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第二章 「劣等遺伝子」 12

 それからオスライオンと共に数匹のネコ科の獣がゴリラの話しに耳を傾けた。ライオンたちは言葉を理解しているのか、ゴリラの話しにうなずいている。

 ゴリラは、施設の襲撃について、実験動物を研究所から解放することについて、簡単に説明した。そのために、この森の実験動物たちを集めているの旨話をした。

「なるほど。話しは分かった。我らもいずれ奴らへと反旗を翻し、動物たち解放の機を伺っていた。そのためなら、オレたち実験動物が手を組むのには賛成だ」

 オスライオンはゴリラにそう告げると、俺とナナコへと視線を移した。

「だが、そこにいる人間に手を貸すのは素直にうなずくことは出来ない。オレたちは人間が嫌いだ。オレたちは人間の都合で生み出され、勝手に捨てられたんだからな。お主がなぜ人間に協力しているのかは分からないが、オレたちにはオレたちの流儀がある。我らを従わせたくば、力を示してもらう必要がある。それが野生の掟だ」

「その掟とやらに従うわ」

 大人しく成り行きを見守っていたナナコが、ない胸を張って自信満々に一歩前に踏み出す。

「何? そなたが……か?」

 オスライオンが自分の半分ほどしかないナナコの姿をいぶかし気に見つめる。

「ええ。わたしが、その力を示すわ」

 目くばせで、『わたしに任せておけ』とナナコが合図をしてくる。

 自分で言っておいてオスライオンはどこか煮え切らない態度をとっていた。

「なら、ワタシが確かめてやろう」

 と、一匹のメスライオンが木の上から飛び降りてきた。

 スッキリとしたフォルム、毛並みがとても美しいメスライオンが、ナナコの前を左右に歩く。優雅な立ち居振る舞いなのか、ハスキーな声なのか、理由ははっきりと言えないが、どこか艶っぽい雰囲気を醸し出している。

 ナナコもメスライオンに呼応して、ゆっくりと体を揺らし始めた。やがて、一人と一匹は、仕掛けるタイミングを伺っているのか、一定の距離を保って時計回りに円を描く。

 メスライオンは姿勢を低くして、いつでも襲い掛かれる体勢をとっている。

 かたやナナコは、ボクサーのように小刻みに体を揺らして迎撃する構えだ。ナナコの長い髪の毛がゆらゆらと左右に揺れている。それが気になるのか、メスライオンは髪をチラチラと目で追いかける。ナナコもそれに気付いたのか、自らの髪をひと房掴んで猫じゃらしの要領でメスライオンを挑発し始めた。

 ネコ科の習性に火が付いたのか、メスライオンは思わず揺れる毛先へと飛びついた。が、ナナコが毛を引っ込めて、それをかわす。

 差し出される髪の毛。飛びつくメスライオン。逃げる髪の毛。

 そんなやり取りが何度か続いた後、髪を狙っていたメスライオンがナナコの体を直接狙うようになっていた。だが、メスライオンの爪がナナコに触れることはなかった。

 ことごとくメスライオンの突進をかわし続けるナナコ。

 やがて、メスライオンは動きを止め、怒りをあらわにした。牙をむき出し、全身の毛が逆立っている。尻を上げて、クラウチングスタート姿勢になったと思ったら、ナナコ目掛けて猛スピードで突進した。

 瞬きをする間もなく、メスライオンとナナコの体が重なった。と思ったら、ナナコの姿が消え、メスライオンがその先の木へと衝突した。

 メスライオンの牙が木の幹に深く食い込んでいる。流石は百獣の王、ライオン。凄まじい威力だ。並みの動物だったら、一発でお陀仏だろう。ナナコだったら、かすっただけで致命傷になる可能性もある。ナナコの俊敏性は折り紙付きだが、そう何度もあの攻撃をかわし続けられるだろうか? そんな心配をよそに、当のナナコは涼しい顔で、背中を向けたままになっているメスライオンの体をわしゃわしゃと撫でている。

 身をよじらせて悶絶するメスライオンに構わず、手を止めることなくまさぐり続けるナナコ。

 と、苦し紛れに放ったメスライオンの後ろ蹴りがナナコを弾き飛ばた。その拍子に木の幹に食い込んでいた牙が外れ、メスライオンはナナコに追撃をかける。ナナコはそれを避けようとはせず、ただ黙って大の字になって天を仰いだ。

 ナナコの右肩を押さえつけ、メスライオンが覆いかぶさった。そして、ニィっと口の端を上げて鋭い牙を見せる。

 喉笛に噛みつかれる! 思わず俺は身をすくめたが、ナナコは右手を上げて、そっとメスライオンの鼻に触れる。それから、華奢な指をアゴ下に滑らせると優しく撫でてみせた。


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