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第二章 「劣等遺伝子」 4

 と、突如、イネコの耳がピクピクと動いて表情を強張らせた。

「どうやら、ちょうど、目的地に着いたようじゃ」

 まだだいぶ距離はあるが、ヘリの進行方向の先に小島が見える。

 小高い丘の上に建てられた大きな建物。そこが犬山博士が連れて行かれた場所なのだろうか?

「じゃが、まずいことになったぞ。どうやら、ワシらの潜入作戦がばれたようじゃ」

「何ですって?」

 イネコがヘリのパイロットの通信を盗み聞いた話によれば、事前連絡のないヘリを上陸させることは出来ないとのことで、島に着陸すれば即拘束されるという話になっていた。

「パイロットはともかく、ワシらがこのままヘリポートに着陸するのは危険なようじゃな」

「なら、飛び降りましょう」

 俺は即座にそう言った。

「飛び降りるって、ここからか?」

 イネコは窓の下を見ながら確かめる。

「ワシはいいが、そなたたちはこの高度から飛び降りて無傷とはいかんじゃろ?」

「問題ありません。こんなこともあろうかと色々と装備してきているので」

 ナナコを起こして、バッグに入れてあったマントを取り出す。

「これは知り合いの技術者に作ってもらった衝撃吸収マントで、高所から落下した時にそのダメージをゼロにしてくれるものです」

 簡単に仕組みを説明しながら、俺を中心にして三人で身を寄せ合わせる。衝撃吸収マントを知っているナナコはともかく、イネコも素直に俺に従ってくれた。

 ヘリコプターの扉を開けて、着地地点を見ながら飛び出すタイミングを計る。

 小島の全長は分からないが、海岸から施設まではかなり距離がある。あまり施設に近い場所に降りて見つかるのも馬鹿らしい。施設を囲んでいる森に降りるのがベストだろう。

 ヘリが小島に差し掛かった所でみんなをマントを覆って、森の立派な木が立っている所目掛けてダイブする。空中に出た瞬間、マントが自動的に俺たちを覆って一塊の団子のようになる。こうなると中にいる人間にはどうすることも出来ない。もはや自由落下に身をゆだねるしかない。

 それから、ただ一つの球体と化した俺たちは森の木々をクッションにして地面に激突した。多少の衝撃を感じたが、予想通り激しい打ち身や骨折にはなっていない。他の二人も同様に無事なようだ。

 オヤジと俺でテストはしてあるが、三人での運用は初めてだったのでうまくいって良かった。

「ふぅ~」

 安堵し、自然と大きな息が吐き出される。ヘリコプターは何事もなかったように施設に向かっている。まぁ、パイロットは研究所の人間なのですぐに解放されるだろう。

 って、そっちの心配よりも自分たちの心配をしないとな。

 マントは光学迷彩になっているので、ヘリを脱出した時に、俺たちの存在を知られた可能性は低いと思いたいが……。

 何にしろ、連絡もなしにヘリがやって来たのだ。この島が何の施設か分からないが、警備の警戒レベルは引き上げられたはずだ。

 少し足元がふらつくが、急いで隠れられる安全な場所を探す必要がある。

 二人にその旨告げ、移動しようとする俺の行く手を遮るイネコ。

「動くな。すでに囲まれておる」

 何……だと……。警備や追っ手にしては早過ぎる。

 侵入者に対して即座に対応する必要があるほど、この島には何か重要な機密があるというのか?

 俺は慎重深く辺りの様子を探る。イネコの言う通り、俺たちを中心にして何かが息をひそめているのを感じる。

 それがゆっくりと、うごめいている。

 黒く、大きな――。

「ウホッ!」

 ゴリラ? が、一匹飛び出してきた。

 それを合図に、木の陰に隠れていた奴らがこちらを伺うように顔を出す。

 体の一部しか見えないが、どうやら俺たちはゴリラの群れに取り囲まれているようだ。

 と、最初に姿を現したゴリラが近づいて来た。

 四足歩行なので正確には分からないが俺よりも身長は低そうだ。しかし、筋骨隆々のがっしりした体格をしている。

「直接目を見てはいかんぞ」

 隣のイネコが小声で警告する。

 俺は息をゴクリと飲んでうなずく。

 野生の動物は視線を合わせた瞬間に、敵意があると見なして襲い掛かって来ることが多いからな。

 なおもゴリラは体を左右に揺らして、こちらににじり寄っている。

 一触即発な雰囲気が森の中に漂う。


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