158 喪失
本作品は群像劇です、目線、日時にご注意下さい
12/14 12:10
先程までの空気が一変し族長を含め十数人のエルフ達が一斉に同じ方向を見た
痛い程に叫ぶ男の声、腹にも響く様な悲鳴を頼りに視線を動かす
それは族長であるラフィの後ろ
数秒だろうか、全員の動きが止まった
意味が分からなかった
何人かはその光景を目に後ろへとたじろいだ
それはあまりにも
残酷な絵面
血の気が引く
「バル!!」
やはりラフィが一番に動いた
飛ぶ様に前へ出ると剣を鞘から、、抜けず、躊躇いが邪魔をする
「くっ、うぅオルカ、スティル!奥を お願いだ 頼む!」
眼を見開いたままに眉を寄せ、歯を食いしばりながら声を上げる
ピタリと足を止めた族長
その口が台詞を言い終わるより前に横を通り越し、オルカが先を行く
「姫様は状況を見極め動いて下さい」
日頃その剣を持ち運ぶのはこの男だ
ここでは『全員を巻き込み兼ねない』事を分かっている
「いや、待てコレの原因は! オルカそっちは頼む、お前らはこっちに来い」
スティルは近場のエルフに声をかけ、オルカとは逆方向へと走り出す
「ううぅ、ぐっ うあああ」
モーズは自らの右足の裏から左太もも、それとは別に右下腹部を貫通する木の根を腰元の剣で切断し引き抜く
「ぐ、、ぶ お、王子ぃいい!」
両足と腹部の激痛に耐えながらもその目標を貫く根を捌いていく
のだが
ボゴ! ボゴン! ズドッ!
切っても切っても延々と
ボゴ! ボゴボゴ! ドン! バスッ!!
その根は集中的に
狙うかの様に、次から次へと
大切な人 その体を貫く
「やめろおおおやめてくれええ」
嘆願は叶わずに
刺さったソレの衝撃を受けてはまた別の箇所を貫通する
それはもう糸で動く操り人形の様に、無残に、、されるがままに
「くっ! えぇい!ままよ」
ラフィは剣を抜き、深く地へと突き刺し
「おおおおおおおお!」
自分を中心に勢い良くコンパスの様に回る
ゴゴ、ゴバアアァァ!!
割れた周りの地面からは赤い液体が噴射され、這っていたであろう木の根が次々と顔を出す
「やったか? うおおお!」
王子を貫く根の動きが止まり、オルカはその剛腕に任せ斧を振る
下部分を掻っ捌き
何本もの槍の束
いやもう一種の木となったソレはすぐには倒れず、7~8撃程してやっと横へと倒れた
「王子! 王子ぃぃ!!」
乱雑に絡み合い尖った先端部分がモーズの指、腕に刺さる、、がそんな事には目もくれず、原因を力一杯に掻き毟り、引き千切る
はっ はぁ はぁ はぁ
「う、うぅぐ 王子!?」
やっと見えたその顔、瞳、その口
「モ、、ズ ご、め、、、、、れ 」
事切れた
瞳に光は無く
全身からは今も血が噴き出し続けている
穴だらけのその身体
助かるはず等無い
一番大切な人の
あまりにも急過ぎるさよなら
最後はなんて言った?
何を 伝えようとしていた
頭が痛い
いや、皮膚が 全身が 痛い
怪我のせいではなく
目の前の事を否定したいのだが、、とにかく、伝えようとしていた事を汲むのに動かなくては、、、
それは義務感ではない
それは現実逃避ではない
ガンガンとする頭
涙が自然に流れる
口からは血を吐き、嗚咽交じりに王子へ、、王子の両手を目掛け、、掘り進める
ただ、ひたすらに
「はっ はっ はっ ぐっ ぅ げっ はぁ はぁ 腕 輪?」
無我夢中だ
力の入れ方さえ忘れ、爪、、いや、指の何本かがいった
王子の左手は右の手首を隠す様、守る様にその腕輪を覆っている
そんな
ちっぽけに見えた輪っか
そんな物
どうでも良かったのだが
モーズは腕の輪を丁寧に外し
その両手を抱きしめ
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
泣いた
ただ、ただ、、ひたすらに
言うべきことは何も言えないものなのです




