319 愛人
本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい
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「え?」
みたいな台詞もこの喉からは鳴らなかった
反射的な言葉でさえ出ないまま、一度大きく何かを飲み込んだ
ソレは間抜けな自分の中身かもしれないし
ただの空気だったかもしれない、、
ツインテールの少女でさえも割り込めないまま
当人が沈黙を破る
「あ? 何でそうなんだよボケ」
何らいつも通り変わらずの悪態、横になったまま迷惑そうな表情を浮かべている
それもその筈、しょうがない
シリアスな場面でも空気を読まず
目の前の幼女が巫女に向かい片手をひらひらと振り
並びで三番目に横になっていたエルフも後ろから覆い被さるかの様に覗き見ている
「、、見えてるっつの鬱陶しい、聞く気があんなら邪魔すんな あとお前はちけぇんだよ」
少し上の顔を軽く押し退ける
「聞く、聞いてるから大丈夫 大丈夫、眠くないのよ?」
「むあ で、でみょみきょ殿、本当か? 本当に大丈夫なのか!? 本当に眠く無いのか!?」
グズグズである
のだが
「体調の異常には気付いてらっしゃいますよね?」
従者は困った表情で続ける
「自分も頭の中を読まれていなかったら墓まで、いや、浄化されるまで隠し通すつもりの事をお話しするんです だからもう、シエル様も隠し事は無しって事で」
悲しそうに
爽やかな青年は、巫女様の従者は、、それでもしっかりと
苦笑いにならない様に
微笑んだ
・・・
「はぁーーーークソが なんだ?いつから気づいてた」
観念した様に上体を起こし
座敷のテーブル方面に四つん這いで向かうと酒を取る
「先月、シエル様が目覚めて ゼブラ様の手紙を読んだ日ですね 生死を彷徨ったんです普通の状態では無いでしょうけど不思議に思いまして」
「音読しろっつったからか? んっくんっく はっ、心配すんな大丈夫だっつの 現に今は見えてん」
「あの日シエル様は窓を見た後に状況確認をしました、そして何故か私の返答に疑問を持った、、恐らく 夜だと思ったんですよね?」
珍しく主の言葉を遮る
「、、、ちっ」
「だから咄嗟に手紙を隠したんです、シエル様に目の前で隠し事するとかひやひやしましたよ? 大分回復してますが正直どうですか? 最近の体調は」
「大分良い」
「フォメット戦だって大魔法なんか使おうとして! そうそう、聞いて下さいよ~ジンさんに渡した筈の魔宝具、ゼブラ様の布ですよ! それをシエル様ったらさらしにして巻いてたんですよ? どこに隠せば良いかを分かってる辺り本っ当にズルいですよね~」
(なんだろう)
(初めて巫女が口論で打ち負けた状況を見た気がする)
いや
口論なんかじゃないのか
「ドワーフの件もそうですが! せめて治す相手を選ぶとか」
きっと この二人の 『言わない事、言う事、、隠し事や嘘とか』を
「うるせぇよ、話が反れんだろうが もう良い、続けろ」
愛って言うんだろう
そう思った
そう思ったんだ
「駄目ですーそんな輩まで治すのが分かっていたなら自分も違うやり方を考え無いとじゃないですか! 人口の半分は変なのが居るってシエル様言ってたじゃないですか? もっと違うやり方」
「あーうるせぇうるせぇ ドラゴンの玉だって飲んだんだ今は問題無ぇ 次の話行けっつの、、大丈夫 だから」
分かっていた事だ
巫女が、、どんな生物を救うかなんて
だからこそ
気の毒な従者は深い深い溜息を吐いてから
純粋に微笑んで
次の話に移った
個人的には短くて長い感じの話です




