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第二章 「劣等遺伝子」 13

「そこまで!」

 成り行きを見守っていたオスライオンが声を上げた。

 ゴクリと息を呑む。そこにいた全員の視線がオスライオンに集まる。

「そなたの力、しかと見せてもらった。我らもお主に手を貸そう」

 それは嬉しい言葉だがどうも腑に落ちたい。

「けど、ナナコは勝負に負けたんじゃ……」

 いまだにメスライオンにマウントポジションをとられているナナコ。

 フッっとオスライオンは白い牙を見せて笑った。

「オレはただ、『力を示せ』と言ったに過ぎない。勝てとは一言も言っておらんぞ」

 そう言えばそうだ。

「いや、勝負としてもワタシの負けだ。ワタシは、最後までこの子の動きを捉えることが出来なかったからな。完全に遊ばれたわ」

 今度はメスライオンが複雑そうな顔をして言う。

「おかげでワタシのプライドはズタズタだ」

 そう言うと、メスライオンは大の字になったままのナナコの首根っこを咥える。

「だから、勝者を称えよう」

 と、宙にほうり投げると、自分の背中に乗せた。それから、神輿でも担ぐようにして、その場で跳ねるとナナコの勝利を称えた。

「しかし、なぜ、ワタシを攻撃しなかった? そなたの力をもってすれば、ワタシをのすくらい簡単に出来たであろう?」

「それはあなたが本気でわたしを攻撃していないと思ったからだ。あなたからは敵意を感じなかった。だから、わたしはわたしが出来ることをしたまでだ」

「そこまで分かっていたとは、小さいのに大した奴じゃ」

「それに、これから共に戦う仲間に怪我をさせるわけにはいかないからな」

 こともなげに答えるナナコの何に惹かれたのか、メスライオンは高くジャンプして喜びを露わにした。

「ボスよ。ワタシはこの子が気に入った。みなが従わなくても、ワタシだけはこの子のお供をするぞ」

 ナナコは口と目を丸くして、「おー」と驚きを表し、

「わたしもお前が好きになったぞ」

 馬乗りになりながらメスライオンにギュッとしがみ付いてハグをする。

 ナナコは元々純粋で人から好かれる奴だ。ライオンたちもそれを見抜いたと言うのだろうか?

 イチャイチャと仲睦まじい一人と一匹を見つめる俺に、

「どうした? 何だか納得言っていないという顔だな」

 オスライオンが訳知り顔で訊いてくる。

「彼女、いい子じゃないか」

「ええ……。まあ……」

 自分を褒められたような気になって照れてしまう。

「優しい子だ」

 俺は頷きながら、ポリポリと頬をかく。

「オレは人間が嫌いだと言ったな。人間はオレたち動物をただの道具としてしか見ていないと思っていたが、そうじゃない人間もいるんだな」

「あいつが特別なだけですよ」

 肩をすくめて見せる俺に、オスライオンは、「そうかな?」と相槌を打ち、

「オレたちにとって、仲間とはただ頼ったり、頼られたりする一方的な関係ではなく、互いを必要としている関係だ」

 声色が真面目なものに変わる。

「もしも、あの子が強力な武器か何かを使って我々を一方的に蹂躙していたならば、オレは自らの誇りをかけて抗っただろう。だが、あの子は自らの身、ひとつで力を示して見せた。我々と同じ土俵に立ち、対等な立場で相手をしてくれた。だから、オレはあの子を仲間として認めた。もちろん、あの子のいい人のお主もだ」

 俺がナナコのいい人? 何を勘違いしているんだか……。その言葉を否定しようと思ったが、また「力を示せ」なんて言われるのも面倒なので俺は黙っておいた。




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