421 海馬
本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい
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異形からの襲撃を受け、まだ二日
この時間であろうと巡回する兵達は重装備の者が目立つ
二十四時間体制での警戒に警戒を重ねる状況下
交代制ではあるものの、昼でさえかなり冷える街中だ
人々は一層ピリピリしている様にも感じられる
そんな滅入ってしまいそうな空気を放つ王都内だが、今日もワイワイガヤガヤと騒がしいのは
我らが大聖堂
本日は主が帰還した影響であろうか、門から入口にかけてを二十人近い信者達?が占領している
運ばれて来た物から順に椀へと移す者、それを配って回る者
そして好き勝手に空気の読めない発言を交えながらも訪問客に寄り添い、その場を沸かせている
遠目で見る限りの絵面で言うのなら町内会規模の祭り
あまりにも賑やか過ぎる為、来る所を間違えたのでは?と錯覚を起こさせる有様だ
ソレを行っている主犯からすればそんな事、、どころか、何も考えていない訳で
出来る事をしているだけなんだが
しかし
この地道な恩返し
元の主『達』が望んでいた場所としては合格点に値する結果となり
のちに大きな武器となる事を当の本人はまだ知らない
そしてメインである
礼拝堂を抜けた奥の部屋では
「むぐむぐ むぐ mまぁとりあえず昨日こっち来る前の事なんだがよ」
書き殴られたメモをくしゃりと握り
厨房から顔を出したばかりの者に向け放り投げる
それを咄嗟に避け
「あっぶ、ってゴミですか? 刃物か何かだと思いましたって」
従者は床に転がった紙屑をしっかりと回収しゴミ箱へと入れた
くらいで
「え、いやいやいやいや、待って待って待って!? え こっち来る前の話ってギルドの話? ちょっと待って?急!!」
三十路がウザ目に慌てふためきだした
物語の主人公はたった今、ご要望であったドレッシングを作り終えた所だ
真剣に耳を傾けたい気持ちは非情に強いのだが、待ってくれ
ちゃんとリアクションがオーバーになっている理由があるんだよ
なんせ
目の前には桃色髪のギャルが居る
何故、此処に居るのか
、、そんな事など考えている暇が無い
このままだと完全に情報漏洩、なんとしても話を逸らさねばいけない状況って事だけは分かった
のだが
巫女からしたら「煩ぇな」くらいの気持ちなのだろう
冷めた目でチラリと見ただけで
「、、もぐもぐもぐ、ガーデンジジイから色々と聞いた」
駄々洩れが止まらない
(咀嚼も止まらない)
「えええええ!いや、え、続けんの? 待って?それって多分ジルバさんだよね 降格したの?」
反応が正しくない事は分かっているのだがしょうがない
名前出しちゃったけどしょうがない
だってツッコミを聞いてくれないんだからボケるしかないじゃないか
(ガーデニングだかマスターだかって呼び名だった気もするし)
そんな主役の気持ちなんていざ知らず
「んっくんっく! ん~? あ~あの爺か、戻って来たんか?」
主に話を振られていた鬼も呑気なものである
しかし、流石にこの状況
ヤバイと思った
その後に続くのは『どの件』だ!?
グングニルの件?
それとも神とか天使の話だろうか?
もしくは破滅とかの詳細!?
いや、ディーン王国を探った後なんだしそっち系かもしれない
脳が高速で回転するのが分かる
置いてけぼり感を喰らうとか、話を理解出来無いってのならまだ良い
けどこの二人の情報共有はこっち陣営にとってのブレイン、言うのなら全てが筒抜けになるって訳だ
だから
強引に勇気を振り絞り
手に持った調味料と卵の殻を一度机に置き
「待てよ!大事そうな話なんだよね? だとしたら、なんだけどさ」
身振り手振りを加えシエルの空いたグラスを手に取り
水を注ぎながら言ってやった
「食べながら喋らないの!」
大きめの声は多少反響した所でむなしく空を切り
エルフのマヨネーズと吸血鬼の持った皿だけが飛んだ
久々の主人公




