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第三章 「鎖に繋がれしもの」 5

「このどこかに犬山博士がいるのか」

 俺は壁外の巨木に腰かけ、呟く。

 こうやって高い木から敷地内を見下ろして初めて分かったのだが、壁の内側には結構な広さがある。1平方キロメートルは余裕でありそうだ。

 敷地内には、背の高い2棟の建物を挟んで、平たくT字を描いて連なる工場のような施設が見える。他にもいくつか建物や倉庫らしいものも確認出来る。

「アタシたちはココで作られたヨ」

 興味深く壁内を観察していると、オウムのオームちゃんがそう口にした。

 今回の潜入作戦はオヤジが切り込み隊長となるので、俺はオームと一緒に作戦初動の成否を見守っている。万が一オヤジがしくじるようなことがあれば、俺が以後の作戦を引き継いで行動しなければならない。

 腕時計を確認すると、作戦の開始時間にはまだ早い時刻を示していたので、俺はオームに話を続けるよう促した。

「この島にいる動物はみんなあのプラントで作られているのヨ」

「プラント?」

「ええ。言わば、あそこは命を作る製造工場ネ」

 オームはだだっ広く敷地内を占有しているT字の建物を示す。

「今も遺伝子を組み換えた生物が生み出されているはずヨ」

 オームの話によると、研究員によって作成された遺伝子の設計図を基に、機械による流れ作業で動物を育成しているらしい。また、この島は基本的に自給自足が可能で、工場内で穀物、食肉、野菜が育てられているとのことだ。

「この島はある程度生態系も確立されていて、自家発電装置もあるので、この島だけで全てがまかなえる小さな世界なのヨ」

「なら、ここにいれば少なくとも食うには困らないってわけか……。だから、動物たちはこの島から逃げ出さないのか?」

 返事がなかったから、俺はオームの方へと振り返った。と、オームもこちらを見ていた。視線がぶつかり、互いに首をかしげる。

「そうじゃないヨ。アタシたちはこの島を出られないからここにいるだけネ」

「出られない? なんでだよ? その綺麗な羽根は飾りなのか? 島から飛んで行けばいいじゃないか?」

「ええ……。ブラック――あのカラスもそう言ってたヨ」

 そう言うと、オームは視線を遠くへ向け、ひとり語り出した。

「奴とは同じ孵卵器で育ち、同じ教育プログラムを受けたライバル同士だったネ。どちらが優れたチョー類か、共に競い合い、切磋琢磨したワ。やがて、ナンバーズの称号を得ると同時に、カラスは自身を『漆黒のブラック』と名乗るようになったヨ」

 って、中二病なカラスだな~。

「ブラックは研究所から出された課題を全て最速でクリアし、自身の能力を過信するようになっていったヨ。だから、奴が、『ここはオレの居場所ではない』と言い出すのも当然のことだったのかもしれないネ」

 ふぅ~っとオームは過去の後悔でも吐き出すようにため息をつく。

「広い世界で羽ばたきたい。自由な世界がオレを待っていると、奴は言ったヨ。アタシは、タカがカラスが何を言っているのかと思ったネ。でもネ、生まれた時からエリートとして育てられたせいか、どこかアタシたちには何かを変えられるんじゃないかとも思っていたのヨ」

「アタシ――たち?」

「そっ……。アタシもネ……。バカだった……。夢、みちゃったのヨ……。ブラックと一緒なら何かを成し遂げられる、世界を変えられる、なんてネ……」

 その丸く黒い眼が憂いを帯びている。

「アタシたちは施設を抜け出し、壁を飛び越えた。いつになく体が軽く、風さえもアタシたちを祝福していた。ブラックと一緒ならばどこまでも飛んでいける。そう思っていた……。だけど、海岸へと出てすぐにアタシたちの体に異変が起きたのヨ」

『ピーピーピー』

 近くでビープ音が鳴り、俺は何事かと自身の体を触って、スマホや電子機器を確かめる。しかし、それらが音を発しているようには見えなかった。

 と、「ピー、ピー」とオームが大きく口を開け、警告音を見事にマネしてみせる。ったく、驚かせてくれる。

「その音は島から離れるにつれ、速く、大きくなっていった。よくないことが起きる――そう直感したネ。だから、アタシはブラックに島に引き返そうって言ったヨ。でも、ブラックは、『オレは自由を目指す』と言って飛び続けた。その結果――」

『ボンッ』

 爆発音がやけにリアルで心臓が跳ねる。オームの声マネだと理解していたが、俺は辺りを見回して危険がないか確認してしまった。

「ブラックが破裂した瞬間のことは今も忘れられないネ。羽根を舞い散らせ、落ちていくブラックはアタシに『来るな!』と必死に叫んでいた。そうでなくてもアタシは怖くてその場を動けなかった。ブラックを助けに行くことも出来ず、アタシは……」

「分かるよ……」

 俺は震えるオームの体にそっと触れた。


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