序章
俺は『運命』という言葉が好きではない。
だが、全く運命を信じていない訳ではない。運命が存在していないとも思わない。
俺にとって運命とは、一本道ではなく、いくつかの選択肢の中から自らの意思で選び取っていくものだと思っている。
今の俺は、自分で選んでこうなったのだと、今いる場所は、自分自身で選択しここにいるのだと、そう信じている。
それがコンビニ探偵として多くの依頼者と接してきて出した答えだ。
しかし、一方で、人は何か得体のしれないものに捕らわれ、操られているとも思う。
自分の意思ではどうしようもない、不自由な何かに繋がれている。
奴隷のように首輪をされ、鎖で繋がれ拘束されている。手足は自由に動かせるのに、自らの意思で自由にどこまでも行くことは許されてはいない。
そもそも人は、誰しもが繋がれて生まれて来る。
一番最初の繋がりは母親との繋がり。へその緒だ。
他にも、血の繋がりに遺伝情報。記憶、歴史、言葉、文明、技術、宗教、道徳……。自らを形成するための、多くのものと繋がっている。
その繋がりはある意味、姿の見えない支配者とでも言えばいいのか? 明確に自分の首輪を握っている特定の誰かがいるという訳ではない。
その中で俺たちは、もがきながら生きている。糸の絡まった操り人形のように……。
首輪に繋がった鎖を引っ張れば引っ張り返される。引っ張り返されば、また引っ張る。そうやって、自分が行動するたびに誰かを傷付け、傷つけられる。だけど、その先に誰かがいるという安心感も得られる。
自分が、一人ではないのだと思える……。
それが人の営みで、何がどう繋がり、どう影響しているのか明確には分からないが、お互いを支えることが出来るのが社会なのだろう。
俺にとって、その一番小さな繋がりは家族だ。
自らの生まれさえ知らない俺を受け入れてくれる、大切な人たち。
面と向かっては絶対に言うことはないだろうが、この繋がりだけは何があっても守っていきたい。絶対に手離したりはしない。
そう、思っていた。
だが、俺がそう誓っていても、その繋がりを全て引き千切る強い力がある。
この世界には、それまで強固に繋がれていた絆をたやすく断ち切るものが、たしかに存在している。
それは、絶対に避けられないもの。
生か? 死か? あるいは、神の悪戯か?
自分の意思とは無関係に、俺がそうなるように仕向けるもの。俺をその場所へと至らせるもの。
もしかすると、人はそれを『運命』と呼ぶのかもしれない。
そして、その『運命』は、一本の電話から始まった。
新章突入。
サブタイトルは、episode11です。
episode10は、episode9の裏のタイトル扱いという位置づけになります。
のんびり更新になりますが、よろしくお願いします。