第二章 「劣等遺伝子」 7
「この子たちはここに捨てられたのよ」
「捨てられ――」
なぜか言葉の途中で俺の胸がズキンと痛んだ。
こいつらも俺と同じってことか……。
悲しく不安げな瞳がこちらを見つめている。
「誰が? どうして、そんなことを……」
「ここの施設の人間よ。この子たちが失敗作だからってね」
「失敗……作?」
「そう……。あの施設は遺伝子操作を行って究極の生命体を創り出す実験をしているのよ。満足のいく個体は施設内に置いて研究対象にするけど、出来の悪い失敗作はポイってわけ。施設外の森に廃棄することで、侵入者防止装置にしているつもりなんでしょうよ。けれど、この子たちには闘争本能や外敵への敵意はあまりないようで、アタシの話に耳を傾け、色々と施設内のことを教えてくれたわ」
サラッとゴリラと話をしているオヤジの凄さに驚愕する。それをオヤジに告げると、ここに来る前、富田さんに動物語翻訳ソフト――アニマルリンガルを作ってもらったとのことだった。
オヤジは、この島で密かに行われている遺伝子組み換え生物作成の噂を聞いて調査に訪れたらしい。で、事前に入手したこの島の画像にゴリラが写り込んでいたので、ゴリラの変装セットを用意して来たそうだ。
「当初、アタシの目的は違法な遺伝子操作実験の証拠を得ることだったんだけど、どうやら予想通りの結果だったみたい。あとは具体的な実験データを確保すれば当初の目的は完了できるんだけど……。アタシはこの子たちの現状を目の当たりにして、施設で行われている実験の即時停止と実験動物の解放を行うことに決めたわ」
「決めたって、そんなこと、勝手にやっていいのかよ?」
これはオヤジの個人的な任務とは言え、非人道的行為をすれば、俺たちコンビニ探偵の名前に傷がついてしまう。探偵なんてもんは言ってみれば、水商売みたいなものなので、その看板に傷がつけば、依頼客の足は遠のいてしまう。
「いいのよ。こんな離れ小島でコソコソと。自分たちがやましいことをしているって自覚している証拠よ。正義があるなら堂々と研究しているはずでしょ?」
そりゃあそうだろうけど……。
「それで、これからどうするんだよ?」
「まず、仲間を集めたいと思うわ」
オヤジは高らかに宣言する。
それからオヤジは、昨晩、施設に潜入しようとした時の失敗談を語った。
施設内の警備は鉄壁で、オヤジ一人での潜入は不可能に近いこと。施設の東西南北の門をそれぞれ霊長類、鳥類、イヌ科、ネコ科の遺伝子組み換えを行った実験動物が守護していること。守護動物のリーダーの強さはオヤジと同程度で、その取り巻きたちもかなりの力を持っていることを話してくれた。
「オヤジが潜入に失敗したイメージは出来ないが、かなり難易度の高い任務みたいだな」
「ええ。動物的直観? 嗅覚が優れているらしくて、どうしても発見されずに潜入するのは不可能だったのよ。無理やり侵入することは出来たでしょうけど、潜入後の任務を考えると、どうしても隠密行動をしないといけないし、まいっちゃったわ」
なるほど。施設に侵入されているのが分かっていれば、施設内での捜索が厳しくなるだろう。厳重警備の中、そうやすやすと研究データを盗むことは出来なくなる。
「だから、今度は陽動作戦でイクわ。手助けしてくれる動物たちが外で騒いでいる間にアタシたちが密かに施設に侵入するの。で、アタシは研究データを、武蔵ちゃんたちは犬山博士の救出を行う。どうかしら?」
オヤジの提案なら間違いないだろうと俺は即座にうなずいた。ナナコとイネコもそれに続く。
施設への潜入実行は、日没後。
その間、施設外の森に廃棄された実験動物を味方に付けることになった。陽動作戦は参加人数が多い方が潜入する俺たちの存在に気付きにくくなるからな。それに施設の門を守護している霊長類、鳥類、イヌ科、ネコ科の実験用動物はかなりの強さらしいから味方が多いに越したことはない。特にその4種は実験用に多く生み出されていて、廃棄された動物たちは森で群れを作っているらしい。
オヤジはその群れに目をつけ、まずは話が通じそうな霊長類へ接触し仲間に引き入れたそうだ。
残りは他の3グループ。
群れはそれぞれ島の東西南北のエリアに分かれて生息している。小さな島だが、乗り物なしで一周するにはかなりの時間を要するようで、俺たちは手分けしてそれぞれのエリアに出向くことにした。
その話を聞いて、イネコが自らイヌエリアへ行くと名乗り出た。
ならばと、ナナコがネコエリアに向かおうと続いた。それで、オヤジは自分が鳥類エリアへ行くので、俺はナナコに同行するようにお願いされた。
イネコは単独行動になってしまうが問題ないだろう。イヌの女王みたいな存在だ。この中で彼女が一番の適任だと思う。彼女が説得出来なければ他の誰にも無理だろう。
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