ぐるみ、って訳では……?」

 依頼者が首を横に振るたびに、鼻の横に伸びたヒゲが揺れる。

 こんな生き物は今まで見たことがない。

 俺は夢か幻でもみているのだろうか?

 とは言うものの、映画やゲームなどの想像上、伝説上の生物だって、俺は見たことがないが、それらの絵や写真が存在している。一般的には実在しないとされているが、本当にいないと証明された訳ではない。可能性はゼロではないのだ。

 狼男、吸血鬼、雪女、人魚、ネッシー、ツチノコ……。あげればきりがないが、実は俺が知らないだけで、この世界にはそれらに類する希少な生き物が、人知れず存在しているのかもしれない。

「その……。旦那さんとお子さんも、何と言うか、あなたと同じような……」

「いや、二人は人間じゃ。旦那様は完全に、息子は私とのハーフになるので、純粋にとは言い難いのじゃが、それでも見た目と遺伝子的にはほぼ人間じゃ」

 さっき写真を渡したじゃろ? と依頼者は付け加えた。

 確かに写真の中の二人は普通の人間に見えたな。


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