第一章 「犬と交わる」 3
それから俺は、依頼を聞く際の決まり事として、大前田には席を外してもらった。見た感じ、部外者が聞いていいような依頼ではなさそうだからな。
女性は、「それでは単刀直入に申し上げます」と前置きをし、
「私の、夫と息子を捜すのを手伝って欲しいのです」
女性は斜に構えたままそう告げると、一枚の写真を差し出してきた。高そうな薄手の手袋をしている。
受け取った写真には、背の高い痩せた白衣の男と、歳の頃はまだ十にもなっていないような小さな男の子が写っていた。これが依頼者の夫と息子さんなのだろう。
意図をいまいち読み切れず、依頼者に確認する。
「それはつまり、旦那さんとお子さんが失踪、あるいは蒸発してしまったので、捜索依頼をしたいという意味ですか?」
女性はかぶりを振って否定する。
「二人は拉致され、連れ去られたのです」
拉致? そいつは穏やかではないな。だが、なぜ動物保護施設でそんな話を?
「なるほど、お話は分かりました。けれど、顔も見せない人の依頼を二つ返事で受けることは出来ません。それに、その話が本当ならば警察に捜索依頼を出した方が良いのでは?」
「失礼しました。仰ることはもっともです。だけど、私には警察を頼ることの出来ない理由があるのです」
頭を下げて謝罪の意を示す依頼者。
「どういうことです?」
顔を隠した依頼者。警察へ相談が出来ない理由……。何だかだんだんと話がきな臭くなってきた。
「それは……。私の見た目に原因があるのですが……」
なん……だと……?
その言葉に俺の心臓はドクンと跳ねた。
依頼者はよほど醜い顔の持ち主とでも言うのか? それとも自分の本当の正体を隠すための嘘か?
そんなことを考え、黙り込んでいると、
「やはり、私の正体が不明では依頼なんて受けられないですよね。では、探偵さんにだけ、私の姿をお見せしましょう」
依頼者がベールに手をかけた。
「心の準備はいいですか?」との問いかけに、俺は黙ってうなずいた。