第12話 フレイの決意
本日3話目の更新。
ちょっと短め。
ザックの魔導具店を出たその足でギルドに向かった。
「こっちの鑑定お願いします!!」
「ご依頼の相談ですね。こちらへどうぞ」
「買取代金はこちらです。ご確認ください」
女性たちの声がそこかしこから聞こえてくる。
ギルドの中では、今日も職員たちが慌ただしく働いていた。
ギルド奥のカウンター前に立ち、ギルドカードを提示して中のギルド職員に声を掛ける。
「すみません。フレイです。職業のことでちょっとお話が」
「あ!!フレイさん!!早速来てくれたんですね!!」
先日バッシュ達と来た時に対応してくれた、赤毛の女性職員がフレイの存在に気づくと、嬉しそうに彼の立つカウンター前に掛け寄って来た。
「あなたはこの前の」
「エミリーです!お仕事の事ですよね!?」
エミリーが食い気味に話かけて来るので、フレイは苦笑いしながら「そうです」と答えた。
「ギルド職員になるのを決心してくれたんですね!?」
フレイが来るのを心待ちにしていたのだろう。
カウンター越しにフレイの手を握り、まるで救世主現る!!というようなキラキラした目で見つめるエミリーに、フレイは申し訳ない気持ちになりながら言葉を続けた。
「その事なんですけど、折角誘ってくれたのにすみません」
「⋯⋯ ⋯⋯ ⋯⋯へ?」
まさか断られると思っていなかったのか、エミリーの表情が一瞬にしてぽかんとした表情に変わる。着ているブラウスも肩からずり落ちていた。
ふぅと大きく息を吐き出すと、フレイは真っ直ぐ前を見てエミリーに告げた。
「俺、冒険者になります」
「⋯⋯ ⋯⋯!?えぇ"ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!?!?!?」
束の間の沈黙の後、ギルド中にエミリーの声が響き渡る。皆が何事かとエミリーの方を振り向いた。
カウンターの中にいる別の女性職員に「エミリー!うるさい!!」と叱られても、彼女は今しがた聞いた言葉が信じられないのか、訳の分からない言葉を発しながら口をぱくぱくとさせている。
「冒険者っていうか、冒険者兼商人ですね。旅の中で手に入れたものをそのまま売ったり、料理して販売しようかと思って!」
エミリーは混乱したようにその場に立ち上がる。
両手で頭を押さえ、まるでフレイが発する意味不明な言語を必死に理解しようとしているようだった。
「ちょ、ちょっ、ちょっと待ってください!フレイさん!冒険者になるって、戦闘スキル何も持ってませんよね!?」
「ないですねー。でも魔法適性はあります」
「マナアクセサリー持ってませんよね!?」
「今はないですね。でも、手に入るツテが出来たので、なんとかなるかなって」
「料理スキル持ってませんよね!?」
「スキルは持ってませんけど、結構料理できますよ」
「魔物と戦うことになるんですよ!?」
「そっちもまぁ⋯⋯スキルはありませんけど、なんとかなります」
「死ぬかもしれないんですよ!?」
「死ぬのは怖いですけど、それ以上にやりたい事があるんで」
立ち上がったまま驚愕するエミリーに、フレイはにこりと笑って見せた。エミリーはその笑顔に力が抜けたのか、へなへなと椅子に座る。
「⋯⋯鑑定スキルがあるんですから、そんな危険な仕事しなくても生きていけるんですよ?ギルド職員だけじゃなくて、国や領主様に雇ってもらう事だって出来ます!っていうか、鑑定スキル持ちで冒険者なんて聞いたことありませんよ!」
他の冒険者もいるため、エミリーは声を顰めるがその口調は強い。彼女がフレイを必死に説得しようと試みるが、フレイの決心が揺らぐことはない。
「はい、それでもです」
「⋯⋯因みに、そこまでしてやりたい事とは?」
グッと力を込めて拳を握ったエミリーが、フレイを見据える。
「この世界を見てまわりたいんです」
フレイは一切の迷いなく答えた。
「俺、ここの街に来るまでにいろんな果物を見つけて、その度に凄く興奮したんです。街のマルシェでも見た事がない果物を沢山見かけて。世界にはこんなにも俺の知らない果物があるのかって思ったら、すげえワクワクして。俺の鑑定スキルを使って、旅をしながら果物を探してみたいんです」
バクに連れられてこの世界に来て、右も左も分からなくて不安だったのに、珍しい果物を見つけた時どうしようもなくワクワクした。ーー不安なんか吹き飛ぶくらい。
「果物だけじゃない。野菜も他の食べ物も。この世界には俺の知らないものがいっぱいなんです。もっと知りたい。もっと味わってみたい。それを使って料理して、その料理をみんなに振る舞って。美味いもん食って、みんなで幸せな気持ちになれたらいいなって。美味いもん食うと、みんな笑顔になるでしょ?」
バッシュ達と出会って自分の作った料理を美味いと言って貰えて嬉しかった。
モリスと出会って、自分の作ったもので人が喜んでくれる事の幸せを思いだした。
「そう思ったら、やっぱりいろんな街を自由に旅出来る冒険者が一番かなって」
自由にはバッシュ達のような力も技もない。
あの名も知らない2人の冒険者のように、魔物に殺されて死ぬかも知れない。
それでも⋯⋯
「くだらない理由って思われるかも知れないですけど、これが俺がやりたい事です」
レベッカはあの時言った。
ーーそれしか選択肢がなかった。
でも、今の自分は違う。
モリスみたいに農家になる事だって、エミリーみたいにギルド職員になることだって、料理人として雇ってもらう事だって出来るだろう。
選択肢があるならば。
自分がいちばんワクワクすることをやりたい。
だから、冒険者になると決めた。
「⋯⋯はぁぁぁあぁ。」
フレイの話を聞き終わると、エミリーは深いため息をついてカウンターに項垂れた。
「久しぶりの鑑定スキル持ちの人だったし、お金に困ってるみたいだったから、フレイさんは絶対にギルド職員になってくれると思ってたのに⋯⋯」
カウンターを指でくるくると撫でながら、涙目で呟くエミリーに、フレイは再度「すみません」と苦笑いした。
「んも〜〜ッ!!わかりました!決心は堅いようですので、これ以上はお引き止めしません!」
エミリーはムクリと起き上がり鼻を啜ると、フレイのギルドカードを受け取り何やら作業を始めた。
「ですが!冒険者は常に命の危険と隣り合わせです。任務中に万が一死亡したとしてもギルドは一切の責任を負えません。宜しいですか?」
「はい!」
「では、フレイさんの職業を冒険者・商人として登録させて頂きます」
カウンターの中でしていた作業を終わらせると、エミリーはギルドカードをフレイに手渡した。
ギルドカードには新しい文字が書かれてる。
【名前】フレイ 【職業】冒険者・商人
「これでギルドの本登録は完了です。これで自由に街の出入りができる証明書として使う事ができるようになりました。では、次に依頼の受け方についてご説明します。私について来てください」
エミリーが席を立ち上がり、ギルドのカウンター横のスペースに早足で移動する。
フレイも彼女の後に続いて行くと、そこでは冒険者達がギルドカードを装飾の施された大きな端末のようなものにかざしている。
「こちらにギルドカードをかざして頂くと、その方、もしくはその冒険者チームに見合った依頼が表示されます。フレイさんもカードをかざしてみてください」
端末はギルドカードのように上部が透明なガラスのようになっている。その右下にカードの形をしたスペースがあり、フレイはそこに自分のギルドカードをかざした。
途端に、幾つかの文字が透明な部分の奥底から浮き上がるように表示された。
・薬草摘み 報酬大銅貨1枚
・ハーブ採取 報酬大銅貨1枚
・ベリー摘み 報酬大銅貨1枚と銅貨5枚
「この中から依頼内容を選択して頂くと、詳細が表示されます。こちらの依頼内容ですと、報酬達成に必要な量と採取可能な地域の情報です。また、依頼未達成の場合のペナルティもありますのでご注意下さい。詳細を確認して依頼を受けるようでしたら、そのまま[依頼を受ける]の部分に触れてください」
フレイは迷わずベリー摘みを選択する。達成に必要な重さが書かれているが、表記がグラムと違いで分からなかったのですっとばし、依頼を受けた。
「フレイさん。ホントに大丈夫ですか?いくら鑑定スキル持ちでも、このベリーの蔓には堅い棘があって他の依頼よりも大変ですよ?」
「はい!その辺は大丈夫です!」
エミリーの心配を他所に「ベリー摘み楽しみだなぁ!」なんて一人はしゃぐフレイに、彼女は呆れたように注意する。
「⋯⋯ ⋯⋯。ちょっとくらい食べてもいいですけど、依頼内容より少なくならないように気をつけてくださいね?」
はぁぁ⋯⋯とまた一つ大きなため息をついて、他の仕事に戻ろうとするエミリーに、フレイは慌てて声を掛けた。
「あの!もし、依頼中に魔物に出会って倒した場合、ギルドに持ってくれば買い取ってもらえますか?」
「⋯⋯フレイさん?冗談抜きで死にますよ。戦闘スキルもマナアクセサリーもなく、どうやって倒すつもりでいるんですか?」
「もしも!もしもの話です!」
「倒せたら持ってきて貰えれば買取は出来ますけど、万が一魔物に出会っても死にたくなかったら絶っっっっっっ対に逃げてくださいね!?」
「はい!」
エミリーはフレイの肩を掴んで、必死な形相で彼に言い聞かせた。
もしかして心変わりして、ギルド職員になりたいと言い出すかも知れない。そんな人材をみすみす死なせてなるものか!とでもいうエミリーの心の声が溢れ出ていて必死だ。
「まぁ、フレイさんが依頼で行く場所は危険な魔物が出ることはほぼありませんが、そこより東の荒地には絶対に近づかないでくださいね!?」
「はいっっ!!」
「ぜっっっっっっったい!ですからね!!」
声を荒げるエミリーにフレイは背を伸ばしピシッに敬礼してから、ギルドを出た。
「さて、初依頼だ!行くか、相棒!!」
ギルドの扉前で気合を入れて、肩から掛けた鞄をぽんと叩く。その姿のまま鞄はもぞりと動いた。




