第二章 「劣等遺伝子」 10
それから、歩くこと1時間。俺たちはようやく目的のエリアにたどり着いた。
先導していたゴリラは、ネコエリアの手前にある小さな丘の前で立ち止まっている。
ここが境界地点か。
何はともあれ、ゴリラがいてくれて助かった。
手のひらに乗せたコンパスがグルグルと回っている。どういうわけか、この島は磁気を帯びているようで持参したコンパスが役に立たない。俺とナナコだけではきっと迷子になっていただろう。
「案内ありがとう」
ねぎらいの意味も込めてゴリラへと水を渡すと、ゴリラの表情が少し和らいだような気がした。
ここから先は俺たちの仕事だ。
「先、イクぞ」
ナナコが俺の肩に触れるとネコエリアへと歩を進める。俺はその半歩後ろについて歩く。
ネコたちとの交渉は、ナナコがない胸を叩いて自分にやらせろと言うのでその意思を尊重することにした。まあ、ナナコの方が迷い猫捜しに慣れているから問題ないだろう。
ゴリラには俺たちに何かあった時のため、エリア外の物陰に隠れて貰った。万が一の場合は、オヤジへの伝令役だ。
ナナコがエリア内に入ってすぐ、一匹の黒猫が飛び出して、ナナコの足元にじゃれついた。
黒猫は機嫌良さそうに尻尾をフリフリさせている。
「いい子いい子」
ナナコがお腹をさすると黒猫はゴロゴロと喉を鳴らした。
「君はどこから来たのかニャ?」
語尾が猫言葉になっているナナコが微笑ましい。
「あなたのボスはどこにいるのかニャ?」
その言葉に反応したのか黒猫の耳がピンと立つ。次の瞬間、黒猫はナナコの手を離れて森の奥へと駆け出した。
黒猫の後を追いかけるナナコの尻を俺も追いかける。
と、ナナコが木の影から飛び出してきた茶色いモフモフと衝突して尻もちをつく。
ゆっくりと後ずさるナナコ。その視線の先には、メスのライオンの姿があった。
俺はメスライオンを刺激しないように忍び足で近づいてナナコを立たせてやる。辺りを見回すとネコに混じってライオン、トラ、ヒョウの姿が見える。
もしかしなくても、ネコエリアってネコ科のエリアという意味だったのか。そりゃ、ネコだけ集めるわけがないか……。
そんな悠長なことを考えている場合ではない。まずはこの状況をどう乗り切るかを考えなくてはいけない。
猫はともかく、ざっと見、大きな個体が10体は確認出来る。襲い掛かられた場合、俺とナナコだけでは対応が厳しい。
まだ取り囲まれてはいないので反転してエリア外まで逃げることだけは出来そうだが……。
半身振り返り、背後の様子を伺うと、ゴリラが何を勘違いしたのかこちらへ猛ダッシュして来た。
それから、ゴリラは俺とナナコの前に立つと、庇うように両手を広げ、
「オレたち、争いに来たんじゃない話し合いに来た。だから、この群れのボスに会わせて欲しい」
言葉を――話した……?




