第3話 スキルと魔法
御者席にユーリスが座り、ジェラルドが乗る馬車の両側をバッシュとレベッカが歩いて護衛する。
道中に話を聞くと、彼等はジェラルドの服屋で使う生地の買い付けの護衛として依頼され、ネフィエの街から片道3週間の掛かる目的地に行った帰りだという。
まだ荷馬車に人が乗る余裕があるから一緒に乗りましょうと何度もジェラルドに誘われたが、フレイは丁寧にお断りした。
来ている服にあれだけ興奮していたジェラルドの事だ。荷馬車の中で2人きりになってしまえば、抱きつきそうな勢いで隅から隅まで服を調べられるに違いない。
想像してしまってぶるりと震えていると、隣を歩いていたレベッカが心配そうにフレイの顔を覗いてきた。
「大丈夫?フレイ?もし体調が悪いなら、やっぱり荷馬車にのる?」
「いや!!乗らないです!!大丈夫!!」
荷馬車と言われてフレイは食い気味で断った。
「それよりも、レベッカさんたちは暑くないんですか?」
歩くごとに額に滲む汗を腕で拭きながら、護衛の3人を見比べる。
夏の様な暑い日差しの中、作業着を着ているフレイですら暑くて堪らないのに、手首まである服に革鎧まで着ている彼等の方が顔色ひとつ変えないのだ。
「付与魔法のおかげで暑くないわ」
「さっきジェラルドさんも言ってましたけど、付与魔法?ってなんですか?」
「えぇっ!?付与魔法を知らないの!?って⋯⋯記憶が無いんだったわね」
「ーーはい。昔のことで思い出せる事もあるんですけど、魔法?とか国とか街とか基本的な事はさっぱり」
「そうだったの。じゃあ、あたしが教えてあげる!」
レベッカに嘘をつかなければいけないことを申し訳なく感じていたフレイに、彼女は明るく笑いながらこの世界のことを詳しく話してくれた。
この世界は世界樹という大木を中心にそれを取り囲むように広大なガルムの森という樹海があり、さらにその周りに幾つもの国々が存在しているのだという。
彼等が今いる場所はガルムの森に沿うように南から北東向かって成るこの世界一の王政国家、アドリア王国の最南端だ。
そして、この世界には大気中にマナというものが存在し、それを体内に取り込むことによって魔法を使う事ができるのだそうだ。
付与魔法とは物に様々な効果をつけることを差し、レベッカたちが着ている服のように温度調節が出来たり、鞄にその大きさ以上の物質を収納できるようにしたり出来るようになるのだという。
「ちなみにあなたの持っているバッグにもその付与魔法が掛かっているわよ」
フレイが肩から下げた鞄を指差してレベッカは言った。
「これですか?さっきマジックバッグとか言ってましたけど⋯⋯」
「そうよ。ちょっと失礼するわね」
一言断って、レベッカは鞄のメインポケットに徐に手を突っ込む。出てきた手には、ここ数日バクが一緒に食べていた果物があった。
「ほら、小さい鞄なのに中にはこんなに沢山の果物が入ってるじゃない?」
(バクはあの時食べてたんじゃなくて、収納してたのか!!)
「果物なのにこの天気でも痛んでいないみたいだし、時間停止の付与もされているようね。時間停止の魔法が付与されたマジックバッグはとっても貴重なのよ。大切にね」
手に持った果物をそっと鞄の中に戻すと、レベッカはその美しい髪を耳にかけながら優しく微笑んだ。
「ッ!!!(レベッカさんが可愛すぎるッ!!)」
田舎に移り住んでから10年間。女性の会話といえば近所の婆さんたちと茶飲み話をするくらいだった彼にとっては、女神のような美しさのレベッカは刺激が強すぎた。
どきりと音を立てた胸を思わず押さえる。
「ーーそろそろ日も暮れる。この辺で野営の準備をしよう」
御者席が会話を聞いていたユーリスが街道脇に馬を進めた。
確かにあれからかなり歩いた気がする。美人とおしゃべりを楽しんだおかげか長時間歩いたにも関わらず、ほとんど疲れていない。
良さそうな場所に馬を止めると、彼らはテキパキと野営を張り始めた。フレイも焚き火用の枝を集めたりと、勝手が分からないなりに出来ることを手伝う。
野営を張り終え、食事の準備を始める。先程のブバリナという水牛のような生き物を串焼きにするそうだ。
何処からあの巨体を出したのだろうか?バッシュがブバリナを解体し始めている。田舎暮らしが長かったおかげで、鶏の屠殺は経験したことがあるが流石にあのサイズはグロい。
解体は手伝えそうになかったので、レベッカのナイフを借りて枝を削り肉に打つ串を作る。
横ではユーリスが集められた枝に向かって魔法を唱えていた。
「ファイア」
彼の放たれた掌サイズの火が木に燃え移り、あっという間に立派な焚き火なる。
「すげぇ!本当に魔法だ!」
関心するフレイに、ユーリスはまたも「フンッ」と鼻を鳴らした。
(ここが魔法の使える世界ってことは、俺も魔法が使えるのか?)
むくむくと湧き上がる好奇心を抑えられず、フレイはユーリスの真似をして片手を前に出して呪文を唱えた。
「ファイア!!!」
しぃぃぃん。と、あたりが静まりかえり、焚き火が爆ぜる音だけが聞こえる。
フレイの手からはピクリとも魔法が出る気配がない。
「「「あはははははっ!!!」」」
ユーリス以外の3人が腹を抱えて大爆笑しだした。3人の笑い声に、恥ずかしくてフレイの耳がカッと熱くなる。
(手じゃなくて、顔から火が吹き出しそうだ!!!)
「⋯⋯お前、本当に何も知らないんだな。人間が魔導具もなく魔法が使えるわけないだろ」
呆れたようにユーリスが呟いた。
「⋯⋯ 人間?⋯⋯ 魔導具?」
「あはは!!っはー⋯⋯!笑っちゃってごめんない!私がさっき説明しとけば良かったわね」
レベッカが笑いすぎて目尻に溜まった涙を指で拭いながら説明をはじめた。
「私やフレイみたいな種族のことを人間、馬人族みたいに身体のどこかに動物の特徴を持った人達のことを獣人と呼ぶのよ。それと、さっき体内にマナを取り込んで魔法を使うって言ったけど、私たち人間は他の種族よりもマナを取り込むのが苦手なの。だから、こうやって専用の魔導具を使ってマナを取り込む補助をしてあげる必要があるのよ」
レベッカは自分の腕に嵌めたブレスレットを見せてくれた。これが魔導具というものらしい。ブレスレットには青色の美しい石がキラリと輝いている。
魔導具というのは、人の手によって何らかの効果が付与されたアイテムの総称の事らしい。道中に説明してもらった付与魔法された服やマジックバッグもこれに含まれるのだそうだ。
「これをつければ、ほら。《ウォータ》」
彼女が魔法を唱えると、手に持っていたコップに透き通る水が満たされていた。
「どうぞ」と手渡されたコップの水を一口飲む。たった今汲んだ湧き水のように冷たくて美味かった。
「ただし、専用の魔導具を付けたからといって誰もが魔法を使えるわけじゃないの。人それぞれに魔法適性ってものがあって、その魔法適性にあった魔導具を付けて初めて魔法が使えるようになるのよ。マナを体内に取り込める容量も人それぞれ違うから、魔法も一日中無限に使い続けられるわけじゃないわ。因みに、私は水魔法の魔法適性が、バッシュは土魔法の魔法適性があるの」
レベッカがそう言うと、バッシュも腕に嵌めたガントレットを見せてくれた。ガントレットの甲の部分に透き通った茶色の石が埋め込まれている。
「それと、ユーリスは火魔法と、ちょっと珍しい雷魔法と光魔法が使えるのよ!|マナの扱いが上手な獣人の中でもユーリスみたいに2つも珍しい魔法適性を持っている人は中々いないのよ!」
「ふん⋯⋯エルフ族だったら俺よりも珍しい魔法適性を複数持った者など山程いる」
ユーリスは解体された肉に塩を振って串に打ちながら、さも興味が無さそうに答えた。
(エルフもいるのか!)
この世界に来た時の不安や喪失感は何処へやら。この世界の事を聞けば聞くほど、フレイの身体の奥底からワクワクする感情が溢れ出してくる。
「そういえば、ジェラルドさんは何の魔法適性があるんですか?」
フレイに話を振られたジェラルドは少し恥ずかしそうに頭を掻いた。
「フレイさんを笑ってしまった手前大変言いづらいのですが⋯⋯実は、私は魔法の方はさっぱりで。まぁ、我々人間は、魔法適性が一つもないなんてことは珍しい事では無いんですが。でも、スキルは持ってますよ!」
「スキル⋯⋯ですか?」
「スキルの話もしてなかったわね。スキルっていうのは、簡単に言えばその人持つ才能ね。魔法と違ってマナが無くても使えるの」
ユーリスが串を打った肉をレベッカが焚き火の周りに並べて焼いていく。
「私には《服飾》《デザイン》《目利き》のスキルがありましてね。そのスキルで服屋を始めたのですよ」
「かなりざっくりとだけど、ジェラルドさんのような非戦闘向きのスキルと、俺の《長剣術》やレベッカの《弓術》みたいな戦闘系スキルがあるんだ。まぁどんなスキルも、スキル保持者の使い方次第なんだが」
ブバリナの解体を終えたバッシュが空いたスペースに座り、肉の焼き加減を見ながら話に加わる。
「なるほどー。あ!じゃあ、昼間、この鞄を見ただけでマジックバッグだとか付与魔法がかかっているって分かったのってその《目利き》スキルの効果ですか?」
「いやいや!《目利き》のスキルはコレが売れそうだとか、こっちの方を使った方がいいとか、そういった勘が人より働きやすくなるスキルです。なので、《目利き》のスキルでは見ただけで、それがマジックバッグだなんて判断出来ませんよ。それがわかったのは、コレのおかげです」
ジェラルドは先程鞄を見る時に使ったモノクルをポケットから取り出して、フレイに手渡す。
「コレは《鑑定》のスキルが使える魔導具です」
真鍮だろうか。くすんだ金色の金属に縁取られたそのモノクルは、シンプルながら繊細な模様が刻み込まれている。
「これ、使ってみてもいいですか?」
「どうぞ」
受け取ったモノクルを通して鞄を見る。すると、突然フレイの視界の中に言葉が表示された。
【種類】マジックバッグ 大
【付与効果】空間圧縮、重量軽減、時間停止
「おお!!凄い!!見るだけでこんな事がわかるんですね!」
「俺たちも旅の中で《鑑定》の魔導具が必要になる事が度々あるから持っているんだ。ほら」
バッシュが見せてくれた魔導具はジェラルドのモノクルとは違い、望遠鏡のような形をしている。
木と真鍮の様な金属で出来ていて、伸縮可能なアンティーク調のデザインだ。手渡された望遠鏡をモノクルで覗いてみる。
【種類】望遠鏡
【効果】長距離視覚認識、鑑定、耐久性UP
「へぇー。おんなじ鑑定の魔導具でも形が違うんですね」
「あぁ。それに、俺たちのやつは距離が離れているものも鑑定することも出来るんだ。それでも、魔導具では《鑑定》スキル持ちに比べたら、わかる情報は限られているんだけどな」
「スキル持ちの人だとどんな事がわかるんですか?」
「魔導具だとその物の名前と簡単な詳細、例えばアイテムだったら今見てもらったみたいに付与効果がわかるし、この肉みたいなものだったら食べられるか食べられないかが分かるんだ」
バッシュが焼けた肉をみんなに手渡している。
モノクルと望遠鏡を2人にそれぞれに返し、串を一つ受け取ったフレイは、肉汁が滴るその肉にがぶりと齧り付く。
独特の獣臭がするが、久しぶりに味わう肉に歓喜した。
バッシュも自分の分の肉を食べながら話を続ける。
「だけど、《鑑定》スキル保持者の場合はそれにプラスして、詳しい詳細がわかるらしい。例えば、この肉が食べられるけど美味いのか美味くないとか。あとは、食べられない理由が食用に適していないだけなのか、毒を持っているから食べられないのかが分かるそうだ。」
「いいなぁ。《鑑定》スキル持ちって便利なんですねぇ」
「フレイもネフィエの街に行ったらスキルと魔法適性のチェックをしてもらうといい。あそこの街のギルドでやってもらえる筈だ」
「俺も鑑定スキル欲しいなぁ」なんてぼんやりと考えた時だった。フレイの目の前に文字が浮かびあがる。
【種類】ブバリナの肉
【詳細】魔獣ブバリナの肉。食べられるが独特の獣臭がする。肉質は筋肉質で硬い。
「ッウグッーーッッ!!?」
突然の事に驚いて、食べていた肉が勢い良く喉に詰まってしまい、フレイは苦しそうに胸を叩く。レベッカが渡してくれた水を急いで飲んだ。
(どういうことだ!?)
フレイは慌てて肩からかけている鞄の方をみた。
【種類】マジックバッグ(?)
【スキル】擬態、偽装、気配察知、危険察知、伸縮、斬撃etc...
【魔法】時空魔法、空間魔法
「ブーーーッ⋯⋯!?!?」
浮かんだ文字を見て、今度は口に含んでいた水を思い切り吹き出してしまった。
フレイが吹き出した水が肩にかかってユーリスがキレる。
「おい!汚いぞ!?」
「えぇっ!?大丈夫!?」
(これって俺が《鑑定》スキル持ちだったってことだよな!?でもなんで鞄の鑑定結果がさっきと全然違うんだ!?バッシュさんは詳しい詳細が追加されるだけっていってたよな!!なのに、スキルとか魔法適性とか何……!?
さっき雷魔法がレアって言ってたから、時空魔法とか空間魔法なんてやばい魔法なんじゃ無いのか!?スキルだってとんでもない数だぞ!?!?か、マジックバッグ(?)ってなんだよ!?!?!?)
レベッカが心配そうに背中を叩いてくれていた間、色々な思考が台風のように彼の頭の中をぐるぐると駆け巡っていた。
「す⋯⋯すみません。ちょっと焦っちゃって⋯⋯!」
「まだ肉はたくさんあるから、急がなくて大丈夫だよ。ーーそれにしても、やっぱりブバリナの肉は匂うな。肉が硬いのはまだ良いんだが、この匂いがな」
「そうね。この匂いだけでもなければもう少しマシなんだけれど」
「おや。バッシュさんもレベッカさんもブバリナの匂いが苦手ですか。実は私もあまり得意では無いんですよ」
「……」
顔を顰めながら肉を食べる3人を尻目に、ユーリスは革のマスクを外し匂いなど気にしていないかのように無言で食事を始めた。マスクの下にあったユーリスの顔は白く、一見すると女の子に見間違えるほど整った顔立ちだった。歳は10代後半だろうか。
ユーリスの素顔に気を取られていると、またも目の前に文字が表示される。
【名前】ユーリス
【種族】馬人族
【年齢】18歳
【スキル】狙撃、短剣術、蹴撃術、二刀流、回避、跳躍
【魔法適性】火魔法、雷魔法、光魔法
(…………!?)
今度は何も咽せることなく、声を上げるのを口を結んで耐えた。一度ゆっくり呼吸を吐いて、話を切り出す。
「あの・・バッシュさん?《鑑定》スキルって人のスキルや魔法適性なんかもわかったりしちゃって〜?」
「いや、流石に《鑑定》スキル持ちでもそんな事は出来ないよ。人のスキルをチェック出来るスキルなんてものは存在しないんだよ」
「スキルや魔法適性を調べるためには、特別な魔導具で調べてもらう必要があるのよ。その魔導具が失われた古代の技術で作られているらしくて、かなり希少で高価なんだって。だから、その魔導具は王都や大きな街にあるギルドにしか置いてないのよ。次のネフィエの街でスキルチェックできるなんて、フレイはラッキーね!」
「そうなんですか〜。へぇ〜!」
(じゃあ、これは一体なんなんだよ!?)
バッシュとレベッカの説明に、内心動揺しながら周りに座る他の人達へ、そっと目線を移す。
【名前】バッシュ
【種族】人間
【年齢】32歳
【スキル】長剣術、短剣術、体術、危険察知
【魔法適性】土魔法
【名前】レベッカ
【種族】人間
【年齢】25歳
【スキル】弓術、速射、短剣術、気配察知
【魔法適性】水魔法
【名前】ジェラルド
【種族】人間
【年齢】35歳
【スキル】服飾、デザイン、目利き
【魔法適性】なし
【名前】フレイ
【種族】人間、異邦人
【年齢】33歳
【スキル】栽培、鑑定+
【魔法適性】土魔法、水魔法、木魔法
(バッシュさんもレベッカさんもスキル強そ〜⋯⋯じゃなくて!!俺だけ異邦人って出ちゃってるし!?!?鑑定+ってなに!?これか!?人のスキルとかまで見えちまってるのってこの+の所為なのか!!?)
「もう一つ聞いても良いですか?スキルにランクってあるんですか?例えば!!!!例えばの話なんですけど、《鑑定》スキルだったら+がついて、普通の《鑑定》スキルよりももっと色んな事が分かるとか⋯⋯?」
フレイは動揺を周りに見せないようになるべく自然に話した。
「+?いや、スキルにランクはないよ。さっきも言った通り基本的に出来ることは同じだよ。どれだけ、その人がスキルを使いこなせるかで差が出るんだ」
(じゃあ、やっぱり俺の《鑑定+》っつースキルは普通じゃないんだ!!スキルチェック出来る魔導具も失われた古代の技術とかなんかヤバそうな事言ってたし、このスキルがバレたら大騒ぎになるんじゃ!?)
フレイが混乱で頭を掻きむしりたい衝動をなんとか抑えていると「そういえば」とレベッカが切り出す。
「ギルドでスキルチェックしてもらうついでに、ギルドに登録して持っている果物を買い取って貰うといいわ。お金を全く持っていないって言ってたじゃない?一日果なんて、特に高額で買い取って貰えるわよ!」
ユーリスがピクリと眉を動かしたことを、フレイは気が付かない。
「一日果?」
「そう。マジックバッグに入ってた黄色い果実のことよ」
フレイは鞄の中から黄色の果物を取り出す。それは、2日前に白い花とともに木に実っていたあの果実だ。
「そう、それのことよ。一日果は一日しか収穫できない果実って言われてて高価果実として取引されているの。果実とは言ってるけど、実はそれ花の蕾でね。蕾になって甘みが出ると次の日には花になって咲いてしまうのよ。だから、食べ頃をこんなにたくさん収穫出来ることなんて、なかなかないのよ」
「凄い量だな!たしかにこれだけの量の一日果があればかなりの金額になるだろうな」
「うわー!私、大好物なんですよ!羨ましいです!!」
「あら?ジェラルドさんも?ユーリスもコレ大好きよね!」
「⋯⋯」
わいわいと盛り上がる3人と表情を変えないユーリス。だったらと、フレイは幾つかの一日果を差し出す。
「これ、みんなで食べましょう!」
「えぇっ!?そんなの悪いわよ!」
「そうだ。金に困っているんだから、取っておいた方が良い」
「でも、俺、皆さんにお世話になってばかりだし。肉も分けてもらって食べましたし!それに、まだこんなにたくさんあるので大丈夫ですよ!」
鞄の中にはまだ大量の一日果が残っている。一つ幾らの価値があるのか検討もつかないが、高級果実と言っていたしこれだけあれば、きっとお金も大丈夫だろう。
「良いのか?なら、お言葉に甘えて」
「わーい!頂きまーす!一日果なんて、いつぶりだろう!」
「ありがとう。じゃあ私も頂くわね!」
各々が手を伸ばす中、一向に取ろうとにしないユーリスにフレイは一日果を手渡す。
「はい!ユーリスさんもどうぞ!」
「⋯⋯頂く」
静かに受け取った一日果を一口齧ると、それまで無表情だったユーリスの顔がふっと綻ぶ。
「んー!美味しいわね!ユーリス!」
「⋯⋯あぁ。美味い」
先程まで自分をずっと警戒続けていたユーリスが、少しだけ警戒を解いてくれた気がして、フレイはなんとなく嬉しい気持ちになる。手に持った一日果をぱくりと齧った。
(うん。美味い)
大好きな果物を食べると、先程までぐるぐると頭の中を巡っていた焦りや混乱がスッと晴れていった。
自分のスキルや、ギルドでのスキルチェックのこと。
不安な事を上げればキリがない。
(だけど、まぁ。なんとかなるだろ)
「みなさん、まだまだあるんで遠慮せずに食べてくださいね。他の果物もあるんで!」
フレイは笑顔で、もう一つ一日果を手に取った。
一日果はいちじくから想像したフルーツです。
普段食べているいちじくは蕾じゃないけど、花嚢という花の部分を食べているそうです。