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第二章 「劣等遺伝子」 5

 正直、予想外の展開に面食らってしまった。相手の意図が読めない以上、イタズラに刺激するのは好ましくない。それにたとえ目の前の一匹を退けたとしても、周りの奴らが黙っていないだろう。ここは大人しく相手の出方を待つしかない。

 もう既に、ゴリラは俺の体に触れられるほどの距離まで来ていた。

 ゴリラの右手が地面から離れ、俺の顔へと伸びる。

 ここはあえて体を触らせて、こちらに敵意がないことを示した方が良いのか? そんなことを考えていると、

「待てぃ!」

 森の奥から声がした。

 咄嗟に目の前のゴリラが後方に飛び退く。その直後、空からドスンと大きな黒い塊が降って来た。

 また、ゴリラだ。だが、今度の奴はさっきの奴より一回り大きい。

 のっそりとした動きでゴリラが立ち上がり、俺を見降ろした。

 明らかにさっきの奴とは貫禄が違う。180センチはあろうかという大男、いや大ゴリラだ。

 両手を組み、仁王立ちしている。さっきチラリと見えたが、背中には白く輝く毛を生えていた。シルバーバックというやつか? こいつがこの群れのボスというわけか……。

 しかしこれで、ようやく話の通じる奴に会えた……。

 ん? そう言えば、本当に言葉を、『待て』って言ってなかったか?

 人語を操るゴリラ、なのか?

 ゴクリとツバを飲み込む。

 まさかこいつもイネコのように遺伝子操作によって生み出されたゴリラなのか?

 人間の姿に代わることが出来て、人語を話すことも出来ると言うのか? だとすると、今までの俺の常識がことごとく覆っていくな。

 イネコがクンクンと鼻を鳴らして前に歩み出る。

「おかしいな。なぜか、こやつから武蔵とナナコの匂いがするぞ」

 そんな馬鹿な……。ナナコはともかく、俺にはゴリラの知り合いなんていないはずだ。

 俺は改めて目の前にゴリラを見上げる。

 デカい図体。完全にオスの雰囲気を纏っているのに、なぜかそこに女性的な母性が見え隠れしている。

 何よりこちらを見つめている目に懐かしいものを感じる。

 俺とナナコの匂いがする奴……。思いつくのは一人しかいない。

 半信半疑ながらも、スマホを取り出し、そいつに電話をしてみる。

 ブブブブと、目の前のゴリラからバイブ音がしている。

 やっぱり……。

 俺は確信を持って、ジト目でゴリラを見つめる。

「携帯、鳴ってるんじゃないか?」

 俺は携帯の呼び出しを続けたまま、振動を続けている辺りを指差してそう告げる。

 しばらく沈黙していたが、止まらないバイブ音にゴリラがたまらず木の陰に隠れた。

 と、手の中のスマホが通話状態になった。

『「あら~。武蔵ちゃん、お久しブリーフ。どうしたの?」』

 聴きなれた声が木の陰と、スマホ越しに二重に聴こえている。

「おぉ、オヤジか? 今どこ?」

 わざとらしくそんな質問をする。

『「え? 今、どこかって? アソコよ~。アソコ。アソコ。ほら、何て言うか、武蔵ちゃんが知らない秘密の花園ってやつ」』

 この人は何を言ってるんだ? すでにゴリラがオヤジだとバレてるのに悪あがきがひどいな。

 正体を隠したいならなぜ出てきたんだ? まあ、あのままの状態でいたら、どうなってたか分からないから、俺的には助かったと言えば助かったが……。

「ああ。アソコか。それなら知ってるぞ。すぐ近くなんで今から行くぜ」

 木の陰に隠れているゴリラの肩を叩く。

 スマホを手にしたゴリラに、「よっ」と挨拶する。

 そこでようやく観念したのか、「あ~あ。バレちゃった」とオヤジはゴリラの変装マスクを外した。


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