第一章 「犬と交わる」 1
その日は探偵長のオヤジが別件の依頼で、相棒のナナコは所用で外出。俺はコンビニの二階にある事務所で一人、留守番をしていた。
今現在、抱えている依頼もなく、書くべき報告書もない、仕事が来るのを待っている、いわば開店休業状態。いつもは他に誰かがいるので、一人で部屋にいると何となく手持ち無沙汰になってしまう。
開け放った窓から、「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ~」や「トリックオアトリート」なんて声が聞こえてくる。
そう言えば、もうすぐハロウィンだったな。
秋風が前髪を揺らし、秋の匂いをかいで時間を潰す。
そんな気だるい午後を何とかやり過ごし、そろそろ業務時間も終了。相棒のナナコを迎えに行こうとしていた時、一本の電話がかかって来た。
電話相手はコンビニ探偵を営む俺たちには馴染みの人物だった。話を聞くにつけ、電話を通してではどこか要領の得ない依頼者に、俺は直接話を聞くため現場に向かうことを告げた。
ナナコに少し遅れる旨の連絡を済ませ、俺は先月購入したバイクにまたがる。
頬に受ける風が冷たい。
ジャンパーを着てきて正解だった。先週までは動いていればシャツだけで汗をかいていたくらいだが、急に寒くなったな。陽が落ちれば、なお更それを実感する。
襟を立て空を見上げると、綺麗なまん丸お月さまが浮かんでいた。狼男が変身するならこんな夜だろう。そんなことを思いながら、俺は依頼者の元へと急いだ。
そこに何が待ち受けているのかも知らずに……。