第二章 「劣等遺伝子」 18
と、決意したのも束の間。俺はしばらく黙り込んでしてしまう。
名前を付けるって意外と難しいものだ。
普通なら産まれる前、母親のお腹にいる時から考えるんだろうが、急に言われてもパッとは思いつかない。
頭をフル回転させながら良い名前を考えつつ、そのはじっこの領域でオヤジもこんな風に悩みながら俺の名前を付けたのだろうかと考えてしまう。
果たしてオヤジはなぜ俺に『武蔵』なんて名前を付けたのだろうか?
理由を訊いたことがあるようなないような……。思い返してみても、『コンドームサシ』なんて叫びながら下ネタをかますオヤジの姿しか思い浮かばない。
何の参考にもならないので、やはり自力で何とかするしかないようだ。
二匹の特徴をイメージしてみる。名は体を表すとも言うので、名づけのヒントくらいにはなるだろう。
オスライオンはどこか頼もしいアニキのような風格で、ゴリラの方は無口だが実直で古き良き男といった感じだ。
ならば、これしかないだろう。
「命名! 『ニーニ』、そして、『ゴロー』でどうかな?」
俺は、オスライオンとゴリラを示して二匹の名を告げる。
言うまでもないが、彼らの番号の『22』と『56』をもじってもいる。我ながら安直な思考回路だと思うが、頭にそう浮かんだのだから仕方がない。
だが、二匹は「気に入った!」、「悪くない」とその名を受け入れてくれた。
それから、オスライオン――ニーニは「改めてよろしくな。パパ」なんて茶化し、今度は俺のことをあれこれと訊いてきた。俺もそれに素直に答えた。生まれのこと、オヤジとの暮らし、ナナコと体験した奇妙な事件のことを手短に話した。
何気ない会話を通して、俺は彼らと不思議な友情のようなものを感じていた。自分が名前を付けたせいもあるのか、二匹との距離がグッと縮まった気がする。
それは初めての感覚だった。
学生時代にも友や気の合う奴らがいたが、俺自身、どこか孤独を感じていた。クラスメイトに囲まれていても、楽しく話していても、自分だけ彼らと違うのだと言う疎外感の中にいた。けれど、ニーニやゴローと話をしていると、なぜか安心している自分がいた。
二匹との会話は、人とするものとは違い、素直で邪気がないというのも理由になるだろう。二匹とも俺と同じようにあやふやな存在だと言うのに、明るく前向きに生きている。そこに、俺はシンパシーを感じ、惹かれているのかもしれない。
いや、もしかすると、探偵業を通して俺自身が変わったのかもしれない。事件を通し、沢山の人たちを見てきて、誰もが俺と同じように孤独で何かを背負いながら生きていると知った。だからなのだろうか、他人の心を素直に受け入れられるようになったのは……。俺は誰かと深く関わりたいと思っているのだろうか……。




