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第二章 「劣等遺伝子」 17

 本来、本能だけで生きているようなライオンがここまで思考できているのだ。脳の構造もかなり発達しているのだろう。

「だけど、研究員でもないのに、色々と事情に詳しいんだな」

「まっ、自分のことだし、ある程度はな」

 オスライオンがニィ~と牙を見せて笑い、

「オレなんかよりも、さすがは森の賢人とも呼ばれるゴリラじゃ。凄まじい観察力だ。オレの知らないことが沢山聞けて興味深かったぞ」

 ゴリラの背中をバンバンと叩いた。

「そんなことはない。オレもまた聞きで得た知識だ。先輩ナンバーズのオラウータンがあの施設のことを色々と教えてくれたんだ」

「オラウータン……。まさか、20号さんのことか?」

 オスライオンの今までで一番の食いつきに、戸惑いながらもゴリラはうなずく。

「そうだが、あなたも、知っているのか?」

「もちろんだ。あの研究所の最古参。一番最初のナンバーズ。生き字引と言われた、20号さんだろ? オレも沢山世話になったからな」

 いい思い出でも見るかのように、オスライオンは優しい顔つきになった。

「そうか……。やはり、あなたが20号さんの言っていた、施設を脱走したライオンだったのか……」

 それから二匹はしばらくの間、楽しそうに思い出話に花を咲かせた。はたからその話を聞くにつけ、彼らが言っていたようにその暮らしがそんなに悪くないように思えた。

「その20号さんとやらは、ずいぶんと慕われているようだな」

「ああ。彼がこの島の秩序を保っていると言ってもいいくらいだ」

 そう言うと、ゴリラは20号さんの功績を話してくれた。施設内では良き兄貴分として皆をまとめ、施設外に放り出された動物たちのことに心を砕き、施設を脱走する時は、その手引きをしてくれたこと。

「しかし、最古参なのに20番なんだな。普通なら1番から始まりそうなのにな」

 うむ。とゴリラはうなずき、

「基本的にオレたちの番号は生まれた順にカウントアップしていくはずなのだが、20号さんが最初のナンバーズだと聞いている。それ以前はプロトタイプなのか、ナンバーズの運用自体が違っていたのか、そこまでは誰も知らないそうだ」

 また、オスライオンの話によれば、21番は欠番。以降、長い間成功例に恵まれず、次にナンバーズとして生まれたのが22番の自分だということだった。

 なるほどな~と相槌を打ちながら、俺は天を仰ぐ。

 そんな俺の様子を見てオスライオンが、「何か懸念事項でもあるのか?」とたずねてくる。

「いや、俺が人間だからなのか、その……、番号呼びに違和感があってさ」

 オスライオンとゴリラは互いに顔を見合わせると首を傾げた。

「オレにも当然、個――自分というものはある。だけど、オレたちは群れで生きているからなのか、あまりその辺は気にしない。『22号』と呼ばれれば自分のことだと認識するし、『おい』でも『お前』でも問題ない」

「そうか」と言いながらも、俺はやはり彼らを番号呼びするのは抵抗があった。

 そんなことを考えていると、

「なら、お主がつければよい」

「何をつけるって?」

「名前だよ。名前。オレたちの。その方が武蔵も都合がいいのだろう?」

「それはそうだけど」

「よし! 決まりだ!」

 と、俺の横腹に頭突きをするオスライオン。

「俺がお前の名前を? けど、俺はまだそんな年じゃ……」

 しり込みする俺の尻を、今度はゴリラの大きな手が叩いた。

「年は関係ないさ。オレたちは、武蔵に名付け親になって欲しいと言っているんだ。何なら、自分の子供が産まれる前の予行演習だと思えばいい」

 俺の子供なんて、全然想像がつかないが、そこまで言われては引き受けないわけにはいかない。俺の中にあるインスピレーションを駆使し二匹の名前を考える。


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