第二章 「劣等遺伝子」 16
「それで、あんたたちはどうやって、その『ナンバーズ』とやらになったんだ? 何か特別な訓練とかをやり遂げたのか?」
俺としては何となく口をついて出た質問だったが、ライオンとゴリラは共に真剣な表情に変わり進行方向へと向き直った。
しばらくそのまま歩を進めた後、ライオンが重い口を開いた。
「そうじゃないんだ。オレたちは特別な存在に『なった』んじゃない。最初から――。生まれる前からそうだったんだ」
ゆっくりと、噛みしめるようにゴリラはうなずき、話を引き継ぐ。
「そう……。オレたちは初めから特別な生き物として、作られたんだ」
そう言えば、オヤジが、『あの施設は遺伝子操作を行って究極の生命体を創り出す実験をしている』なんてことを言っていたな。
「それって、究極の生命体としてってことなのか?」
「おそらくそうだろう。オレはもっとも優れたゴリラとして遺伝子を設計され、生み出されたはずだ」
「それじゃあ、この島にいる動物たちは元々特別で最高な個体だったってことなのか?」
「いや、厳密にはそうじゃない。究極の個体を生み出すように遺伝子をデザインされていても、産み出した命が全部想定通りに完璧な存在として誕生するとは限らないようだ。確率の問題なのか、精子と卵子が受精する際、あるいは、受精卵が細胞分裂を繰り返す段階で想定外の変化を示すケースがあるらしい」
設計図通りには生命を生み出すことは出来ない。命は人が制御するには過ぎた代物ってことなのだろうな。
「実験動物は誕生後、すぐに遺伝子検査にかけられ、優秀な個体は固有の番号を付与され施設で管理される。しかし一方で、一定の基準に満たないと判断された個体は廃棄される」
「なるほど、施設の管理下にある優秀な個体がナンバーズで、森にいた多くの動物が廃棄されたものというわけか」
「その通りだ。そして、ナンバーズは施設内で特別プログラムを施され、知識や言語機能の拡張を行われる」
「だから、お前たちは人の言葉を話し、理解出来るのか。だけど、人間に近い類人猿のゴリラが人の言葉を話せるのは分かるが、発声の仕組みが全く異なっていそうなライオンまで話が出来るなんて凄いプログラムなんだな」
「はたして、そうなのかな?」と、オスライオンが鼻で笑う。
「所詮、オレたちは遺伝子操作によって生み出された実験動物でしかないのさ……。種、本来の潜在能力を大きく超えているオレたちは純粋種ではないのかもしれない」
「純粋種ではない? それはどういう意味だ?」
「オレの体の中には、元々ライオンが持っていない遺伝子が混ざっている可能性があるってことさ」
「つまり、遺伝子操作によって、単一種の遺伝子だけでなく、異種族の遺伝子を掛け合わせて命を生み出しているってことか?」
「それは分からない。たしかな証拠もない。だが、そうとでも思わない限り、我々の存在に説明がつかなくてな」
「そんな――」
バカな。とは言えなかった。
荒唐無稽な仮説だが、それを否定することも出来ない。動物園のゴリラやライオンが人の言葉を理解することは出来ても、話すなんてことは聞いたことがないのだからな。だとすると、彼らはゴリラやライオンに似た、何か別の生物の可能性だってあるはずだ。
俺はイネコに先に会っていたから、人語を理解する彼らをすんなりと受け入れられた。そういう動物がいてもおかしくないと思ってしまった。
だが、そもそも、イネコの存在はかなり異質だ。イヌのようでもあり、ヒトに似た姿にも変われる。そんな生き物を俺は知らない。彼女はきっと、イヌでもヒトでもない。それらと似て非なる別の生物だと考えた方がいいだろう。
イネコは、生前の自分の遺伝情報を使い、人工的に創り出されたと言っていた。もしも、イヌのイネコの遺伝情報だけを使って、命を生み出せば、イヌのイネコが誕生したはずだ。しかし、俺の知っているイネコはそうではない。
遺伝子組み換えとは、同一種の遺伝子をより優秀なものに差し替えるだけだと思っていたが、どうやら認識を改める必要がありそうだ。




