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第一章 「犬と交わる」 16

 それから俺たちは、手がかりを求め犬山博士の研究室を目指した。

 その道すがらいくつかの部屋を覗いてみたが、見たことのない動植物が保管されていた。やはり、この研究所では遺伝子組み換え生物の作成に成功しているようだ。そう言えば、ナナコの母親の怜子も同じようなことをしていたな。

 そんなことを考えていると、「ここじゃ」とイネコが呟いた。

 どうやら誰にも見つからずにたどり着けたらしい。ほとんどイネコのお陰だ。イネコの超人的な嗅覚が人の気配を察知し、侵入に安全なルートを教えてくれた。

 カードキーで扉を開けると、研究室は泥棒にでも入られたように荒らされていた。

「組織の人間がやったんでしょうか?」

「うむ。おそらく。連れ出された後、家探やさがしをされたようじゃ」

「まさか、犬山博士が秘密にしていた研究資料が持ち出されたんじゃ……?」

 だとすると、本人を生かしておく理由がなくなる。

 まずいな……。

 見た感じ、部屋にあったパソコンや棚の資料がなくなっているようだ。

「分からぬ。分からぬが……」

 難しい顔をするイネコ。

「そう言えば、ご主人に何かあった時のためにと――」

 ブツブツと何かを呟きながら、OAタップに刺さっていた埃防止のキャップを外す。キャップを分解すると、SDカードが出てきた。

「それは?」

「うむ。ご主人が自分の身に何かあった時にと研究データを密かに隠しておいたのじゃ」

 イネコは口の端を上げて笑うと、

「骨を隠すなら土の中ってね」

 言葉の意味はよく分からないが、俺は研究データの無事を知り、ホッと胸をなで下ろす。

 これで犬山博士が口を割らない限り、身の安全は保障されたと思いたい。

 と言うものの、息子を盾に取られている状況なので、そんなに猶予がある状況ではない。あるいは、押収されたパソコンから、データがサルベージされないとも限らない。

 結局の所、速やかに犬山博士の居場所を突き止める必要がある。

 その肝心の移送先だが、どうやって調べたものか……。

 この研究所の端末で関連施設の情報を調べようと思ったが、肝心のパソコンがなくてはどうしようもない。他の研究室へ忍び込むんで手がかりを捜すか? いや、こんな立派な研究所だ。セキュリティー面は堅牢さは担保されているだろう。

 うなりながら、俺はその辺にあったパイプ椅子を広げて腰を下ろした。


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