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第二章 「劣等遺伝子」 8

 潜入前の合流ポイントと時間を確認し、俺たちはそれぞれ目的地を目指した。

 ジャングルのような森をひたすら歩いて行く。

 俺とナナコ。それを先導するゴリラが一匹。

 オヤジの指示で道案内として同行させてくれた。一番最初に俺たちに接触しようとしたゴリラだ。

 イネコの方には機動力重視ということで、霊長類で最も素早いと言われているパタスモンキーが同行している。犬猿の仲なんて言葉があるので少し心配だが、イネコならきっとうまくやってくれるだろう。

 にしても、どうやらこの島は赤道付近にあるのか、かなり熱い。

 昼になると日差しが強くなり、気温が上昇しているのが分かる。

 うっそうと生い茂る木々のおかげで直射日光を受けずに済んではいるが、蒸し風呂にでもいるかのように汗がにじむ。アゴ先から雫が落ちていく。ただ歩いているだけでもかなり体力を消耗していると実感する。

 腕時計に目をやると、既に13時を越えていた。腹時計もそれを理解しているようで、さっきから大きな悲鳴を上げている。

 と、チョロチョロと流れる小川にさしかかった。

 丁度いい。ここらで休憩しよう。

 その旨をゴリラに伝えると、ゴリラは大きな木の下へ腰を下ろした。

 どうやらオヤジから貰ったアニマルリンガルは機能しているようだ。

 ナナコはゴリラの側にレジャーシートを広げた。それから、リュックから取り出したバナナをちぎってゴリラに渡す。

 ゴリラは手にしたバナナを不思議そうに見つめた。それで何かを察したのかナナコは、自らが手にしたバナナの皮をむいて頬張ってみせる。

 ナナコをマネてゴリラもバナナを口する。瞬間、目が大きく見開かれたと思うと、ゴリラはバナナをむさぼった。

 ゴリラなのにバナナを食べたことがなかったのか?

 ナナコがもう一本バナナを差し出すと、それもあっという間に平らげた。だが、3本目は受け取らなかった。首を横に振り、拒絶を示した。

 もうお腹がいっぱいになったのだろうか? よく見るとゴリラは痩せていた。思えば、あそこにいたサルたちはみんな痩せていたように思う。多分少ない食料を分け合いあの群れは暮らしているのかもしれない。だから少食なのか? それとも他のゴリラに遠慮しているのか? いずれにせよ慎ましい奴だ。

 それから、ゴリラは木の幹に背中を預けて目を閉じて休息に入った。

 仕方がないので、俺はナナコと二人で食事にすることにした。と言っても、隠密行動中ゆえ、火が使用出来ないので、あらかじめ持ってきた携帯食料でのランチだが。

 味気ない食事をすませ、俺もゴリラのように目を閉じて休憩する。今日は長い一日になりそうだから、少しでも休んでおかないとな。

 目を閉じると、色んな音が聴こえてくる。木々のざわめき、小川のせせらぎ、草むらに潜む虫の音……。

 深呼吸すると青くさい森の香りが胸いっぱいに広がる。

 このままのんびりと昼寝でもしたい気分になるが、あまり気を抜いていては駄目だな。この森には遺伝子組み換え生物がいるのだ。動物の種類によっては一瞬で腹の中、なんてことになりかねない。

 それにしても、この島で生み出しているという遺伝子組み換え動物は『人類リセット計画』の一環なのだろうか?

 優秀な遺伝子だけを残す……か。

 増えすぎた人口、変わりゆく自然環境、限りある資源の中、劣等生を排除し、優れた種のみを生かすという思想は、極端だが頭から否定することも出来ない。

 自然選択説のように、現在の環境に適応できない個体はいずれ淘汰されていく。それが、遅いか早いかだけの問題だ。それなら、まだ資源が枯渇していない内にと考えてしまうのは仕方がないのかもしれない。


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