第二章 「劣等遺伝子」 6
おどけたようにニヤリと笑うオヤジ。俺も同じようにそうする。
「で、オヤジはどうしてこんな所にいるんだ?」
こんな絶海の孤島。何らかの明確な目的がなければやってこないはずだ。
「う~ん」となぜか言い辛そうにして、自分のではなく、脇に抱えたゴリラの頭をかいている。
「たしか、何かの調査に行くって言ってたけど、それがらみか?」
「まっ、そうなるのかしら?」
俺の質問を曖昧に返すオヤジ。
どうにも煮え切らない返答だ。オヤジが独自で調査している事件関係なのだろうか?
昔からたまに単独行動を行っていたオヤジだが、富田親子の一件以降、本格的に一人で行動することが多くなっていた。
あの事件の後、内緒で何をしているんだとしつこく問い詰める俺に、オヤジは詳しくは話してくれなかったが、「個人的な事件で、アタシはそれを解決するために動いているのよ」とだけ教えてくれた。
どうやら富田の入所していた研究所が、オヤジが昔から追っていた事件と何らかの関わりがあるようで、その手がかりをもとに事件の調査をしているとのことだった。
つまり、ここはオヤジが追ってきた事件と関係がある施設なのか? しかし、オヤジと犬山博士の拉致になんの関係があるのだろうか?
犬山博士が掴んだ研究所の秘密は、この世界の仕組みを変えるほどかなりスケールの大きいものだった。だとすると、元警察官のオヤジがそれを追いかけていたとしても不思議はない。いつもはふざけたオカマだが、今も悪をくじく正義の心だってあるはずだ。
だから俺は少しカマをかけてみることにした。
「オヤジ……。『人類リセット計画』って知ってるか?」
その言葉に、オヤジの顔が真剣なものに変わる。
「武蔵ちゃんがどうしてそのことを……」
やはり、オヤジもそれを知っている。ならば、互いに情報は共有しておいた方がいいだろう。
俺は自身が今回受けた依頼内容についてオヤジへと話した。イネコとの出会い、拉致された犬山博士、所属していた研究所の計画、そして、犬山博士奪還のためここまでやって来たことを。
「なるほどね。こんな偶然もあるのね。いえ、最初からこうなる運命――だったのかしら?」
「運命? それはどういう意味だよ?」
意味深な発言に俺はオヤジに詰め寄るも、「こっちの話しよ」とはぐらかされた。
「けれど、アタシと武蔵ちゃんの目的は同じみたいだから、少し手伝ってもらおうかしら?」
「オヤジの目的?」
「ええ。アタシはこの島で行われている研究に興味があってね。まずはあの施設に潜入する必要があるわけ」
と、オヤジは小高い丘にある大きな建物を見上げた。
「武蔵ちゃん達も犬山博士を救出するには同じよね?」
俺は黙ってうなずいた。
「だけど、アタシ一人ではアソコに侵入するには少し骨が折れてね。あの子たちに潜入の手助けをしてもらおうと思っていたんだけど、少し心もとなくてね。武蔵ちゃんが手伝ってくれるなら百人力よ」
「あの子たちって、あのゴリラたちのことかよ?」
さっきから気にはなっていたが、俺たちを取り囲んだゴリラは近づいてくる気配はないが、ジッと俺たちの動向を見ているようだ。
「そもそも、あのゴリラたちは一体何なんだ? この森に住んでいるのか?」
オヤジはかぶりを振る。そして、辺りに手招きすると、森の奥からゴリラたちが姿を現した。よく見ると、ゴリラだけじゃなく、オラウータンやチンパンジーらしき姿もあった。
その数、20匹ほどの類人猿がオヤジを取り囲んだ。




