第一章 「犬と交わる」 13
夜風を切って山道を走る。
俺は、バイクを先導するように駆けているイネコの尻を追いかけていた。背中にナナコのぬくもりを感じながら。
無事、仏頂面のナナコを駅前のロータリーで拾い上げ、俺たちはイネコが生活していたという研究所を目指していた。
迷い犬保護施設『わんピース』を出てナナコの待つ駅までの道中、二人乗りしたイネコに『わんピース』に至るまでの経緯を確認した。
遺伝子組み換え米生産以後、組織への不信感から重大な秘密を知ってしまったイネコ。そのことは、もちろん組織側も把握していて、遺伝子組み換え米の提供を渋ったご主人共々、目を付けられていたらしい。
しばらく互いにけん制し合っていたのだが、本日の午後、イネコは麻酔銃で眠らされ、その間にご主人と息子が連れ去られたそうだ。しかし、麻酔の効きが悪かったのかイネコはしばらくして目を覚ました。ご主人を追いかけ、移送中のヘリに離陸寸前しがみ付いたが、途中で降り落されて、イネコはわんピースに転がり込んだという話だった。
俺はイネコにヘリが飛んで行った先を訊ねたが、どこに行ったかは分からないと答えられた。
イネコ自身、落下の衝撃でしばらく前後不覚状態になっていた。そのため、ヘリがどの方向に飛んで行ったのかも分からず、また、かなりの高度を飛んでいたためか匂いでヘリを追跡することも出来なかったらしい。
つまりは、ご主人がどこに連れ去られたかは、現状、何の手がかりもないという訳だ。
ならばと、俺はイネコとご主人がいた研究所へ戻ってみようと提案した。
研究所と『ワンピース』の延長線上にご主人がいる可能性はあるにはあるが、ヘリがどこまで飛んだか分からないし、進路変更をした可能性だってあるので、まずは小さなことでも行き先の手がかりを得ることが先決だと俺は判断した。
で、今、俺たちは研究所に向かっている、と。
それにしても、背中にしがみ付いているナナコがずっと無言なのが気になる。
一応、大遅刻の謝罪と、新しい依頼が入ったと伝えはしたが……。
もしかして、待たされ過ぎて怒ったのかな? って、ナナコに限ってそんなことはないな。多分腹でも減ってるんだろう。こんなこともあろうかと、好物のバナナを持ってきておいて正解だった。
出来ればナナコにもう少しフォローを入れておきたいが、前を走るイネコに付いていくので今は精一杯になっている。
全身毛だらけの犬形態のイネコの身体能力は大したものだ。暗い山道をライトもなしに爆走している。速さも犬の平均以上のスピードだ。こちらも法定速度ギリギリのスピードを維持していないと置いていかれそうになる。
これが、ヒトとイヌのハイブリッド種というものなのか? 確かに、オリジナルを越える能力を有さなければ、遺伝子組み換え生物を産み出す意味がないだろうから当たり前か。
にしても、ヘリの行き先は分からなくても、研究所へ戻ることは可能とは、これも犬の帰巣本能が働いているのだろうか?




